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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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意見の対立

 この世界の魔法は、基本的に四属性に分けられる。火、水、土、風の四属性で、それぞれ赤、青、黄、緑の色が対応している。魔力の適性は髪や目の色で知ることができ、魔石も色によって利用できる属性が限られる。

「防御魔法は、四属性に属さない魔法。色は白。使い手の多くは白い髪に紫の瞳を持ちます。また、この国の中で、独特な濃い白色の鉱石が産出される地域はかなり限られています」

 一つは、僕の実家であるストックデイル侯爵領。この国で発見された鉱石は全て此処から見つかっているという稀有な鉱山地帯である。他の領地の鉱石も、売りに出る前に一度はストックデイル侯爵領で鑑定されることになっている。

「白色の鉱石、特に、魔石として利用できそうな色合いの鉱石が産出される地域、と限定すると、該当する領地は一つしかありません」

「へえ、知らなかったな」

「知らない筈がないでしょう。その領地は、エルガー伯爵領の隣、ダグラス伯爵領ですから」

 西側の領地にしては珍しく水源が豊富な土地で、幾つかの鉱山とそこから流れ出る川以外に特に目立ったものはない領地である。隣の領地なのだから、知らないという事はない筈だ。

「そういえば、現エルガー伯爵夫人は、ダグラス伯爵家の出身ではありませんでしたか?」

「……それが何か?隣の領地同士で、婚姻を結ぶことくらいよくあることでしょう」

「おかしいですね。母親の出身地の特産品を知らないと、貴方は仰っていた」

 ある程度の家同士の関係は頭に叩き込んであるのだ。予想外の所から追及されたエルガー伯爵子息の目つきが鋭くなる。が、此処で引いてはいけない。自分を鼓舞するように、無理矢理笑顔を浮かべて対峙する。

「婚姻を結ぶといっても、無条件に結んだとは考えにくい。代々エルガー伯爵家は魔導士を排出してきた家。魔術道具の研究の為に、ダグラス伯爵領から鉱石を融通して貰っていたのではないでしょうか?」

 色味が薄かったりする場合、宝石としての価値は低くなる。それを研究材料としてエルガー伯爵家に譲る代わりに、魔法を扱わないといけない事態に対処してもらったり、金銭的な援助を受けたりと、取引材料としては十分だろう。

「その推理が事実だったとして、どうして今迄融通してもらっていた鉱石の価値を態々上げなくてはいけないのですか?そうなれば、研究材料を手に入れられなくなるだけだというのに」

「幾つか可能性は考えられますが、別に自身が魔石を購入しなくてもいい状況になるから、ではないでしょうか」

 防御魔法を組み込んだ装飾品が流通し始めた場合に、真っ先に頼られるのは、最初に製作した人物である。つまり目の前にいるエルガー伯爵子息だ。最初の注文がエルガー伯爵家に集中している間に、子息が他の家族や領地の魔法の心得があるものに作り方を教える。そうすれば、更に多くの注文を取ることができる。

「エルガー伯爵家で護身用装飾品の製造することが当たり前になれば、当然、発案者であるあなたの評価が上がり、研究を支援する人物も出てくるでしょう」

 そうすれば、材料費などは与えられ、成果物を提出するだけでいい。自身の懐を炒める心配はなくなるのだ。他人のお金で研究ができる上に、自身の領地も母の出身地も潤う。ついでに言うと装飾品製造の中心地がエルガー伯爵領に変われば、自身を馬鹿にした人物の家は少なからず不況に陥る。

「結果として、鉱石の価格が落ち着く頃にはストックデイル侯爵領を中心に回っていた鉱石市場はエルガー伯爵領とダグラス伯爵領を中心に回るようになっているでしょうね」

 周到な計画である。魔法の発展とか言いながら、自身が関係する領地の経済を潤し、嫌いなストックデイル侯爵家は黒魔術を掛けられて宣伝塔にされた挙句に主要産業を奪われていくのだから。鉱石に特化している領地の為、産業を奪われると侯爵から伯爵に落ちるかもしれない。

「……正直、何度か流されそうになりました。完璧な主張でしたね」

「それなりに時間をかけて計画しましたからね。気付かれるとは思っていませんでしたが」

「どうせ、気付かれたところで対処法はあるのでしょう」

 でないと、僕に対して此処まで話している理由がわからない。催眠魔法ではないだろう。あれは、この空間にいる人物の印象を薄くするだけのもの。僕に此処まで話したのは、僕がここから出ることができないからか、それとも記憶を消す方法でもあるのか。

「そうですね。対処法を考えていない訳ではありません」

「……僕が、その発言を聞いて大人しく従うと思いますか?」

「最初は考えましたが、貴方をエルガー伯爵領で雇うことで立場を保証する、と言っても靡かないでしょうからね」

 当然である。三男で、ストックデイル侯爵領での地位は殆どないとは言っても僕は実家を裏切る気はない。それに、正確に言えば僕は殿下の部下である。エルガー伯爵領で働く気はない。

「……ええ、絶対に、貴方に協力することはありません」

 真っ直ぐ瞳を見て言った瞬間、エルガー伯爵子息は右手を僕に向けた。


次回更新は1月8日17時予定です。

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