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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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八年前の出来事

 八年前、という時期について考えていると、クインテット嬢が、あ、と声を漏らした。何か思い当たることがあったらしい。

「八年前、というと、私達が七歳になった年ですか」

「丁度、候補の選定があった時期ですねぇ」

 僕が初めて王都に来た年だ。長男でもない限り、貴族の子供は貴族院入学まで王都に来る機会がないことが多い。

 僕は三男なので王妃様のお茶会がなかったら王都に来ることはない予定だったので、物凄く楽しみにしていた記憶がある。結局、その一年後は側近候補になったので王都で過ごす時間の方が長かったのだが。

「とはいえ、流石に規則の制定には関係ないと思うからね」

「そうですね」

 取り敢えず、重要なのは就寝時間が遅かった生徒が被害を受け、規則が制定されたのは8年前ということだ。その時に何があったかはわからないが、後から来たものなら追い出すこともできるかもしれない。

「基本的に、此処に居着いて10年経ってないならまだ対応できる強さかな……?」

「先生方が未だに問題が起きてから対処しているということは、難しそうですねぇ」

「そのあたりは、クインテット嬢の結果も聞いて考えよう」

 妖精たちは基本的に、自分の領域に侵入されることを嫌う。だが、貴族院が設立された方が先で、ベルナール伯爵令嬢についてきている存在の方が後から来ているなら、追い出すことは可能かもしれない。基本的には僕達人間の場所だということを示し、入って来れないようにすれば良いのだ。

「何はともあれ、相手が特定できないと追い出せないことは多いですからねぇ」

「名前で相手の行動を縛る、が基本だからね」

 魔物でも妖精でも悪魔でも、相手の名前を知ることは相手より優位に立つことにつながる。クインテット嬢の方を見ると、自信なさそうに図鑑を一度見て、口を開いた。

「悪戯をするもの、という条件だけで調べると、あまりにも数が多かったので、もう少し条件を絞って考えました」

「季節とかですか?」

「ジャック・オー・ランタンやジャックフロストは季節が限られますしね。流星群の時期に絞ったんですか?」

 僕が条件を尋ねると、ミフネ嬢も気になっていたようで、机に体を乗り出すようにして尋ねた。が、僕達の予想は外れていたようで、クインテット嬢は苦笑いしながら首を横に振った。

「いえ、条件は、季節ではなく時間です」

「時間……、夜、ということですか?」

「そうです」

 頷いて、クインテット嬢は説明を始めた。悪戯をする妖精の中で多いのは、怠け者やルールを破った者に罰を与える存在と、夜眠らなかったらやってくる、子供に言い聞かせるときによく登場する存在がいる。

「今回は、後者の存在に近いと考え、調べました」

「でも、わたしたち、子供っていう程の年齢ですかねぇ?」

「翌日の授業に問題が無いように早く眠ってほしい教師を親、課題等で夜更かしする生徒を子供と考えたなら、ありえなくはないけど……」

 僕達は子供という程の年齢ではないが、まだ成人していないことは事実であるし、教師も僕達が貴族院に在学している限り、保護責任がある。大きな括りで考えると、僕達は夜更かしをする子供に当てはまるだろう。

「私も子供と言うのは引っ掛かりましたが、その条件で調べていると、証言に合致する特徴を持った存在がいたんです」

 そう言って、クインテット嬢は僕達に図鑑を見せた。そのページには夜眠らない子供の前に現れるとされるものが書かれていた。

「シュヴァルツェマン、バブラス、レーズファスー・バゴイ、ボガート……」

「半分くらい、眠らない子供を攫って行くやつですねぇ」

「この中で、形が定まっていないのが、ボガートです」

 ボガート、悪戯好きの妖精。夜中にポルターガイストを起こしたり、物を隠す。常に悪さをし、何処にでもついてくる。夜中寝ている人に忍び寄り、悪戯をする。名前を付けてはいけない。今迄の情報と一致する。

「でも、本来は家に住む妖精ですよねぇ?」

「確かに、家に住むなら、ここより城下町の方が貴族の屋敷も多い筈……」

 一つ気になるのが、家に住む妖精、と言う点だ。僕達を子供、教師を親、貴族院全体を家として捉えているのかもしれないが、若干無理があると思う。それに、城下町には貴族の屋敷も多いのに、何故8年前に貴族院に来たのだろうか。

「……貴族の屋敷ばかりだから、かもしれない」

「殿下、どういうことですか?」

「8年前、候補を決めるお茶会があったことに関係しているのだと思う」

 貴族の屋敷と、候補が決まったお茶会。お茶会が終わり、候補が決まった後、僕達は王都に滞在する時間は長くなったが、他の貴族の子供たちはどうだっただろうか。

「……母上によってお茶会が開かれる前は、王都は、私と同年代の子供が多くいた」

 機会があれば殿下に会わせ、候補に選ばれるために、多くの貴族が子供と一緒に王都で暮らしていた時期があった。

「候補から外れた子供は、王都にいる理由がなくなって、領地に戻った?」

次回更新は7月28日17時予定です。

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