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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
179/200

発展の妨げ

 つい、勢いよく椅子から立ち上がろうとしたが、よく考えれば僕が座っているのは中央ではない。この話が終わるまでは、エルガー伯爵子息は宣言通り、僕に手出しをする気はないという事だろう。

「……僕を使って何をしたいのかは理解しましたけど、僕本人を触媒にした場合、兄ではなく僕に黒魔術の効果が発揮されるのでは?」

「ああ、その事ですか」

 血縁を辿って、と言われても、僕を使って兄を呪うのなら、もう一人の兄や父、母に呪いの影響が行く可能性もある。正直、血が繋がっていること以外は全く今回の件と関係ない僕を利用しようとするくらいなので、恨んでいる相手の家族がどうなってもいいという性格なのかもしれない。

「こういう手段を取っている時点で、信用はないと思いますが、その辺りは正確に個人を狙うことができますよ」

「本当に信用はないですけどね……」

「あの三人はそこまで器用なことができなかったようですが、魔法陣に工夫をすれば特定の個人に魔術を収束させること自体は可能ですよ」

 本人の性格は全く信用していないが、魔術の実力は確かなものだろう。個人に魔術を収束させること自体は、他の魔法でも利用できる技術なので方法が確立されていても不思議はない。

「で、一対一で話したかったこととは何ですか?」

「せめて、何故黒魔術を使おうと思ったのかを知りたいかと思いまして」

 他の人がいる時では駄目だったのだろうか。まあ、兄の失敗を他の家の人に知られない方がいいという配慮なのかもしれない。そんな配慮をするくらいなら黒魔術を使うのをやめてほしい所である。

「最初に言っておきますが、確かにストックデイル侯爵子息、というとわかり難いですね。貴方の兄である人の言動に対し、私が恨みを感じたことは事実ですが、今回、黒魔術を使用するに至ったのは私怨のみによるものではありません」

「え、そうなんですか?」

 当時の状況を全く知らないが、生まれてからずっと次男として、長男を諫める役割を課せられてきた兄はお世辞にも愛想は良くないし言い方も優しくない。他人に対しては身内に比べたらまだマシだが、エルガー伯爵子息からしたら考えられないほど雑な扱いを受けたと言われても仕方がない。

「何故そこまで驚くのかな?」

「いえ……」

 正直、私怨だけで黒魔術を使おうと思った、と言われても別に疑問はないのだ。同じ次男とはいえ、幼少期から魔導士塔から注目されており、実家の教育方針が違う彼からすれば屈辱的だったのかもしれないので。

「確かに彼の言動は酷いものでしたが、最も許せなかったのは、魔術道具の価値を否定したことです」

「正直、当時の状況は掻い摘んで聞いた程度なので、詳しく説明して頂いても?」

 当事者の意見、しかも一応被害者側と思われる意見だけだと、視点がかなり偏ってしまうが聞かないよりマシだろう。兄からも話を聞いておけばよかった、と思うものの、手紙を出したところで返事は返って来なかっただろう。

「昨年の卒業式前に、貴方の兄が行った鑑定については聞いていますか?」

「とある貴族令嬢の誕生日プレゼントにする予定だった、装飾品として身に着けられるうえ、魔術道具として作ったものを兄が鑑定したと聞きました……」

 エルガー伯爵家は西側の領地。関わりがある貴族令嬢で、アメジストを選んで送るとなると候補がかなり絞られるというか思い当たるのは一人である。王宮教育のお陰で節点のある彼女の口から魔術道具の話題が上ったことはないので、多分、その件については貴族院内で箝口令が敷かれているくらいの事だったのだろう。

「そう。彼は事情も知らず、ただ装飾品を見て、『魔術的価値は知らないが、少なくとも、その石では上位貴族の女性が装飾品としては到底身に着けられないだろうな。瞳の色と一致しているだとか、特別な人に貰っただとか、理由が無ければ不可能だ』と言った」

「そ、そうでしたか……」

 最後の一言以外、僕の予想通りの台詞だったようだ。というか、発言内容から察するに、兄は恐らく誰に渡す為のものなのか分かったうえで言ったらしい。本人としては、もう少し色を調整して瞳の色に寄せれば使えるのではないか、という助言のつもりだったのだろうが、多分伝わっていない。

「彼女は実用性を重視する女性だ。そんなことを気にするとは思えないが、人目が多かった。目利きに定評のあるストックデイル侯爵家に否定されたようなものを贈るわけにもいかない」

「その結果、魔術道具として魔導士塔に提出し、保管されている、と」

 幸い、装飾品サイズの魔石でしっかりと効果を発動するという事で、魔導士塔からの評価は良かったらしいが、伯爵子息としてのプライドはかなり傷付いたようだ。

「最も許せない点は、彼が装飾品としての価値と魔術道具としての価値の両立を否定した結果、類似研究を行っていた魔導士が研究を辞めたことだ!!」

 つまり、魔術発展における妨げになったと、エルガー伯爵子息は言った。


次回更新は1月5日17時予定です。

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