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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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突破の難易度

「一つだけ補足をするとすれば、テーブルに描いてある魔法陣の効果はあくまで催眠魔法を発動させるためのものです。この空間を維持している媒体は別に保管していますよ」

「つまり、テーブルの魔法陣を何とかしたところで全ての解決はできない、と」

 何の対策もなく見せびらかしてきたわけではないようだ。それにしても、ミフネ嬢の推理力は相変わらず素晴らしい。この魔法陣を何とかすれば、外にいる人たちは僕達の事を思い出すはずだ。

「下手なことはしようと思わないことだよ。君たちは自力でこの空間から出ることはできないのだから」

 空間の制御権を持っているのはエルガー伯爵子息だ。空間維持の魔法については何もわかっていないので、無事に外に出たいのならば大人しくしているしかない。

「敢えてわたしに推理をさせたのは、強硬突破しようという発想をなくすためですね?」

「……魔法陣について理解すればするほど、解除の難しさを理解することになる」

「戦いにおいて、相手の戦意を折ることは最も有効的ですから」

 ミフネ嬢、僕、クインテット嬢で目を見合わせる。どうやってこの状況を突破するのか。幾ら絶望的な状況でも、僕達に諦めるという選択肢はないのだ。とはいえ、取ることのできる手段は限られているが。

「エルガー伯爵子息。作戦タイムを要求します!!」

 ミフネ嬢が右手を真っ直ぐに挙げ、エルガー伯爵子息に言った。予想外の行動だったのか、目を丸くして一瞬固まったが、すぐに平静を取り戻して笑顔を浮かべた。

「時間が経てば経つほど君たちが不利になるという事を理解したうえでの行動なら、此方としては構わないよ」

「はい。それじゃあ、作戦会議しましょう」

 僕達が不利になるだけで、相手には特に影響のないことだったのであっさりと許可が下りた。ミフネ嬢が円になるように手招きをし、少し後ろの方に待機して貰っていたフィッシャー辺境伯爵子息と殿下も合流して作戦会議を始める。一応相手に聞こえないように、ヴィヴィア先生に教えて貰って僕が防音の魔法陣を使う。

「ミフネ嬢、作戦会議と言っても、何か考えはあるんですか?」

「幾つか方法を考えたので、可能かどうかだけ答えてください」

 流石ミフネ嬢。あの遣り取りの間に突破方法を考えたらしい。とはいえ、理論上可能かもしれない、程度の事なので実際にできるかどうかは今から確認するようだ。

「最初に、強行突破する方法です。魔法陣の効果は貴族院の中だけだと言っていました。ですので、ヴィヴィア先生は記憶の改竄の影響を受けないように魔法を張ったまま貴族院外に出て、援軍を呼ぶというものです」

「無理だな」

 即座に否定された。理論上は可能だが、流石に魔力が足りないらしい。この空間から脱出するところまでは良い。しかし、此処は貴族院の中でも中央に近い場所だ。走って外に向かったとしても途中で防御が途切れるし、移動魔法を使う余裕もないとのことだ。

「先生の見立てでは、どのくらい魔力が必要なんですか?」

「最難関は無事に空間から脱出することだ。まず、空間に穴をあける。そこから空間の外側に移動するまで穴を維持しつつ、移動中に体に悪影響が出ないように防御する必要もある。人一人通れる穴を作る段階で、フィッシャーの魔力の半分は使うだろうな」

「え……」

「穴の維持をするとして、半分通る頃にはフィッシャーは限界だろう」

 火属性魔法の使い手で、魔力も豊富、威力も学年屈指の実力を持つフィッシャー辺境伯爵子息でも、穴を開けて維持をするのは不可能なようだ。因みに、防御に関しては、ミフネ嬢が一人で全員分防御できるかどうか、という事だ。

「当然、エルガーによる妨害が無い場合の魔力だ。背後から魔法を撃たれたり、空間を制御されて穴を塞がれたりした場合は更に消費魔力は増える」

 重たい沈黙が流れた。僕とクインテット嬢、殿下も魔法を使ったところでこの問題は解決しないだろう。

「……因みに、最悪の手段は、モミジさんを残してわたし達は戻って、先生だけでも記憶を維持して助けを呼んでもらう作戦です」

「成功率は一番高いですが、モミジ様は援軍が来るまで自力で身を守るしかない上、この空間に戻って来られなかったら助からない作戦です」

「殿下の安全が最優先ですから、何かあったらこの方法を取ります。モミジさん、いいですね?」

「はい、勿論」

 覚悟の上である。そう簡単にやられる気はないし、見捨てられるとも思ってはいないが、相手との実力差やこの空間の状況を考えると、助かる見込みは低いだろう。

「他の方法は?」

「相手の魔法をどうにかして解除する方法ですが、空間の方がどうにもならない以上、先手を打たれる可能性が高いですよ」

 空間を制御している魔法陣が何処にあるのか分かれば話は別ですけど、とミフネ嬢が呟く。ちらり、と相手の様子を伺うが、僕達の話を聞こうとするような素振りはないものの、不審な動きをすれば直ぐにでも魔法を撃てるだろう。

次回更新は1月1日17時予定です。

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