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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
174/200

ミフネの推理

「記憶の、改竄……?」

「実に厄介な効果を付けたものだ。余程計画を練った上での犯行だったようだな」

 ヴィヴィア先生の眉間の皺は深くなる一方だ。効果、と言われて該当部分に目を遣るが、今までに見たことがないような、複雑な模様が細かく刻まれているだけだ。

「先生、この魔法陣の効果って……」

「空間から出たら改竄される、って、空間から出る瞬間だけ防げばなんとかならないんですか?」

 僕が先生に効果を聞こうとすると、被せるようにしてミフネ嬢が質問をした。出た瞬間に記憶が改竄されるのなら、その瞬間だけ魔法で防御すれば記憶を維持できると考えたのだろう。

「無理だな」

「え」

「出てから魔法防御を持続し続けられるなら可能かもしれないが、ほぼ不可能だ」

 先生が難しい表情わしていた時点で薄々嫌な予感はしていたが、この魔法陣の効果は持続的なものらしい。維持だけに魔力を使うわけではない。魔導士塔に助けを求めるにも魔法が必要。魔力の余裕はないだろう。

「確認してわかる。この魔法陣の効果は長引くほど厄介だ。迅速に対応しなければ、助けに来る可能性は無くなる」

「それで、この魔法の効果は何なんですか?」

「認識の変化だ。この魔法空間に存在する人物の印象を薄くする、と言う効果だ。厄介なのは、魔力が多い人物ほどこの魔法の効果を強く受けるように追加されていることだ」

 魔力が少ない人間には効果が薄いが、元々の魔力抵抗が高くない為、十分な効果が期待できる。逆に、魔力が多い人間はそもそもの魔力抵抗が高い人が多く、魔法への対抗手段も兼ね備えている場合があるが、魔力に比例して効果が上昇するので魔力が少ない人間より催眠効果は強く現れやすい。

「でも、それだけの効果があるなら、術者の魔力消耗も桁違いなはず……」

「エルガーの本来の魔力では、これだけの魔法を使うことは不可能だ。しかし、魔法範囲を貴族院に限定していることと、魔法陣に一工夫することで魔力消耗を抑えている」

 相手の魔力量に応じて威力が向上する、ということは、相手の魔力を利用して魔法を発動させている、ということだ。そして、この空間が校舎の中であることにも意味があったらしい。

「この空間を維持するにも魔力を使う。なのにエルガーがこれだけ余裕があるのは、維持する魔力を別から仕入れているからだ」

「成る程、黒魔術の実験ですね」

「ミフネ嬢?急に解説側に回らないで?」

 先程まで大人しく解説を聞いていたはずのミフネ嬢が急に口を開いた。しかも、触れられていなかった話題を急に出してきた。何処で点と点がつながったのか説明してほしい。

「ミフネさん、モミジ様が黒魔術によって害された事件と、今回の件は関係あるということですか?」

「はい。そうですよね?エルガー伯爵子息」

「……どうしてそう思ったのかな?」

 クインテット嬢が聞くと、ミフネ嬢は自信満々に頷いた。そして、エルガー伯爵子息に答え合わせを求めるが、彼は何故その答えに辿り着いたのか聞きたいらしい。

「間違いを指摘したいんですか?性格悪いですねぇ」

 そう言いつつもミフネ嬢は説明を始めた。キーワードは、魔法陣と別の魔力。これだけで閃いたらしい。

「モミジさんが呪われた時、黒魔術事件、としましょうか。あの時、魔法陣は3人の魔力で発動していました」

「そういえばそうでしたね」

「あれは恐らく、別々の魔力を集めて魔法陣を発動できるかという実験を兼ねていたんだと思います」

 ミフネ嬢の予想では、元々あの部屋を見つけたのはエルガー伯爵子息で、実験としてあの時の実行犯三人に部屋と魔法陣のことを教えたのではないだろうか、ということだ。

「あの部屋にあるノートは身元が割れるリスクを考慮して使ってないでしょうけど、個人的に魔法陣について纏めたノートがあるんじゃないですか?」

「この空間から出た時、そのことを覚えていられたら有効な手段ですね」

 時間に直接的な関与が認められた人物以外、部屋に調査は入っていない。プライバシーの問題もあるので、余程でない限り立ち入り調査は行われないのだ。友人などに見られる恐れがないなら自室に物を隠すのが一番だ。

「話を戻しますけど、複数人から魔力を吸い上げで魔法陣が発動できるのなら、貴族院全体を魔法陣の発動範囲に指定して、校舎内に空間を生成、魔力は校舎外の人から吸い上げることも可能なのでは?」

「貴族院にいる人は基本的に魔力が多い。人数も多いから、一人当たりから少々魔力を奪ったところで気づかないのか」

 それなら、エルガー伯爵子息は手を加える時は余分の魔力が必要でも、維持するだけなら何もしなくていい。

「魔法陣は一つだけなので、もう一つ空間を制御するための魔法陣があるか、これに纏められているのかは私の知識ではわかりませんけど、合ってます?」

 ミフネ嬢が尋ねると、エルガー伯爵子息はにこりと笑って、パチパチとわざとらしく拍手をした。

「素晴らしい観察眼ですね、正解です」

次回更新は12月31日17時予定です。

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