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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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二人の取引

 明るいが、やけに狭い部屋。そう気づいた時、僕達の目に入ってきたのは魔法陣が描かれているテーブルだ。何の魔法陣だろうか、と思って近づこうとした瞬間、此方に向かって炎の球が飛んでくる。

「『水よ』!!……いきなり危ないじゃないですか」

「人数で負けているのなら、不意打ちでもして数を減らさないと不利でしょう?」

「その割にはモミジ様だけを狙っていたように感じますけれど」

 この部屋に最初に入ったのはミフネ嬢だ。本当に不意打ちをしたかったのなら、真っ先にミフネ嬢を攻撃し、倒れたミフネ嬢に動揺した残りのメンバーに対して攻撃を行っていくのが最も有効だ。その方法なら、自身の居場所が割れるまで一方的に攻撃を放つことができる。

だというのに僕が顔を出すまで待っていたという事は、本当に僕だけを狙って攻撃してきた、という事だ。

「当然、用があるのはストックデイル侯爵子息だけですから。本当は彼一人をこの空間に移動させるつもりでしたけど、流石は魔導士長様の一番弟子なだけはありますね。瞬時に割り込んでくるとは思ってもいませんでした」

「あの一瞬でそんなことを……」

 ヴィヴィア先生は溜息を吐いた。本当は、先生だけが空間に乗り込んで僕を救出してくれるつもりだったのだろう。だが、あの時は僕とエルガー伯爵子息、そして先生の間にミフネ嬢とクインテット嬢、フィッシャー辺境伯爵子息に殿下もいたので巻き込んでしまったらしい。

「この空間は完全に此方の支配下にあります。ですから、いつでも攻撃を加えることは可能だと思っていましたけれど、自分も魔獣と戦いながら生徒が危なくならないように空間魔法を使い続けてなお、まだ魔力が残っている。本当に、桁外れの魔力量ですね」

「残念だが、師匠を始めとして、魔力が多い奴なんて幾らでもいる。魔導士塔に行けばわかるさ」

 言外に逃げ切れると思うなよ、と告げる先生に対して、エルガー伯爵子息は挑発的な笑顔を返した。というか、僕が最初からノリスと一緒に居たのも、なんだかんだと逃げきれたりしたのも全部先生のサポートのお陰だったようだ。自力で解決しようと思っていたのがちょっと恥ずかしい。

「ですが、魔力量が残っているとはいえ、安全にこの空間から脱出しようと思うと温存しておかないと厳しい。そうですよね?」

 この空間を作っているのはエルガー伯爵子息。なので、この空間から外に出られるかどうかも相手の一存で決めることができる。無理やり空間に穴をあけて脱出すること自体は可能ではあるが、余程の腕前の魔導士でないと不可能。つまり、先生はできる限り魔力を温存していないといけない。

「此方としても、用事があるのはストックデイル侯爵子息のみ。この国の民として、第一王子殿下に危害を加える気は一切ありませんし、フィッシャー辺境伯爵子息に至っては全く関係ありません。女性に手を挙げる趣味もないので、貴方が大人しく条件を飲んでくださるのなら、無事に元の場所に返すことを約束しましょう」

「廊下中に魔獣を放っておいて、そんなこと……」

「ヴィヴィア先生が生徒の防衛をすることは予想済みでしたので」

 僕達の実力が無く、魔獣にやられそうになれば、先生が必ず援護をする。結果的に問題が無かったでしょう、といけしゃあしゃあと言ってのける。それで、どうするんですか、と僕の方を向き、笑顔で回答を待つ。

「……条件の内容をお聞きしても?」

「簡単です。貴方だけがこの空間に残ってくれればそれでいい」

「そんなことをしても、先生から連絡が入った魔導士が直ぐに対応するだけで……」

 言いかけて、口を噤んだ。そんなこと、魔導士塔に入ることが決まっている相手がわからない筈がない。それなのに、どうして余裕そうな態度を保っているのか。そして、話が逸れて忘れかけていたが、テーブルの魔法陣の効果は何なのか。

「外に出すより先に、フィッシャー辺境伯爵子息に掛けた洗脳魔法を解け!!」

 もしかして、無事に外に出した後に洗脳した子息によって他の人を攻撃する作戦なのではないか、と思って言う。すると、何故か相手は目を見開いて、驚いたような声を上げた。

「洗脳魔法?ああ、本来はそこまでするつもりはなかったんですけどね。認識阻害に近い催眠魔法が効きすぎた結果、魔力を流して命令すれば言う事を聞くようになるとは思いもしませんでした。名門フィッシャー辺境伯爵家の嫡男がここまで魔法耐性が低いとは、驚きですよね」

「貴様!!」

 そして、にやりと口端を歪めると嘲るような口調で言い放つ。馬鹿にされた子息が激昂し、周囲に一瞬火花を散らす。が、予想の範疇だったのか、逆に水の球を子息の顔にぶつける。

「頭を冷やしたらどうかな?今は、ストックデイル侯爵子息と話をしている。さあ、どうするか決まった?」

 冷たく言い放ったかと思うと、僕の方に笑顔を向けてくる。僕は一歩相手の方に近付き、テーブルの真横に立つ。そして、後ろ手に合図を送った。


次回更新は12月29日17時予定です。

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