表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
171/200

隠し通路

 やられた。完全に相手の思い通りに動いていた。どうしてフィッシャー辺境伯爵子息が眠っている時、僕とミフネ嬢が眠っているとわかったのか。ミフネ嬢が出て行ってから、扉の造りが変わっていたのか。

「ずっと近くにいたのか!!」

 なら、どうして僕が一人でいた間に仕掛けてこなかったのか。恐らく、ノリスが近くにいたからだろう。移動ができなかったり、存在が不安定になっていたりしたものの、ノリスは意識を保ってこの空間にいた。警戒しても不思議はない。

「魔力の消耗を抑える為にも、好機を逃さない為にも、近くに潜んでいたようだな」

「姿が見えませんけど……」

「隠密系の魔術道具くらい、簡単に作れる」

 直後、僕の首が締め上げられた。爪先が宙を蹴り、体が浮く。

「モミジ様、前です!!」

「……ぐ、ぅ」

 クインテット嬢の言葉に、半ば無意識に足をバタつかせて前を蹴る。がむしゃらに動かしているだけだったが、鈍い音がしたかと思うと僕は床に落ちた。

「グロル・エルガー伯爵子息!!」

 少し離れた場所に片膝をついたエルガー伯爵子息が現れる。僕の蹴りが当たったのか、左手で横腹の部分を押さえている。胸に着けている黒っぽい色のブローチが魔術道具だろうか。

「ッくそ」

「逃がさない!!」

 まずは、あのブローチを奪う。そう思って手を伸ばすが、僕の手が届くよりも前に床が変形し、エルガー伯爵子息を覆う。魔法を使って繭のようになったそれを破壊した時には、既に姿は残っていなかった。

「……移動魔法を使ったにしては魔力の痕跡を感じない。恐らくは、空間を作った本人しか把握していないような道があるのだろう」

「真下に通路を作っていた可能性がありますねぇ。追いますか?」

 つま先で床を叩いてミフネ嬢が言う。コンコン、コンコン、と一定の間隔で床を叩くと軽い木の音が返ってくる。が、ある一か所を叩いた時、今迄とは違う音が聞こえてきた。ミフネ嬢はつま先を動かさず、ゆっくりと僕達を見た。

「此処ですね。罠がある可能性も否定できないので、殿下の判断に従いますが、どうされますか?」

 全員の視線が殿下に集中する。今、追いかければ追い詰めることもできるだろう。しかし、使う道は相手が作ったものだ。どんな罠が仕掛けられているのかわからない。相手の狙いは僕だが、守るべきは殿下。難しい所である。

「……モミジを放っては置けない。空間の構造を完璧に把握できていない状況で戦力を分散させると各個撃破される可能性もある。此処は、全員で追いかけよう」

「「「はい」」」

 まあ、ヴィヴィア先生もいるので生命の危機に陥ることは早々ないだろう。先程から口数が少ないが、多分大丈夫だ。ミフネ嬢が足を勢いよく振り下ろそうとするが、クインテット嬢が笑顔で止めた。

「ミフネさんが怪我をしてしまうかもしれませんから」

「では、此処は私が……」

 そう言ってミフネ嬢とクインテット嬢は場所を入れ替わる。女性にさせる訳には、とフィッシャー辺境伯爵子息が名乗り出ようとしたが、言い切る前にクインテット嬢は足を振り上げ、勢いよく床に踵から叩きつけた。

「……やはり道があるようですね。先陣を切りますので、モミジ様、殿下、先生、ミフネさん、フィッシャー辺境伯爵子息という順番で向かうのは如何でしょうか?」

「あ、えっと……」

「洗脳魔法の影響もありますし、先生とフィッシャー辺境伯爵子息は一緒の方がいいでしょう」

「なら、わたしが最後尾ですね~」

 穴が開いた床板の向こうには、かなり急な階段が続いていた。クインテット嬢が真っ先に階段に降り、ある程度の安全が確認できたのか、僕に手を差し出してきた。普通は逆だが、こういう時は戦闘力の高い人に従うべきなので大人しく差し出された手を取る。

「殿下」

「ああ、ありがとう」

 殿下、先生に続いて子息とミフネ嬢も階段に入って来て、分断されないように気を付けながらゆっくりと階段を進んでいく。全員が入ったところで図書館に戻れなくなる、といった事態は起こっていない。空間を操作する余裕が無いのか、僕達を油断させる罠か。

「……注意は必要ですが、追い詰める目的ならば速度を重視して進んだ方がいいかと」

「防御魔法を張ったまま移動できれば良かったんですけどねぇ……」

 ミフネ嬢がちらりと先生の方を見る。便利な道具とか、魔法陣がないのか、と聞きたいのだろう。

「ファラデーの水魔法で大きめの膜を作り、そこに何かぶつかれば警戒して進めばいい。悪いが、此方で防御魔法を張ってやるほど余裕はない」

「別にやることがあるんですか?」

「あると言えばある。魔力を温存する必要があるので、あまり手助けは期待するな」

 魔導士塔関連の仕事だろうか。詳しく説明してくれないという事は、聞くなという事だろう。僕達は小さく頷いて階段を急いで進み始めた。道は単純で、真っすぐ何処かに向かって行っているようだった。下って、暫く直進。そして、今度は上り階段を上がり切ったその時、急に明るい部屋に出た。


次回更新は12月28日17時予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ