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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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投げられた木片

 暫くの間、図書館の中に本を捲る音だけが響いていた。僕はバーチの木について調べているが、魔法的な事柄は先程ヴィヴィア先生に教えて貰った以上の情報は書いて無さそうだ。医療的な効果や植物としての特性はわかったが、現在求めている情報ではない。

「……僕の方は大方終わりましたが、クインテット嬢と殿下はどうですか?」

 これ以上、他の本を読んで同じような記述を見ていくよりは、他の二人が調べ終わっているなら考察した方がいいと判断し声を掛ける。すると、殿下は静かに本から目線をあげ、クインテット嬢は小さく伸びをして此方を見た。

「過去十年分の記録は読み終わったから、話し合うなら其方に参加するけれど……」

「私も、ある程度まで候補は絞れたので大丈夫です」

「なら、話し合いをしたいのですが」

 二人は頷き、本に栞を挟んで閉じた。それぞれ、目的の本のある付近に座っていたので、入り口近くに集まる。ミフネ嬢とベルナール伯爵令嬢にも声を掛けようと思い、図書館の扉を開けて廊下の方を伺う。

「ミフネ嬢、ベルナール伯爵令嬢、そろそろ話し合いを……」

「み、ミフネ様!!危ないです!!やめてください!!」

「半分は残してるので大丈夫ですよ~」

 扉を少し開けた瞬間、令嬢の悲鳴が聞こえてきた。そして、いつもと変わらない調子と言うか、寧ろ少し状況を楽しんでいるようなミフネ嬢の声も聞こえてくる。扉の目の前にはいないようで、すぐに状況を判断することはできない。

「それに、実験はこの位しないとわからないじゃないですか」

「絶対危ないですから!!お願いですからやめてください!!」

ミフネ嬢の不穏な発言が聞こえてくる。令嬢の立場的に、強制的にミフネ嬢を止めることは不可能だろう。まだ中にいる殿下とクインテット嬢の方を一度振り向き、ちょっと行ってきます、とハンドサインをしてから廊下に出る。

「ミフネ嬢、何をして……」

 図書館の目の前の廊下にはいないので、声のする方に向かう。曲がり角の向こう側から声がしたので、声を掛けながら様子を見ようとすると、僕の視界に突如、小さな木の欠片が現れた。

「あ」

「モミジ様!?」

 反射的に目をつぶると、眉間に何かがぶつかってきた。ぶつかってきた物体は、跳ね返って落ちたようで、軽い音が床から聞こえた。あまり痛くはないな、と思っていると、少し遅れてすっきりとした特徴的な香りがした。

「……ミフネ嬢、もしかして、これ」

 床に落ちている木の欠片を拾い、確認する。どう見ても、先程まで図鑑で見ていたバーチである。ミフネ嬢の方をじっと見ると、わざとらしく目をそらされた。

「バーチ、ですねぇ」

「ミフネ嬢、他にバーチ持ってたんですか?」

「いえ、香り袋を開けて……」

「わかりました。今から話し合いをするので、詳しい事はその時聞きます」

 香り袋に魔除けの効果があるのか実験していたはずなのに、何故香り袋を開けて中身を取り出し、投げるということになったのか。何度も説明するのは時間が勿体ないので、図書館の中に戻って全員の前で説明してもらうことにする。ミフネ嬢は嫌そうに頷いた。

「話し合いを始めるという事は、情報は調べ終わったんですか?」

「僕の方はこれ以上情報がないと思ったので、一度話し合いの時間を設けました」

「もう少し調べていてくれたら、こっちも実験終わってたんですけどねぇ」

「何か言いました?」

「いいえ?」

 図書館に戻ろうとすると、扉に鍵が掛かっていた。ノックして名乗ると、すぐにクインテット嬢が開けてくれた。令嬢の悲鳴が聞こえたので、万一の事態に備えて警戒していたのだろう。

「何事もなく……、という訳ではなさそうだね。怪我がなくてよかった、話し合いを始めようか」

 殿下は僕達の顔を見て、苦笑しながら言った。全員が席につくと、殿下は最初に僕の方を見た。話し合いをしようと言ったのは僕なので、当然の流れだろう。

「僕の調べた結果、バーチの木に魔除けの効果があることは確かです。が、来た時に伝えた以上の情報はなさそうです」

「ヴィヴィア先生の説明が素晴らしかったという事ですね」

「強いて言うなら、悪魔や悪い存在を祓う時には、欠片ではなく杖ほどの大きさの枝で取り憑かれた人物を軽く叩くそうです」

 つまり、この方法を行おうと思った場合は、バーチの枝を取り寄せないといけない。北から取り寄せることになるので、少し時間がかかってしまう。

「次は私だね。過去十年の間、流星群の日に貴族院で起こったことを調べたけれど、流星群の観測が禁止され就寝時間が設定されたのは八年前だそうだ」

「意外と最近ですね」

 上級生たちに聞いた時はずっと前からある規則だ、と言っていたので、もっと前からあるのかと思っていた。貴族院の在籍するのは三年の間なので、自分たちの先輩もその規則に従っていれば、ずっとあったものとしてとらえるのは仕方ないかもしれない。

 ただ、八年前、という時期に、僕は何故か引っ掛かりを感じたのであった。


次回更新は7月27日17時予定です。

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