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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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糸が切れる

 この空間は、窓から外が見える訳でもなく、ずっと一定の光が差し込んでくるだけなので時間が分からない。図書館の中で、本を保護するために設置されているカーテンを全て閉めてしまえば薄暗くなり、眠るには丁度良かった。

「…………いま」

 何時だろう、と思って、中々開いてくれない瞼を擦りながら周囲を見渡す。が、壁掛け時計を見たところで、針は全く動かないのだから意味はない。ぼうっとしながらミフネ嬢とフィッシャー辺境伯爵子息を見る。

「まだ寝てるか……」

 ミフネ嬢は椅子に座ったまま、机に突っ伏して眠っている。腕が後で痺れそうな寝方だ。一方、子息は椅子に完全に体を預けて寝ている。後ろにひっくり返ると大惨事だろう。二人共規則正しく呼吸しているようで、まだ起きる気配はない。

「僕も、まだ、眠い……」

 そういう僕も、消耗した魔力が多かったのか、また眠くなってきた。が、寝る前は全員疲労困憊で頭が回っていなかったが、よくよく考えると全員が眠りこけているのは良くないのではないか、と思い直す。

「僕だけでも、起きてないと……」

 何かあった時、一人は起きていないと眠っている間に襲撃されてしまう。偶然とはいえ目が覚めたのだ。二人のどちらかが起きるまでは、頑張って耐えていよう、そう思って眠気を覚ます為にも立ち上がろうとした。

「……ん?」

 が、足には力が入らず、少し腰が浮いたもののすぐさま椅子に逆戻りした。先程まで背もたれに体が触れていたからか、ほのかな暖かさがあり、眠気が増幅された気がする。

「駄目だ……。寝たら、駄目だと、わかって、るのに……」

 そして、凄まじい眠気が再び襲ってくる。僕は駄目だとは思いつつ、押し寄せる眠気に耐え切れずに再び意識を飛ばした。


 ぎい、と、耳に触る音がする。そこまで大きな音ではないが、ふと、意識を取り戻すには十分な音だった。ミフネ嬢か、子息か、どちらかが目を覚ましたのだろうか。音の方向と、眠っていた場所を考える。多分、子息の方だろう。

「……………………………」

 声を掛けようとした。しかし、僕の喉からは何の音も発されなかった。目も開かない。所謂、金縛りに近い状態だ。そう言えば、金縛りというのは、身体は眠っているのに脳だけ起きているから発生すると聞いたことがある。いつ、誰に聞いたかは思い出せないが。

 一応確認してみよう、と思って指先を動かそうとするが、微塵も動いた様子はない。こういった場合、焦ると逆に悪化するので落ち着いて時間経過を待てばいい筈なので、気にせずそのまま寝ようとする。

「………ぐ」

 眠れるような状況ではなくなった。何と、フィッシャー辺境伯爵子息が僕の方に歩いてくるような音が聞こえたかと思えば、その音は僕の背後で止まり、次の瞬間、喉に圧迫感を感じたのである。

「う、ぐ…………」

 金縛りによる気の所為かな、と思ったが、段々と息苦しくなってきた。その上、喉にははっきりと人間の手が触れている。何で首絞められているんだろう。というか、このままだと本格的にまずい。だが、身体は力が入らず、意識も朦朧としてきた。助けを呼びたくても、喉から出るのは意味を持つ音でなく、自然に漏れた空気が微妙な音を形作っているだけだ。

「……み、ふねじょ」

 子息の手は確実に僕の首に添えられているものの、本気で力を入れている訳ではなく、微妙に苦しい、という状態が続く。すると、火事場の馬鹿力なのか、身体が生命的危機を感じてどうにか動くようになってきた。

「た、たすけ……」

 はくはくと口を動かし、まだ眠っているミフネ嬢に届くかもわからない救援を求める。助けて、と何とか口に出すと、背後の体が大きく揺れ、一瞬、手の力が弱まった。その隙を逃さず椅子から転がり落ちるように体を投げ出す。ガタン、と大きな音を立てて椅子と一緒に床に倒れ込んだ。

「……なんのおとですかぁ?」

 流石にミフネ嬢が目を覚まし、間延びした声で状況を聞いてくる。僕は痛みで覚醒したこともあり、しっかりと開いた目で子息の方を見上げる。

「え?」

 一瞬の事だった。無表情で、手を前に出したまま固まっていた子息の瞳が光ったかと思うと、その光が消え、驚いたように目が見開かれ、再び瞼が閉じていく。完全に瞼が落ちると、そのまま子息の体は床に倒れていった。まるで、糸が切れた操り人形のように。

「……ふたりとも、椅子から落ちたんですか?」

「え、ああ、うん。落ちた、けど……」

「はっきりしない言い方ですねぇ。というか、フィッシャー辺境伯爵子息は大丈夫ですか?」

 頭から地面に崩れ落ちてませんか、とミフネ嬢が指摘する。慌てて確認するが、呼吸はしている。意識を失っているだかだろう。

「……えっと」

「取り敢えず、モミジさんの表情を見る限り、何かがあったということさ理解しました。何があったんですか?」

 話が早くて大変助かる。僕は倒れている子息を指差し、そして、襟元を緩め未だ圧迫感を感じる喉元をミフネ嬢に見せた。

次回更新は12月23日17時予定です。

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