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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
159/200

見慣れた文字盤

「あれ、これって……」

 ノリスがいる、図書館のテーブルの上を確認すると見覚えのあるものが置いてあった。少々前に問題となった、木製の二つの道具。プランシェットと文字盤である。質問の儀式が禁止された後に貴族院内の在庫は回収された筈だが、何故ここにあるのだろうか。

「よくわからないけど、ノリスはこれを目当てに来たってこと?」

 尋ねると、ノリスは『はい』と書かれた場所を指し示した。円滑なコミュニケーションにはもってこいの道具ではある。本当に、何故図書館にあるのかは理解できないけど。

「……取り敢えず、ノリス。ミフネ嬢とか、他の人の場所はわかる?」

『わからない』

 意思疎通が取れるのなら、ノリスの持っている情報を全て共有しようと質問をする。最初に他の人の居場所を聞くが、手掛かりは一切ないようだ。

「僕を見つけた理由は?」

『気付いたら、近くにいた』

 その言葉に引っ掛かる。気付いたら、ということは、意識が遠のくような瞬間があったという事だ。ノリスについて詳しいことは知らないが、自我があっても明確な肉体を持たないノリスに、睡眠などはあるのだろうか。それに、近くにいた、という意味もはっきりさせないといけない。

「えっと、まず、ノリスって寝たりするの?」

『魔力のみで存在を維持している為、不要』

「じゃあ、いつもは朝も夜も常に意識がはっきりしている、ってこと?」

『はい』

 ということは、ノリスの意識が遮断されるような瞬間があったのは確実だ。恐らく、僕達が移動させられた瞬間と一致するだろう。一応、意識が途切れる前に近くに生徒や教師がいたか尋ねたが、いなかったようだ。あの時は全員グラウンドか、中庭付近にいた筈なので、教室棟は無人だった。辻褄は合う。

「で、次は僕を見つけた方法は?」

『意識が戻った瞬間、目の前にいた』

「えっと、ノリスの視界とか知覚情報がどうなっているのか把握してないんだけど……」

 曰く、普段は階段の上は常に見えているし、通っている生徒の歩く振動も伝わっているらしい。上を歩かれていて痛みは感じないそうだ。痛みを感じるのは手すりが欠けたり、壁にひびが入ったりした時だけらしい。階段から外のことは殆ど認識できていないようだ。

「……階段正面の扉を見張ってくれたときとかは?」

『余力を割けば可能。普段は不可能』

 手すりを伸ばしたり、自分の管轄範囲外を認識しようとしたりすると通常以上の魔力が必要になるらしい。道理でノリスが活躍した日はミフネ嬢が疲れている筈だ。

「今はどうやって移動を?」

『対象者を起点とし、魔力範囲内で移動。この空間は魔力濃度が高い』

 対象者、つまり僕を起点として、僕の魔力が届く範囲内で移動ができているらしい。近くにいないとはいえ、ミフネ嬢との繋がりは存在していることと、この空間は普通より魔力が多いので移動ができているそうだ。

「……もしかして、移動しすぎるとミフネ嬢が消耗する?」

『はい』

 慎重に行動した方が良さそうである。移動できるならずっと一緒に居てくれた方が安心だが、僕だけが移動して情報を持ち帰ることも視野に入れよう。

「で、当面の目的なんだけど、どうしようか」

『主との合流、および、この空間からの脱出』

「この空間?」

 先程から、この空間、という言葉を使う。この一帯が魔力濃度が濃いのではなくて、もしかして、ここはいつもとは別の空間なのだろうか。恐る恐る聞こうとすると、聞く前に『はい』の位置を指さしていた。

「というか、ミフネ嬢がいる保証は……」

『魔力の繋がりを感じる。同じ空間内に存在する』

「はい……」

 断言されてしまった。ミフネ嬢がいるのなら、確実に他の人達も巻き込まれているだろう。全員と合流しないといけないので、校舎内を探し回ることは確定だ。しかし、問題は後者の構造が滅茶苦茶になっているので迷いそうなことと、相手も移動するという事だ。

「ノリス、相談が……」

『何?』

「僕から一時的に魔力をあげれば、ノリスの移動とかできる?」

 正直、真っ先に合流すべきはミフネ嬢だ。だが、恐らく一番合流が難しいのもミフネ嬢だ。ならばどうするか、というと、ノリスが魔力の繋がりを感じるのなら、その繋がりを辿っていけばいい、という作戦である。

 しかし、この作戦を実行するには、ノリスに道案内してもらう必要がある。が、ミフネ嬢が置かれている状況が分からない中で魔力を消耗させるのは危険だろう。結果、僕の魔力で移動できないだろうか、という考えに至ったのだ。

「それか、持ち運べるものを依り代にできる?」

『……後者は恐らく可能』

 しかし、建物から出ることはできないそうだ。そして、ノリスは暫く考えた後、テーブルの上に置いてあった文字盤を強く突き始めた。

「無理矢理だなぁ……」

 中々変化が無いので、最後の一押しだと手を文字盤に押し付けた瞬間、図書館中に破裂音が響き、手を離した文字盤がテーブルにぶつかって床に落ちた。

「……ノリス?」

『成功』

 落ちた文字盤からは、手が生えていた。


次回更新は12月16日17時予定です。

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