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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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咆える獣

 食堂から戻る道のりでは、魔獣を討伐することよりも食料の運搬に重きを置く。途中で魔獣と遭遇して食事を届けられなかった、ということがないように一斉にグラウンド目指して戻るのだ。

「ある程度人数がいるなら安心ですね」

「戦闘に備えて身軽な人もいるから、行きよりは安全性が高さそうだけど……」

 確実に安全とは言えないのが現状である。まだ魔獣の総数や種類も分かっていないので、どのくらいの戦力があれば安全かは把握できていない。数と種類が分かっていても、魔獣の個々の強さもあるので、言い出したらきりがない。

「モミジ様、ミフネさん、そろそろ出発するとのことです」

「もうですか?まだ半分くらい別チーム残ってますよ?」

 僕達は最後に来たというのに、グラウンドに向けて出発するのは早いらしい。実敷衍上の言う通り、まだ食堂にはかなりの人数が残っているが、既にリーダーや殿下、フィッシャー辺境伯爵子息は荷物を背負って出入り口に向かっている。

「一年生が多いチームなので、中央付近に配置されているようです」

「戦術的問題ですか……」

「いや、真っ先に戦術に結び付けるのはどうかと思う」

 馬の遠乗りとかでもよく行う手法である。道を知らなかったり、慣れていなかったりする人物を慣れている人物で挟む。そうすれば何かあってもフォローしやすいのである。つまり、僕達は一年生という事で配慮されたという事だ。

「実力不足って遠回しに言いたいんですかねぇ」

「ミフネ嬢、上級生の善意を捻くれた受け止め方しないでください」

 流石にそこまで考えて配置したわけではない。と、信じたい。食堂を出て、既に先を歩いている別のチームとあまり離れないように付いて行く。後ろを見れば、また別のチームが側にいる。行きと違って大行列だ。

「これだけ人数がいれば、緊急時にも対処できそうですね」

「全員で魔法を撃ったら、それだけで片が付きそうです」

「クインテット嬢も万全な状態とは言えないし、その方が都合は良いよ」

「そもそも、魔獣が出ない方が状況としては望ましいと思いますけど……」

 人数が多く、バラバラになってしまうと合流が大変だろう、という事で固まって動く。近くにいたからか、クインテット嬢とミフネ嬢、僕で話をしていたところにフィッシャー辺境伯爵子息が会話に入ってきた。

「あ」

「はい?」

 ミフネ嬢が目を丸くして、驚いた声を出した。子息はそれを不思議に思ったのか、首を傾げた。すると、ミフネ嬢が驚いた表情から徐々に笑顔になって言った。

「何気に、普通に会話に混ざってくれるのは初めてですよね」

「あ」

 言われてみればそうだった気がする。最初の方は協力はしてくれるし殿下を守るという共通意識はあっても、会話に混ざる気はない、という態度を取っていた。貴族の複雑な人間関係を考えればその方が正解であること多いので、間違っている訳ではない。

「仲良くなれた、と思ってもいいですか?」

「い、いえ、そんな、馴れ馴れしくするつもりでは……」

「照れないでくださいよ、仲良くしましょう?」

 が、ミフネ嬢としては自分の調べ物に付き合ってくれている時点で仲良くなりたい人物に含まれていたらしい。にこにこと機嫌良さそうに子息に話しかけ始めた。一応、体面に気を遣って話しかけるのは控えていたようだが、完全にリミッターが外れているようだ。

「ストックデイル侯爵子息、助けてくれ!!」

「すみません、魔獣に襲われているのなら助けられますが、ミフネ嬢の好奇心にさらされているのは助けられません……」

「普通は逆だと思うのだが!?」

 一般的には逆かもしれないが、ミフネ嬢の好奇心は魔獣以上に厄介だ。好奇心が満たされたら大人しくなるので諦めてほしい。唯一、止められる可能性があるのは殿下だが、微笑ましいものを見るような目で子息とミフネ嬢のやり取りを眺めているので期待はできないだろう。

「仲が良いのは何よりだけど、あまり騒ぐと魔獣が寄ってくるかもしれないよ」

 ミフネ嬢が子息を追っかけまわしていると、少し離れた場所を一人で歩いていたリーダーが言った。さっきから他のチームの人と話してばかりだったので、僕達のことは忘れているものだと思っていた。

「魔獣が来ないにしても、あまり騒ぐと迷惑ですね。止めましょう」

「そうだね」

 リーダーは何故か二人に直接言う気はないようなので、仕方がないので僕達がもう一度伝えることにする。くるり、と振り返ってミフネ嬢と子息の顔を見ようとすると、何故か、全く違う牙がむき出しの生命体と目が合った。

「…………」

「グルルルル……」

 しかも、僕と目が合った瞬間威嚇してきている。その生命体よりかなり後方にミフネ嬢と子息はいるようだった。となると、これはいったいどんな生き物なのだろう。僕が正確に理解する前に、その生き物は咆えた。

「バウッ!!」

 そう、新たな魔獣であり、何故か僕達の間に割って入ったのは、僕の肩くらいまで大きさのある、犬の魔獣だった。


次回更新は12月7日17時予定です。

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