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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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援軍と疑念

 僕の服の襟を掴み、後ろに投げ飛ばしたのはクインテット嬢だった。今度は飛び越えられるような助走距離はないので、魔獣は僕を諦めた。かと思いきや、クインテット嬢を無視して僕の方に向かおうとしてきた。

「させません!!」

 が、意識が他所に向いている魔獣など、クインテット嬢の相手ではない。横から魔獣の首元に強い一撃をお見舞いし、そのまま眉間、喉元、と急所と言われる場所を正確に突いていく。

 どさり、と重たい音を立てて、魔獣の体が地面に倒れ込んだ。クインテット嬢は素早く魔獣の状態を確認し、もう大丈夫ですよ、と告げる。小刻みに痙攣している気がするのは気のせいだろうか。

「ありがとうございます」

「いえ、それにしても、執拗にモミジ様を狙うとは思いませんでした。暫く動けないとは思いますが、念のため離れていてくださいね」

「わかりました」

 土属性魔法が使えるならば、土を動かして拘束しておくべきなのだろうが、現時点では難しそうだ。他のチームの人が来た時にできる人がいないか聞いてみよう。そう判断し、僕は大人しく魔獣から離れる。

「お疲れ様でした、またモミジさんは狙われてましたねぇ」

「此処までくると、僕が囮で逃げ回って他のメンバーで攻撃する方が効果的に思えてきた」

「確かに効果的かもしれないけれど、自ら危険に身を晒すのは良くないよ、モミジ」

「はい」

 ミフネ嬢がにこにこしたまま告げてくるので、自虐的な返事をする。本当に囮を遣れと言われたら、拒否はしないけどできればやりたくない。普通に怖いから。殿下が採用しないと分かっている上での発言である。

「フィッシャー辺境伯爵子息も、殿下を守ってくださりありがとうございます」

「臣下として当然です。魔獣による傷は治りが遅かったり、妙な効果が発動することもありますが、怪我はしていませんか?」

「僕もクインテット嬢も無傷です」

 直接戦闘には参加しなかった子息に声を掛けると、言葉遣いこそ距離を感じるものの、かなり本気で心配している声音で尋ねられた。内心驚きつつも、無傷であることを伝えると安心したようによかったです、と返される。

「あの」

「笛が鳴ったが、魔獣か!?援護する!!」

 子息って結構いい人なのかな、と思いつつ、リーダーに次の指示を仰ごうとすると、背後から大声で駆け寄ってくる集団がいた。木剣を持った、体格のいい男子生徒の一団である。騎士志望の三年生、と言った所か。一人だけ女子がいるが、かなり距離が離れた場所にいる。

「丁度倒したところだ。そうだ、ミリセント、魔法で捕縛してくれないか?」

「わかりました。土と、植物でいいでしょうか」

 リーダーは、一番後ろを一生懸命走って付いて来ていた女子生徒にそう声を掛けた。茶色の髪を一本の三つ編みに纏めていて、大人しそうな印象を受けるが実践クラスらしい。素早く魔法陣を展開して、土と蔦で地面に横たわっている魔獣を丁寧に拘束していく。

「凄いですねぇ」

「流石は三年生、だね」

 その間に、最初の体格のいい男子生徒とリーダーは話し合い、魔法で上空に合図を送った。魔獣を動かすのは大変なので、後でヴィヴィア先生に調べてもらうことにしたらしい。

「クインテットさんの武器も駄目になってしましましたから、一度戻って装備を整えますか?」

 あらかた方針が立ったところで、今後の方針をミフネ嬢が尋ねる。当初の目的通り食堂に向かうのか、一度戻って木槍を調達するのか。戦力的な問題を考えると戻った方がいいが、かなり時間を使ってしまう。

「いや、このチームと一緒に食堂に向かおう。既に魔獣を一匹見つけたわけだし、このメンバーの実力なら一年生を守りながら進むくらいできる。ね?」

「煽るな。勿論、一年生もお前も守りつつ食堂まで連れてってやるよ」

 頼もしい発言をしたのは、もう一つのチームのリーダー、体格のいい男子生徒だ。挑発するような言い方をするリーダーに怒ることもなく、ほら行くぞ、と先を歩く。僕達も置いて行かれないように慌てて付いて行く。

「ちょっと顔が怖いですけど、良い人そうですねぇ」

 ミフネ嬢が僕の横で呟く。顔が怖いって、確かに、ちょっと迫力のある顔をしているが、折角言わなかったことを態々口に出して同意を求めないでほしい。

「トーマンは信頼に足る人物ですよ。グロルは、ちょっと……」

「え?」

 すると、近くにいたミリセントと呼ばれていた女子生徒がぽつりと呟く。前半は僕達に向けて言ったもの。後半は、つい出てきてしまった言葉、という感じだ。トーマン、というのは体格のいい生徒を指しているのだろう。問題は、後半の言葉だ。

「……余計な事を言いました。私が最後尾を守りますが、あまり前方集団から離れないでください」

「あ、はい……」

 結局、詳しい内容について聞くことはできないまま、僕達は走って殿下達の近くまで行く。ちらり、とリーダーの方を見ると、不意に目が合った。目が合ったと気付いたリーダーはすぐ笑顔を浮かべ首を傾げたが、直前までの無表情を見てしまった僕は、和やかな笑顔を返すことはできなかった。


次回更新は12月5日17時予定です。

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