表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
145/200

日向の猫

 討伐チームの結成後、ひとまずはチーム単位で移動しつつ食堂を目指すことになった。最終的な目的地は一緒だが、出発時間と経路を変えることで魔獣の発見につなげる作戦だ。

「一応、三年生の僕がリーダーという事で構わないかな?」

「殿下がよろしいのなら私達は構いません」

 僕達のチームのリーダーはエルガー伯爵子息。最高学年であることと、魔法の腕前から妥当な判断だとは思う。殿下もリーダーと言う肩書に拘ったりする方ではないので、全く問題はない。

「僕達はかなり遠回りして食堂に向かうから、早めに出よう」

「分かりました」

 リーダーの指示に従い、直接食堂に向かうのではなく、周辺を見回りつつ食堂へと向かい始める。グラウンドから出る間際、一人ずつ先生方から木製武器と非常時用の笛を受け取り、準備万端である。

「それにしても、あまり分散しては魔獣と遭遇した際、増援を見込めないのではないでしょうか?」

「この笛、かなり音が出る造りになっているのである程度は大丈夫だと思いますよ」

「……騎士団でも使われているような、吹いても吸っても音が出る類の物ですね」

「最悪、緊急時はこれを咥えたまま走って逃げろという事か」

 歩きながら、クインテット嬢が疑問を口にする。僕も若干驚いたが、チームが少ない割にかなり分散して行動する作戦なのだ。笛で増援が呼べるとはいえ、魔獣にも気付かれる可能性があるのは事実だ。そんな事を話していると、少し先を歩いていたリーダーが振り返る。

「一年生は魔獣の生態について、あまり詳しくは習っていなかったね」

「えぇ、はい。討伐に置いて必要な知識は知っておきたいんですけどねぇ」

「回りくどい言い方をしなくても、勿論情報は共有するよ」

 ミフネ嬢がにこりと笑って返事をすると、苦笑しながら魔獣についての説明を始めた。魔獣は、基本的に魔界に生息している動物だ。とはいえ、普通の動物との違いは大きさや凶暴性だけだと一般的には言われている。しかし、魔法の観点から見ると、一点だけ大きな違いがあるらしい。

「それが、魔力器官の造りだ」

「でも、普通の動物にも魔力を与えると、魔獣化する可能性があるんですよね?」

 根本的な構造が違うのなら、幾ら普通の動物に魔力を与えても魔獣にはならないはずだ。つまり、魔力を与えることによって、魔力器官が変化する。結果、魔獣になるのだろうか。

「そう。魔獣は、動物よりも魔力器官が遥かに発達している。魔力を肉体の強化に使っているから、通常の動物よりも大きく、身体能力が高くなる」

「ということは、魔力器官が退化すれば、魔獣は普通の動物と一緒、ってことですか?」

「そうだね」

「……それなら、魔獣を普通の動物に戻すことも可能なのでしょうか?」

 ミフネ嬢の問いかけに、リーダーは押し黙った。予想外の質問だったらしい。魔獣とは被害を発生させる前に駆除する存在であり、戻す、という行為をする必要性を感じたことが無かったからだろう。ミフネ嬢も、魔獣が可哀そうだと思っている訳ではなく、単純な知的好奇心から質問しているのだと思う。

「難しいだろうね。動物の魔獣化も突然与えられた魔力に適応するための、突発的な進化だ。退化、となると……」

「成程、わかりました」

 ヴィヴィア先生に聞いた時よりも詳しい解説があったので、正直驚いた。魔獣に関して詳しい自信のあったフィッシャー辺境伯爵子息も驚いている。これが、魔導士塔を目指す三年生の実力、と言うものなのだろうか。

「私からも宜しいですか?」

「どうぞ」

 続いて質問したのはクインテット嬢だ。勉強熱心だね、と苦笑しつつ、リーダーは質問を促す。

「先程の説明で身体強化の理論は理解しましたが、凶暴化する原因が明確にされていません」

「ああ、それは、魔獣は体が大きくなった分、維持の為のエネルギーが必要になる。魔界はそこかしこに魔力が溢れているから魔力器官からエネルギーとして取り入れることができるけれど、この国では大気中から魔力を取り入れたりはできない。その分、食料でエネルギーを補おうとする。結果、常に飢餓状態に近いから凶暴化するんだ」

「必死に獲物を仕留めようとするからこそ、ですね。理解しました」

 魔力器官が発達すると、濃度さえ濃ければ大気中から魔力を吸収できるらしい。人間の魔力器官は通常の動物よりは発達しているものの、魔獣には遠く及ばないので、貴族でも無理らしい。

「質問は以上かな?解説が終わったところで、丁度魔獣のお出ましのようだよ」

 静かにね、と人差し指を口元に当てながら、視線を先に向ける。すると、中庭の中央を堂々と闊歩する魔獣が目に入った。その魔獣は、真っ白なテーブルの上に飛び乗ると、身体を丸くして横たわる。

「猫、でしょうか?」

「そのようだね」

 鼠の魔獣よりもさらに大きい。一度、情報共有に戻った方がいいだろう。かなり距離が近いので、笛を吹くのも危険だろう。そう思い、引き返そうとした時、僕達の後ろから、強い風が吹いた。


次回更新は12月2日17時予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ