表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
144/200

学年の差

「基本的に三年生を中心として、防御、攻撃のバランスよく人材を配置するものとする。勿論、有志によるものなので腕に自信のない生徒はグラウンドで待機だ。とはいえ、何もしない訳ではない。残っている生徒にも出来ることをして貰う」

 ヴィヴィア先生が魔獣の討伐についての説明をする。攻守に偏りが出ないよう、人材を配置してチームを作る。そのチーム単位で貴族院内を見回る。チーム数にもよるが、できる限りチーム同士も協力できるようにして、安全を確保する。

「討伐チームと言う名称が付いているとはいえ、不利だと思ったら即座に戦闘を辞め、逃げること。どんな魔獣がいたかを共有することで全体の役に立つ」

「総数を把握しないと士気の維持も大変ですからね」

 先生の説明に、クインテット嬢が深く頷く。安全の為だけではなく、戦術的にも効果的な指示のようだ。確かに、先の見えない戦いと言うのは不安を煽る。援軍を待つにしろ、相手を正確に把握することは重要だろう。

「まずは、昼食を摂っていない生徒も多い為、食堂から食材を持ってくる。教師も数人同行させる。待機する生徒は調理等の手伝いと、負傷者が出れば手当、討伐チームが持ち帰った情報の整理が主な仕事になる」

「やること自体は沢山あるので、本当に得意な方に、って感じですねぇ」

 魔獣、という名前を聞くだけで身がすくむ生徒もいるだろう。討伐に参加しないことで負い目を感じないためにも、仕事はあった方がいい。非常事態が起こること自体は望ましくないが、非常事態でも頼りになる先生がいるのは良い事である。

「僕もミフネ嬢も、どちらかと言うと非戦闘員だし、情報整理が得意だけど……」

「とはいえ、戦力が多いに越したことはありません。私達は討伐側に回る方がいいでしょう」

「ですよねぇ」

 三年生の実践クラスが全員参加したとしても、人数は40人より少し少ない。生徒だけでも計240人程度いるので、食事を運ぶだけでもかなり時間がかかってしまう。二年生は三年生より経験が少ない分、気後れする人もいるだろうし、全体で60人程度が限界だろう。

「あ、ヴィヴィア先生の所に集まるみたいですよ」

「殿下は……」

「私も勿論行くよ。私が率先して加わることで、勇気付けられることもあるだろう」

「分かりました。全力でお守りします」

 そう言って、一年生の列から抜け出す。流石に、まだ実践魔法も簡単なものしか習っていない一年生で名乗りを上げるものはいないようだ。と、思っていたのだが、僕達の後に続いて、一人だけ列から外れた人物がいた。

「私も行きます。これでも、魔獣から辺境を守る、フィッシャーの男ですから」

 フィッシャー辺境伯爵子息である。魔獣から国境を守る、南の辺境伯爵家長男としては引けない戦いだろう。決意に満ちた力強い目でそう言って、僕達の後ろに付いた。ベルナール伯爵令嬢は後方支援に徹するようだ。申し訳なさそうに此方を見ているが、適材適所だ、気に病まなくていいと思う。

「集まったか。総勢52人。想定よりは僅かに多いと言った所か」

 ヴィヴィア先生の所に集合する。三年生実践クラスと、二年生の実践クラスの一部、そして僕達。人数的にはかなり微妙だが、先生の予想よりは多かったようだ。先生は少し考えた後、五人で一組を作るように言った。

「殿下、クインテットさん、モミジさん、後はフィッシャー辺境伯爵子息を入れたら五人ですねぇ」

「モミジ様とミフネさんは防御より、私は攻撃よりですので、バランスの問題はないでしょう」

「いや、殿下をお守りする必要もあるのだから、一年生だけのチームと言うのは……」

 即座に人数を数え、五人です、と笑うミフネ嬢と、戦力を分析して問題なしと断じるクインテット嬢。一方で、志願はしたものの三年生との実力差は流石に感じているのか、子息は一年生だけでチームを組むことは反対のようだ。

「ストックデイル侯爵子息は如何思われる?」

「僕としては、慣れてるメンバーの方が連携を取れるかと」

「その意見は正しいと思います。が、実践能力だけでなく、知識面でも我々一年生は三年生に及ばぬ部分も多い。せめて、大して連携に影響がない私は上級生と交代して……」

 僕達四人の連携の高さは武器になる。その上で、安全性を高める為にも上級生はいた方がいい。ならば、必然的に交代要員になるのは子息である。

普通なら、此処で殿下に実力を示しておきたいところだろう。それでも自ら交代を申し出るのは、三年生との実力差を正確に受け止めているからか、それとも、以前男に体を乗っ取られたことによる自信喪失が原因か。

「フィッシャー。その必要はない。五人組を作れば二人余る。そうなれば、一年生のチームに追加で一人入れるのは当然だ。エルガー」

「はい。ということで、よろしく」

 子息に、何を言えばいいのか。そう思っていると、先生が先程の三年生、エルガー伯爵子息を連れてきたことにより、チームの問題は解決した。にっこりと笑って輪に加わった彼を見て、安堵する一方でどうしようもない違和感を抱いたのであった。


次回更新は12月1日17時予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ