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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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規則の理由

「わ、私の後を着いてきてますよね……?」

 ベルナール伯爵令嬢の泣きそうな声が廊下に響いた。間違いなく、足音が追っているのは令嬢だろう。

「気の所為だと思いたいなら、もう一回やってみます?」

 ミフネ嬢が言うと、令嬢は静かに頷き、一歩踏み出した。ぺたり、足音が一度響いた。気の所為ではないことが確定し、令嬢の目が今度こそ潤んだ。

「これで誰が狙われているかは確定しましたが……」

「と、なると、何故、どうやって、が問題ですね」

「なんでそんなに冷静なんですか……?」

 僕達としては、一番危惧していた殿下が狙われている状況は回避できたので、ある程度冷静に対応できる。冷たいかもしれないが令嬢の優先度は殿下より下だ。

「まず、追いかけてきて何をしたいんですかねぇ」

「今のところは距離を取っているようだけど、一人になった時に近付いてくる可能性もあるね」

 そもそも、何が追いかけてきているかはわからないが、一人にならない方が良いのは間違いないだろう。相手が不審者でも得体の知れないものでも、狙うのは対象が一人の時が多い。

「なら、わたしと一緒にいましょうか。クインテットさんは殿下の護衛がありますし」

「そうですね」

「ありがとうございます……」

 僕と令嬢は性別が違うため、幾つか授業が違う。そして、クインテット嬢は殿下の護衛があるので、忙しい。結果、言い出しっぺであるミフネ嬢が令嬢と一緒に行動することになった。

「それにしても、何が原因なんでしょうねぇ?」

「最近、他に変わったことはありましたか?」

 令嬢に尋ねると、混乱しながらも必死に何か変わったことがなかったか、思い出し始めた。そして、暫く考えた後、あ、と小さな声を上げた。

「私、流星群の日に、すぐに眠れなかったんです」

「空を見ていた訳ではないんですか?」

「規則を破る気にはならなかったので、ベッドで横にはなりましたが、中々寝付けなくて……」

 その日から微妙に寝つきが悪くなっており、またその日以外は眠る時間が遅くなったことはないので、何か原因があるとすればそれだ、と令嬢は言った。

「結局、就寝時間の規則に行き着くんですね……」

「暫定的に、この足音は規則と関係のある何かと考えて良さそうです」

「考えやすいのは、遅くまで起きていると足音の主に目を付けられる、ということかな」

 そう考えると、先生が遅くまで起きていたことを誤魔化そうとしても無駄だ、と言っていた理由もわかる。こんな事態になるなら、生徒は自発的に先生に相談する。そして、自分で夜更かししたことを自白することになるのだろう。

「と、なると、先生方に聞けば対処していただけるのかな?」

「ヴィヴィア先生は実践魔法の担当だし、恐らく対処法を知っていらっしゃるとは思う」

「なら、放課後にでも聞きに行ったら良いですかね」

 今日の午後は実践魔法の授業はない。今から教職員棟に行っていると、昼休みが終わってしまうので、放課後に向かった方が良いだろう。放課後まで何も対処できないので、令嬢は不安かも知れないが。

「どうします?ルイーザさん、このまま三年生に話を聞きに行きます?それとも戻りますか?」

「だ、大丈夫です。行きます」

 過去も似たようなことがあったなら、先生から教えてもらった対処法を知っている人がいるかも知れない。そう思い、上級生への聞き取りは予定通り行うつもりだ。

「僕達だけでも話は聞きに行くので、無理はしなくていいですよ」

「いえ、頼んだのは私ですし、行っても行かなくても着いてくることに変わり無いなら、少しでも早く話を聞きたいですから」

「そうですか」

 人が多いところにいたい、と令嬢が思うのなら僕達だけで行こうと思っていた。が、大丈夫そうなのでそのまま三年生の教室へ向かう。ぺたり、という足音に気をつけつつ、令嬢と殿下を中央に匿いながら、廊下を歩く。

「更に後ろに人がいれば、距離を空けるみたいですねぇ」

「本人以外は避けるみたいだね」

 など、新たな事実を発見しつつ、三年生の教室に到着した。クインテット嬢が教室の入り口で伯爵家の令嬢を呼ぶと、このクラスからは一人の伯爵令嬢が出てきた。

「あの、すみません。昨日の夜、三階廊下を歩く音が聞こえた件で聞き取りをしてます〜」

「昨晩ですか?」

「ええ、そうです」

 ミフネ嬢が事情を説明する。すると、三年生は何かに気付いたようで、急に顔を青くして僕達の方を見た。

「真逆、また……」

「どうしたんですか?」

「私じゃないわ!!誰か、就寝時間を守らなかったんでしょう!?」

 その瞬間、僕達の耳にはっきりと、ぺたり、という音が聞こえた。すると、その人は更に顔を青くし、僕達を半ば睨みつけるように見た。

「私は確かに、あいつを知っているわ。でも、あいつに名前を付けてはいけないの。貴方達の誰がルールを破ったかは知らないけれど、一人にならないことね」

「対処法はないんですか?」

「何も覚えてないわ。ただ、あいつの正体がわかるなら、対処法はあると思うわ」

 そう言って、三年生は教室の中に戻っていった。僕達は、あいつ、とは何なのか、頭を悩ませることになったのだった。


次回更新は7月24日17時予定です。

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