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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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授業の覗き見

 三年生の二人組の後、その後も上級生数人に声を掛けたが、三年生は同じように断られ、二年生も派閥が違う相手には断られた。結局、きちんと話を聞くことができたのは三人ほどで、特に重要な情報も得ることができなかった。

「今更ボガートの話を聞いても、解決しちゃってるんですよねぇ……」

「逆に、何故解決したのかが謎になってたね」

 武術は剣、槍、弓の三つに分かれる。僕とミフネ嬢は弓術、殿下は剣術、クインテット嬢が槍術である。この時間だけは王宮騎士団の護衛が殿下に付いているので、別行動しても心配いらないのだ。殿下の護衛を考えなくていい時間だからこそ、頭を使おうとミフネ嬢と決めたので、現在は矢を放ちつつ喋っていた。

「その辺は、秘匿しておくということで……。何本当てたら終わっていいんでしたっけ?」

「ヴィヴィア先生にもバレてないからね。黙っておこう。十本で終わりだよ」

「呆れられるだけとは思いますけど、詳細を聞かれると思い出すのが面倒ですもんねぇ」

 とん、と軽い音がして、矢が的の中央に刺さる。僕は今の矢で九本目。ミフネ嬢は僕に話しかける前はかなり手を抜いていたというか、やる気が無かったので五本目のようだ。

「何か気になる話ありました?」

「そういえば、三年生が魔法と動物の関係性を授業で習うって……」

「理論魔法ですか?結構面白そうですねぇ」

「いや、実践魔法の授業でやるらしい」

 すると、ミフネ嬢は目を丸くした。座学で習う範囲だと思っていたらしい。僕も正直、関係性だけなら座学で十分だと思ったのだが、実践でやる意味があるのだろう。ミフネ嬢は少し考えるようなそぶりを見せた後、急に弓を持ち直し、連続で矢を五本放った。

「一、二、三、四、五」

「……本気になればできるなら最初からやればいいのに」

 放たれた五本の矢は、吸い込まれる様に的の中央に刺さった。連続で矢を放つと腕にかなりの負担がかかるので普段なら絶対しないだろうに、実践魔法の授業が気になるようだ。

「終わった後は、何しようと自由ですよねぇ?」

「本来なら寮に戻って自習するべきなんだろうけどね」

「三年生の授業内容の予習ですから問題ありませんね」

 にっこりと微笑むミフネ嬢。僕も気になっていたところなので、何も言わず授業用の弓を元あった場所に戻す。ミフネ嬢も隣に弓を立てかけて、担当の先生に一言告げた後、訓練場を後にした。


 一応、きちんと授業を終わらせてから来ているとはいえ、ヴィヴィア先生に見つかるとまだ早いと怒られそうなので、隠れつつ様子を伺うことにした。

「あ、あの辺りですね。先生見つけました」

「本当だ」

 三年生全員が、グラウンドで輪になるように先生を囲っている。一見、謎の儀式である。

「見た目、かなり怪しいですねぇ」

「魔法陣からして、召喚系だと思うけど……」

 先生の足元にあった魔法陣が光った。何が起こるのだろうか、と身構えるが、一見何も変化はないように思えた。失敗したのだろうかと首を傾げると、周囲がにわかにざわめき始めた。

「わ!!」

 グラウンドを見渡せる少し高い位置にある草むらに潜んでいたのだが、ミフネ嬢の足元を黒い猫が走り抜けていく。近くの木からは鳥が飛び立ち、一直線にグラウンドの中央へと向かっていく。

「動物が……」

「集まっていってますね」

 貴族院内の動物が全て集まったのではないか、そう思えるほどの数の動物がグラウンドの生徒の輪の外に並んでいた。

「便利そうですねぇ」

「でも、かなり大きな魔法陣を描いてるみたいだし、手間も魔力も掛かりそうだな」

「規模を小さくしたら大丈夫なんじゃないですか?」

 ほら、とミフネ嬢がグラウンドを指さす。そこには、ヴィヴィア先生が使用した魔法陣より二回り小さい魔法陣が、先生の魔法陣を囲むように四つ描かれていた。

「あれ、ちゃんと縁取りして描いてあるので、暫くグラウンドにあると思いますよ」

「魔法を使わない限りは、すぐに撤去はできないと思うけど、ミフネ嬢、まさか……」

「流石に、事前知識なしではやりませんよ」

 つまり、知識さえあればやるつもりのようだ。ある程度魔法陣の模様から理解できるとはいえ、効果もはっきりわからないし、此処からだと先生の話も聞こえない。

「そのための風魔法じゃないですか」

「待って、僕にやれと?」

「はい」

「魔法を使ったら流石に気付かれるって!!」

 僕の魔力は覚えられているだろう。先生の発言を聞くとなるとかなり近い場所から魔法を使って僕たちのところまで風を届けないといけない。風向きが変わったら不審に思われるし、敵意がなくても発動した魔法に先生が気付かないとは思えない。

「隠れてる意味がなくなる」

「でも、内容知りたいじゃないですか」

「暫く様子を見よう。まだ先生の魔法は続いてるし」

 これで、あまり関係ない効果だったら思い直してくれるだろう。そう思ったのだが、先生が右手を挙げた瞬間、動物たちが列を作り、一匹ずつ先生の前に出て口や体を動かすのを見て、ミフネ嬢は無言で僕の方を掴んだ。

次回更新は11月21日17時予定です。

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