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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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魔法と動物

 ありとあらゆる手段を使って情報収集を始めたものの、すぐに成果が出るわけではない。特に、情報源として最も期待できるノリスと遣り取りをするのは、ヴィヴィア先生の都合もあって週に一度が限界だ。当然、調査は難航しており、僕たちは昼休みに食堂で頭を抱えていた。

「五日間、いろんな人に聞いて回ったのに全く進展がないってどういうことですか?」

「次にノリスと話ができるのは明後日ですよね。それまでに、少しでも候補を絞れると良いのですが……」

「ほぼ全生徒が候補だからな……」

 別行動のフィッシャー辺境伯爵子息からの報告は三日に一度だ。明日、放課後こっそりと伝えに来るとは思うが、この調子だとあまり期待しない方がいいだろう。

「わかったことといえば、現時点で誰に聞いても知らないと返されることくらいですよ」

「それは何も分かっていないと言うのでは……」

「強いて言えば、人目につかないように気にしているかもしれない、と言うことがわかったくらいかな?」

 特定はできない情報である。結局、何も進んでいない。全員、何も言えず食後の紅茶を飲む。が、すでに残り少なかった為、二口で飲み切ってしまった。

 かちゃん、とカップをソーサーに置く僅かな音が響く。昼休みは残り半分を切っている。次は武術だから教室棟からは離れるし、今から他の教室に行くのは厳しい。かといって、何もしないのは落ち着かない。

「せめて、食堂付近にいる生徒から話を聞きましょう」

「そうですねぇ」

 僕がそう言うと、ミフネ嬢も残っていた紅茶を飲み切り、立ち上がった。ちらり、と窓から外の様子を伺うと、まだ食事の為に出入りをしている生徒が多い時間のようだ。それなりに話は聞けるだろう。

「どうせなら、上級生から話を聞きたいところですよねぇ」

「関わりが少ない方からはどうしても話を聞きにくいですからね」

「周囲から疑われない方法もきちんと考えておいてくださいよ」

 直接的な面識のない下級生から突然話しかけられても困惑するだろう。内容が、貴族院生活を普通に送っている上では関係ないようなものなら尚更だ。

「大丈夫です。今なら、あんなことがあったばかりですし、貴族院で起こった不思議なことで、気を付けることが無いか不安になる生徒がいてもおかしくありません」

「成程」

 急に何か起こると不安だから、知り合いでなくとも上級生に手当たり次第に話を聞いて、できる限り対処法を覚えようとしている、と思わせるのか。ミフネ嬢なら大抵のことは対処法を知らなくても何とかしそうだが、相手は実態を知らないので上手く騙されてくれるだろう。

「私も、殿下をお守りするための情報収集という事にします」

「事実の方が信じて貰いやすいからいいと思うよ。僕もそうしよう」

「私は、二人のどちらかと一緒に行動しておこうか」

 ミフネ嬢は単独行動の方が動きやすいだろうから、僕達のどちらかと動くのは確定。問題は、どちらと一緒に居る方が安全なのか、ということだ。僕の方が魔法は得意だが、身体能力的はクインテット嬢の方が高い。

「それなら、クインテット嬢といてください。僕もそんなに離れないようにしておきます」

「わかった」

「では殿下。こちらに」

 魔法は少し離れていても使える。一方で近距離戦闘なんて僕には無理だ。クインテット嬢といた方が安全だろうと判断し、視界に入る程度の場所まで離れる。ミフネ嬢は既に食堂から大分離れた場所まで行って上級生を捕まえているようだ。

「あ、すみません」

 僕も負けていられないな、と歩いていた男女二人組の上級生に後ろから話しかける。

「はい?」

 くるり、と男子生徒の方が振り返ったのだが、その顔を見て、僕は一瞬停止した。驚くほどに、女性的な顔立ちをしていたのである。

「一年生の、ストックデイル侯爵子息ですよね。どうかなさいました?」

 続いて女子生徒も僕の方を見る。茶色いサイドアップの髪を蝶の髪飾りで纏めている。よく見ると、男子生徒の方も黒髪を後ろで一本に纏めているが、小さめの同じ蝶の飾りをつけているようだ。そして、その飾りに使われている宝石を見て、名前を思いだした。

「突然すみません。スミュール伯爵令嬢、コルベール男爵子息。少々お伺いしたいことがあるのですがお時間宜しいですか?」

 この二人は、同年代の中では比較的有名な婚約者同士である。学年は確か、三年生だったはずだ。二人は僕の質問に顔を見合わせた後、申し訳なさそうに眉を下げながら言った。

「ごめんなさい。この後、実践魔法の授業でグラウンドに行かないといけないのです」

「今日の授業はかなり特殊で、早めに集合するよう指示が出ているんだ」

「此方こそすみません。そんなに大変な内容を三年生はするんですね……」

「今日は魔法と動物の関係の授業で……」

「三年生になったら全員習うと思いますよ。ほら、早く行かないと遅れる」

 そう言って、二人は頭を下げて去っていった。魔法と動物、という言葉が、なんとなく心に残った。


次回更新は11月20日17時予定です。

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