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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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一つの足音

 僕達は一年生から順番に、伯爵家の女子に話を聞いていった。理由は簡単で、寮の部屋は爵位によって階が変わるが、学年ごとにある程度部屋が固まっているので、ベルナール伯爵令嬢の近くの部屋は一年生が多いからだ。

「昨日の夜、廊下から足音が聞こえたりしませんでしたか?」

「他にも、普段とは違う感覚があれば教えてください」

 といった内容で聞き取り調査を行った。しかし、殆どの女子は昨日もすぐに眠ってしまったため、深夜に何かあったとしても気付いていない、という返事だった。半分くらい聞いた所で、気になった点を挙げるとするならば、

「最近、ベッドに横になっていると、急に意識が無くなることがあって……」

 という人がいたことだ。曰く、まだ眠るつもりではなく、ベッドに座ったり横になったりして考え事をしていたはずなのに、いつの間にか眠ってしまっているという。偶然かと思ったらしいが、元々は寝つきが良くないのに、この二、三日続けて起こっているので少し気になるらしい。

「なんとなく、昨日の僕と似ているような……」

「何がですか?」

「あの、二年生の、寝つきが良くないって人の話」

 考え事をしていたら、思わず声に出していたらしい。僕も、昨日は眠るつもりがなかったし、香り袋の匂いはスパイシーな感じで、眠気を吹き飛ばすような感じだった。飲み物だって眠気を誘うようなものは気を付けて飲まなかったのに、気付けば眠っていた。

「気付けば眠っている人と、深夜に足音を聞いた人、か……」

「真逆ですよねぇ」

「何か、共通点がないかな、と」

 まあ、まだ半分だ。残り半分の調査が終わってから考えても遅くない。それに、上級生なら一年生が知らないことを知っている可能性が高い。新たな情報を得られることを期待しながら、聞き込みに向かうのであった。


 二年生の伯爵家令嬢は少ないので、三人から話を聞いたところで三年生の教室に移動することにした。現時点で収穫はなし、三人とも去年、目の前で冷めきった目をしたヴィヴィア先生に同級生が怒られている所を見ていたので、それから毎日時間通りに寝ているらしい。

「怒ったヴィヴィア先生って、怖そうですよねぇ」

「あんまり想像できないかな」

「目とか光りそうじゃないですか?」

「流石にそこまではならないと思うけど……」

 くだらない事を言いながら廊下を歩いていると、突然、後ろから視線を感じた。すぐに振り向くが、誰もいない。僕以外も視線を感じたようで、クインテット嬢とベルナール伯爵令嬢も後ろを向いていた。

「今、見られてる気がしなかった?」

「……しましたね」

「でも、誰もいません……」

 ミフネ嬢と殿下は気付かなかったようで、首を傾げている。確かに誰かが見ているように感じたのだが。念のため、とクインテット嬢が曲がり角を確認したが、誰もいなかったようだ。

「……次に行きますか」

「そうですね」

 なんとなく、違和感を感じるものの、誰もいないことに変わりはない。僕達は後ろを気にしながら、三年の教室へと歩く。そして気付いた。今日は普通に授業がある。なので、教室や廊下には他の生徒もいるはずなのだ。なのに、誰も後ろにいないということは、僕達と同じルートで移動している人が全くいないということだ。

「昼休みとはいえ、あちこち歩いてるのに……」

「そういえば、一度も後ろに人がいたこと、ないですねぇ」

「後ろを歩くのを躊躇う、ということはないでしょうし……」

 全員が黙って、一歩踏み出す。無音。暫く歩き、先頭のベルナール伯爵令嬢が立ち止まるのに合わせて、他の全員が止まる。ぺたり。足音が一つ聞こえた。

「……1人ずつ歩いて、止まってみます?」

 クインテット嬢が提案した。誰の後ろに着いてきているのか把握できれば、都合の悪いときに別行動をしたり、逆に待ち伏せることもできる。

「僕は賛成」

「そうですねぇ」

「私も異論ないよ」

 誰からやろうか、と順番を決めようと思っていると、ベルナール伯爵令嬢が声を上げた。

「え、ええええ!!怖くないんですか?」

「狙われている人物、理由、手段がわかればそんなに……」

「全くわからない方が怖いですよねぇ」

 一般的には、急に後ろをつけられていたら怖いかもしれないが、僕達はこれでも第一王子の側で育っている。不審人物の対応の仕方くらいは初歩だ。

「現時点では着いてくるだけだからね」

「危険性が低いうちに確認できることを確認するべきです」

 まあ、相手が人間とは限らないけど。僕達が止まれば止まる、と言うことは一定のルールを守って追いかけてきているはずだ。

「さて、誰からやります?」

「殿下は中央にいて頂きたいので、私から」

「僕は一番後ろかな」

「なら、私はミフネ嬢の次にしようか」

 ベルナール伯爵令嬢は最後でも構わないかな?と殿下が優しく問いかける。令嬢は、自分がおかしいのだろうか、と少し不安そうだ。多分普通だが、今は僕達に従ってもらうしかない。

「では」

 クインテット嬢が進んで、止まる。音はしない。次に、ミフネ嬢、殿下と試すが、問題なし。僕も一歩、二歩と進み、止まる。音はしない。

「お、置いていかないでください……」

 そして、泣きそうな顔の令嬢が一歩、二歩と進み、僕の隣で止まった、その時。ぺたり、と、静かな廊下に、小さく、しかし確かに足音が響いたのだった。

次回更新は7月23日17時予定です。

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