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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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ミフネの答え


 死者の国。死んだ人間の魂は、この国の北にあるというその国へと向かい、裁判を受け、そして正式に死者として認められる。と、言われている。生きている人間は神の加護下。逆を言えば死者なら神の加護が適応されないという判断か。

「死者ではあるが、正式な住民ではない」

 期待を込めた質問だったが、残念なことに死者の国の住人ではないらしい。ということは、死んでからあまり時間が経っていないか、何らかの理由があって死者の国に行っていない魂だということになる。後者だった場合は魂のルール的なものを破っているので、加護は与えられていない可能性が高い。

「希望はありそうですけど……」

「でも、不確定ですし、それに今の質問って……」

 間違いでなければ五つ目の質問だった気がする。その通りだ、と言うように男の声がグラウンドにいる全員に聞こえるように張り上げられた。

「さて、最後の質問は終わりだ。答えてもらおうか、何故、この体は乗っ取られたのか」

 解答時間は一応無制限、僕達が答えるまで相手は動かないとはいえ、長時間全生徒が動かずにいられるかと言うと少々厳しい。あまり時間は残っていない。どうする、とミフネ嬢を見遣る。

「……ヴィヴィア先生、お願いが」

 ミフネ嬢は、小さな声で先生に言う。その声は僕にも聞こえないくらいだ。先生は一瞬だけ目を見開いて、にやりと笑って他の先生たちに向かってハンドサインを送り始めた。にわかに生徒が集まっている方が騒がしくなる。

「どうした?まだ答えが纏まらないか?」

「解答時間は無制限でしょう?もう少し待ってくださいよ」

 男は此方が見えていないからか、全生徒で考えていると勘違いしてくれたようで助かった。そうしているうちに、段々とざわめきは引いていき、そして、何かが時々宙を舞っているのが見える。

「え、ミフネ嬢、何あ……」

「静かに。大丈夫です。誰か一人くらいは持っていると思ったんですよねぇ」

 恐らく、先生に頼んだ物、なのだろう。宙に投げられては、誰かが受け止め、また投げられ、徐々に此方に近付いてきて来る。落とさないように、音を立てないように、ゆっくり、ゆっくり。

「まさか……」

「さあて、モミジさん。回答は任せてください。代わりに、あれをお願いします」

「待って、僕じゃ無理だって……」

「形は作ります。狙いは付けられるでしょう?」

 そう、此方に向かって来ているのは、誰かの私物であろう木製の弓だ。大きく投げられたそれをヴィヴィア先生が片手で受け取り、僕に渡してきた。そして、構えろ、と短く告げられる。

「いいですか?魔法を使ったら即座に気付かれます。なので、直前まで矢は作りません。回答が終わったその瞬間、この瓶の中の聖水を矢に変えますから、魔法に気付いて起き上がった隙を見て、やってください」

「初めて触る弓で、一瞬で狙いを付ける……?」

 正直、自信はない。弓を使えるとはいえ、一つは武器が使えないと不味いから使えるようにしているだけで、得意という訳ではないのだ。

「ミフネ嬢が、直接魔法を使えば……」

「普通に水魔法として撃ったのではあまり速度が出ません。最悪弾かれます」

 魔導士レベルなら兎も角、僕達の実力では威力とコントロールの両立は難しい。特に、水と地属性はコントロールが高い一方で操作速度を高めることは難しい。

「コントロールを僕が補正しても、難しいか……」

「ですねぇ」

逆に、速度を出しすぎるとフィッシャー辺境伯爵子息が無事では済まない。高圧の水が掛かって若干痛みを感じるレベルに抑えることを考えると、先の丸い矢が当たった程度が上限なのだろう。

「……最悪の場合、魔法で修正してくださいよ」

「余裕があれば。回答の方も一応真面目にするつもりなので」

 覚悟は決まった。本来なら殿下には下がっていてもらいたいが、身動き取れない状況では仕方がない。受け取った弓をしっかりと構え、ミフネ嬢に此処に矢を作ってほしい、と伝えておく。

「覚悟が決まってる良い顔ですねぇ。先生、殿下をお願いします」

「本来はお前たちも保護対象だがな」

 こうはいっているものの、殿下と男の位置をしっかり確認しているし、何かあったら僕達にも手を貸してくれるだろう。ミフネ嬢はにっこり笑い、声を張り上げた。

「『答えます』、貴方は、純粋に貴族を嫌っていて生徒を昏睡させました」

「え?」

「子供は神の加護が強すぎて、大人は護身用の魔術道具を持っていることが多い。だから、一番無防備な生徒を狙いました」

 筋の通っている説明ではあるが、よくあれだけ関連のなさそうな情報から考えつくものだと感嘆する。

「最終的な狙いは、乗っ取った体を操り、貴族間、つまり家同士に対立を起こさせることが目的でしょうか。そして、フィッシャー辺境伯爵子息の体を選んだ理由は、昏睡した生徒の中で最も爵位が高く、家柄も良く、魔力が多かった。『以上です』」

「ふ、ははははは!!あの断片的な質問からどうやって考えた?」

 ミフネ嬢の回答が終わった時、確かに、そう男は笑った。

次回更新は11月11時17時予定です。

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