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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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五回の質問

 フィッシャー辺境伯爵子息の声は、麻痺の効果の所為かたどたどしく聞こえる一方で、もう一つの男の声は流暢に聞こえてくるので気持ちが悪い。それに、ヴィヴィア先生に詰め寄られていても焦る様子がない。警戒すべき相手だろうと判断し、ミフネ嬢と頷きあう。

「殿下、わたしの後ろに」

「すまないね、ミフネ嬢」

「相手が火属性を使う事は分かっていますから、ミフネ嬢の側が一番安全でしょう」

 そのミフネ嬢と子息の間に僕が立ち、相手から殿下が見えないように視界を遮る。すると、相手は僕の行動を見て口の端を歪ませた。

「そんなに警戒しなくても、第一王子殿下に危害を加えるつもりはない」

「そんな言葉を鵜呑みにするとでも思ったのか?目的はなんだ」

 段々と子息の声は聞こえなくなってきて、完全に知らない男の声だけになっている。ヴィヴィア先生は相手に対して掌を向けたまま、冷静に問いかける。恐らく、いつでも魔法を撃てるようにしているのだろう。

「物騒だな、このまま魔法を撃てばこの生徒にも当たるぞ」

「……やはり完全に別人か。何故フィッシャーを乗っ取っている?」

「質問が多いな」

 取り敢えず、相手は子息の体を乗っ取っていることは確かなようだ。まあ、完全に別の声だし、子息が態々こんなことをする理由はないので当然と言えば当然だが、問題は現時点では子息は人質に取られているようなものだという事だ。

「なら、こうしよう。お前達の質問になんでも答えてやる。ただし、質問できるのは五回。それに、質問はイエスノーで答えられるものしか受け付けない」

「何をふざけたことを……」

「簡単な推理問題だろう?正解したら、この生徒は返してやる」

 子息の体は麻痺が完全に回ったのか、全く動かない。しかし、男の声は楽しそうにそう言ってきた。質問が多いから数を絞りたい、それにしては提示してきた条件が引っ掛かる。人質を解放するメリットはない筈だし、何故推理問題を仕掛けてきたのか。

「信用できるはずが……」

「不正解の場合は、何を要求するつもりですか?」

「ストックデイル!!」

 バッサリと断ろうとするヴィヴィア先生の言葉を遮り、僕は男に質問した。正解の時のメリットを示すのなら、不正解の時の要求がある。その要求から相手の考えを少しでも読み取ることができれば、対策を立てることができるかもしれない。

「話が分かる奴がいるじゃないか。勿論、お前達が不正解だった時は此方からの要求を呑んでもらう。ただ、内容はその時になるまで言うつもりはない」

「先に行って貰わないと実現可能か判断できない」

「いいや?やろうと思えば出来ることだ。それに、お前達に選択肢なんてものはない」

 そう言うと、先程から全く動いていなかった子息が僅かに動き出す。そして、指先を自身の喉に押し当てた。わかりやすい脅しである。確かに、断るのはリスクが高い。その上、相手の目的を探って先に対処しようにも要求を聞き出すのは失敗した。

「ミフネ嬢、どう思います?」

 ちらり、と一連の会話を聞いていたはずのミフネ嬢の方に振り返り、小声で尋ねる。すると、ミフネ嬢は顎に手を当てて、暫く考えてから僕の方を見てにっこりと笑った。

「要求を言わない、という事は要求を告げれば相手の特定が容易である可能性が高いです。少々引っ掛かる点も多いですし、できる限り会話を引き延ばして情報を出すしかないですねぇ」

「で、その引き出し役は?」

「モミジさん、お願いします」

 わたしは殿下の護衛がありますから、と笑顔で言い切られると、現時点で護衛として役に立たない僕は何も言い返せない。仕方がない、と溜息を吐いて、ヴィヴィア先生の隣まで近づき、男に話しかける。

「先に、推理問題のルールを確認してもいいですか?」

「そうだな、後からルールの穴を突かれても面倒だ」

 子息の表情が変わっている訳ではないが、相手の声音から余裕があるのが分かる。まあ、最悪相手は勝負のルールなんて無視して人質を盾にすれば切り抜けられるからだろうが、それならこんな遠回りをする理由が理解できない。

「まず、僕達が答えないといけない正解は何ですか?それによって質問は全く変わりますよね?」

「そうだったな、答える内容は、何故この体を乗っ取ったか、でどうだ?」

「僕達の最初の質問の答えを自分たちで見つけろ、という事ですね」

 かなり不利な問題である。相手がどんな存在なのかもわかっていないし、正直、僕は子息のこともあまり知らない。他にもいる倒れた人物、もしくは貴族院の生徒の中から選ばれるような理由を知っているとも限らない。

「他に確認しておきたいことが無いのなら、推理問題を始めるが?」

「……いや、一つ、確認することがある」

 子息を選んだ理由は想像がつかない。でも、推理問題を仕掛けてくる相手、と言うのには既視感がある。

「只の会話を其方が質問だと勝手に判断して答えた場合は?」

「特定の文言に質問を挟めばいいだろう?」

 ミフネ嬢を振り返る。これで一つ、手掛かりは手に入った。


次回更新は11月5日17時予定です。

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