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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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人の探し方

 姿勢制御をしようと思うのなら、目を瞑ってはいけない。そう思って必死に閉じそうになる目を開け、自分の状況をしっかりと確認する。少しでも体が傾いていくのを感じれば、風魔法で修正する。クインテット嬢の魔法のお陰で勢いが殺されているのか、ゆっくりと地面が近づいてきているのが余計に恐怖を煽る。

「もう、少し……」

 一度、地面に向かって強く風を吹かせ、更に勢いを弱くする。きちんと両足で着地できるよう、余裕をもって、ゆっくりと。そうして、目的地である地面に足が触れた瞬間、ぽふ、という音と共に足から順に体が沈んだ。

「うわっ!?」

「衝撃を殺すために柔らかい素材のマットが敷かれていたようで……、立てますか?」

 力を入れようにも、力を入れた部分から沈んでしまって中々立てない。これは恐らく、ノリスで実験をしたときにも使った低反発マットだろう。そう思っていると、クインテット嬢が手を差し伸べてくれた。

「心臓に悪かった……」

「風魔法で落下の勢いを完全に殺した着地でしたね。素晴らしかったです」

「僕としてはクインテット嬢の方が凄いと思うけど……」

 小細工なしの身体能力だけで着地することができるのだから、十分に誇ることができると思う。僕の着地に関しては、クインテット嬢の援護があってこその部分もあることだし。引っ張って貰ったことでマットから抜け出すことに成功したところで、次の指示を確認するために日程表を開く。

「既に疲労困憊だけど……」

「まだ、昼にもなっていませんね。まだまだ課題はあるかと思います」

「まあ、課題は何とかなると思うけど……」

 課題の内容がとんでもないとは思うものの、自身のスキルアップの為だと思えば耐えられないこともない。ただ、こんな非日常的な日は、何か予想外のことが起こりそうだ、となんとなく思ってしまう自分がいる。

「早速ですが、次の課題は『殿下を探せ』、ただし、グラウンドには入らない事、ですか」

「殿下との合流は願ってもない事ですし、取り掛かりましょうか」

「そうですね」

 この広い貴族院の中から一人を探すとなると大変だが、地道に探していればいずれ見つけることができるだろう。先程の、窓から飛び降りろという指示に比べれば随分と良心的な課題である。そう思って僕は早速、近くの建物から順に探していくことにしたのだった。


 ヴィヴィア先生が、単純な課題を与えるはずがなかった。僕が考えを改めたのは、殿下を探し始める前はまだ頂点に至っていなかった太陽が、真上に輝くようになった頃だった。一年生は魔法の授業中とはいえ、二、三年生は通常日程での授業だ。なので、探す場所はそれなりに限られるはずだったのだが、幾ら探せど手掛かりすら見つからない。

「……見つかりませんね」

「殿下の行動範囲内にある場所は全て探しましたし、本日授業で使われる予定のない教室も確認しました。それでも、殿下がいらっしゃらないとなると、私達が予想もしていない場所に……?」

「それか、殿下も僕達を探してすれ違っているか……」

 捜索の効率化を図り、且つ殿下も独自に行動している可能性を考慮して、僕とクインテット嬢は捜索時間と場所を決め、分担して殿下を探していた。そして、僕達が普段訪れる場所や、その付近の部屋は調べられるだけ調べたのだが、全く以て見つからない。

「もしかすると、魔法を使わなくては見つけられないのかもしれません」

「魔法、って言われても……」

 風魔法しか使えない。例えば、隠密魔法が使えるのなら、同じく隠密魔法で姿が見えなくなっている相手を見つけたりできるが、僕達が使うのは一般的な風魔法。風を起こし、その風の流れが少しだけ分かる。それだけの魔法だ。

「窓が無い廊下なら兎も角、こんな場所で風魔法を使っても、自然の風で散って大した情報収集はできない上に、大量の魔力を消費するだけだよ」

「この後も課題が残っていると考えると、貴族院全体を風魔法で捜索するのは得策とは言えないですね……」

 行動方針を見失った瞬間、身体から力が抜ける。飛び降りた直後にあちこち捜しまわっていたので体は限界だったようだ。クインテット嬢に少し休もう、と声をかけ、近くのベンチに腰掛ける。

「このままただ探し回っても埒が明かないですし、何か効果的な方法を考えないと……」

「せめて、ヒントのようなものがあればいいのですが……」

 二人揃って溜息を吐く。すると、待ってましたと言わんばかりに僕達が持っていた日程表が勝手に開き、先程までは開かなかったはずのページが開いた。そこには、課題を達成できない場合、以下の物を使用すること、という書き出しの下に、短い単語が綴られていた。

「……『手紙』?」

 そして、そのページには、手紙、という言葉が書かれているとともに、手紙を書くために使うのか、大量の紙も挟まれていたのだった。僕とクインテット嬢は、手紙と風魔法の共通点を考える。そして、ハッと気付いた。

「貴族院中、でも調べるんじゃなくて……」

「風魔法で届ける、という事ですか?」


次回更新は10月28日17時予定です。

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