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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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香り袋の効果

 昼休みに聞き込みをした結果、分かったことが幾つかあった。とはいえ、話を聞くことができたのは三年生が三人と二年生が一人、後は去年卒業した兄妹がいる一年生が一人だけだったので、情報はまだ集められるだろう。

「取り敢えず、全ての話に共通した項目が三つあります」

まず、就寝時間の規則ができたのは少なくとも今の三年生が入学した時以前、つまり、五年以上前だという事。次に、毎年規則について話題に上るのは、入学直後の流星群の日頃だけだということだ。最後に、規則を破ったものは須らく教師に呼び出されるが、本人はもうしない、としか言わないことだ。

「……最初の二つはわかりますよ?規則が決まった年が分からないのは仕方がないし、あれだけ怒られている所を見れば誰だって破らない様に気を付けます。そのうちに習慣になって、疑問にも思わなくなるでしょうから」

「その割には不服そうだけど」

「最後ですよ、最後。何で全員口を揃えて『反省している、もうしない』なんですか」

 ミフネ嬢は口を尖らせて言った。そう、不思議なことに、毎年流星群の日に夜更かしして、教師に呼び出された生徒は口を揃えてそう言うのだ。たかが夜更かし、少し寝るのが遅くなっただけで、プライドの高い貴族がそんなに簡単に反省するだろうか。

「わたし、本当に自分が悪くない限り、嘘でも反省しているっていいたくないですよ?」

「それはミフネ嬢が特殊なのでは……」

「いえ、そうでもありませんよ」

 クインテット嬢に言われ、確かに、と納得する。僕の周りには少ないが、無駄に高いプライドを持っている貴族は一定数存在する。それに、ミフネ嬢は言いたくないだけで必要な時は謝罪するだろうし、自分が悪いと思った時はすぐに謝るのでかなりまともな方だ。

「それに、反省も後悔もしない時くらいありますし、反省はあっても後悔しないときもあります」

「……ミフネ嬢は、本当に正直だよね」

「殿下、そこは感心するところじゃないです」

 ミフネ嬢は堂々と言い切った。わからなくはないが、そんなに堂々と言う事でもない。だが、教師の前で反省しているだけではなく、友人にも反省している、と口にするという事は、教師の見張りを余程警戒しているか、心の底からそう思っているかのどちらかだろう。

「私としては先生方が仰っていた、誤魔化そうとしても無駄、という事が気になります」

「それが反省の言葉をしきりに口にする理由と関係あるかもしれない」

「え、やっぱり監視体制が確立してるんですかねぇ」

「私が何も聞いていないから、それは違うと思うけど……」

 安全の都合上、殿下には貴族院の情報や国の決定が知らされていることがある。貴族院内に監視体制が確立されている場合、有事の際に味方に発見されやすいようなルートや、逆に監視体制を利用されないための死角などが知らされている筈だ。それがないという事は、永続的に監視する設備は整っていないと考えていいだろう。

「じゃあ、本当に反省してるんでしょうねぇ」

 ミフネ嬢はそう言ったが、普通、十五歳にもなって、少し夜更かししたからって怒られて反省するだろうか。次はバレない様にしよう、翌日に響かない様にしよう、と思って終わりではないだろうか。

「当事者から話を聞けると良いんですけど……」

「呼び出された生徒が口を割らないのは確認済みだろう」

「そうなんですよねぇ……」

 やはり、直接話を聞けないとどうにもならない、という結論に達し、諦めようと提案しようとした時だった。ミフネ嬢は急に閃いたようにぽん、と手を打ち、僕の両手を握って上目遣いで見つめてきた。どうしよう、全くときめかないどころか寧ろ寒気がする。

「あの……、モミジさん」

「いやだ」

「お願いが、あるんですけど……」

「絶対に嫌だ」

 ミフネ嬢と目を合わせたら負けだな、と思い横を向くと、何故か此方を見て笑顔になっている殿下と目が合った。ニコニコしてないで助け船が欲しいです、殿下。ミフネ嬢は僕が目を合わせる気がないとなると、すぐに目線で訴えるのをやめ、直接言葉にして提案し始めた。

「今日、日付が変わるくらいまで、起きててもらえませんか?」

「絶対に嫌だ。何で僕が態々規則を破らないといけないんだ。自分でやればいいだろう」

「無理ですよ、わたし、睡眠時間が減ると授業中眠くなりますから」

「僕だって睡眠時間は大切だよ」

 明日は、武術の授業がある。ただでさえ疲れるスケジュールなのに、睡眠不足だったら確実につらい。男女の体力差とかは関係ない。嫌なものは嫌だ。

「それに、試すなら、実際にやる人と記録する人が必要じゃないですか」

「逆でもいいだろう」

 実体験が大切かもしれないじゃないか、と返すも、ミフネ嬢は聞く気がない。こうなったミフネ嬢は折れない。僕はため息を吐いた。


 結局、僕が折れることになり、その日の夜によくわからないミフネ嬢作の眠気を覚ます香り袋を持って僕はベッドに座った。が、香り袋の効果虚しく、僕は翌朝、すっきりとした気分で目覚めたのだった。


次回更新は7月21日17時予定です。

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