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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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聞き込み開始

 結局、宗教学の時間は全て自習になった。生徒一人一人に対応する時間が長く、授業時間内に話はとてもじゃないが終わらなかったらしい。僕達、呼び出されなかった生徒は昼休みの鐘が鳴ると同時に休憩ということになった。

「さあ、はやくご飯を食べて、調査に出かけましょう~」

 鐘がなった瞬間、元気よく立ち上がったのはミフネ嬢だ。既に脳内でプランが出来上がっているらしく、クインテット嬢の手を取って歩き始めた。恐らく、昼食は食堂で食べて、その後食堂にいる生徒から順に聞いていく、と言ったところだろうか。殿下に目配せし、僕達もその後をついていく。

「サンドイッチなら手軽でいいですよねぇ」

「素早く食べるなら、軍用の携帯食もいいですよ」

「クインテット嬢、軍用携帯食は味に大きな問題があると聞いているが……」

「私はサンドイッチを食べたい気分かな」

 途中、昼食がサンドイッチから携帯食にグレードダウンしそうになったため、殿下と全力で阻止しつつ、何とか食堂でサンドイッチを注文する。今日は特別席の方には行かず、他の生徒に交じって食べるらしい。

「この辺りにしましょう」

「……かなり人が多いですね」

「話をするには丁度いいのかもしれないね」

 昼休みと言うこともあり、食堂は混雑している。僕達は運よく人数分の席を確保することができたが、周囲には席を求めて歩き回る人が見え、食事の受け取りの間にはぐれた友人を呼ぶ声などが聞こえてくる。

「で、誰が聞くんですか?」

 周囲にはかなり音が多い。そんな中では、はっきりと相手に話しかけないと気付いてもらえないだろう。だが、僕はそんなに初対面の人に図々しく話しかけることが得意ではない。勿論、最初から殿下は候補外である。地味な仕事は僕達の仕事である。

「え、モミジさん、聞いてくれないんですか?」

「逆に何で自分が言いだしたことを聞かないんだ?」

 ミフネ嬢に誰が質問役をするのか聞くと、僕の方を見て首を横に傾げた。僕は逆に首を傾げる。やりたい人がいないのに、何故、言い出したミフネ嬢が聞かないのか。別に間違った主張はしていないと思うのだが。

「だって、こういうこと、一番得意そうじゃないですか」

「……別に、得意ではないので、ミフネ嬢、自分でどうぞ」

「えぇ……」

 仕方ないですねえ、と呟いて、ミフネ嬢は彼女の右隣で食事をしていた女子生徒の方を見た。顔に見覚えはないので、恐らく一年生ではないだろう。僕の方を見て、指を一本だけ振って首を傾げる。一年生ではないことを確認したいのだろう。頷くと、ミフネ嬢は小さく深呼吸して、右側を向いた。

「あの、上級生の方ですよねぇ?」

「え、ああ、はい、そうです」

 話しかけられた女子生徒は、特に不審がることもなくミフネ嬢の問いかけに頷いた。そして、少ししてから殿下に気付いたらしい。目を真ん丸に開いて、咄嗟に口元を手で覆った。

「あ、殿下の、婚約者候補の……」

「ファラデー侯爵家のミフネです。あの、質問があるのですけど……」

「何でも聞いてください」

 殿下が近くで食事をしていることに大いに驚いているようだったが、切り替えは早かった。ミフネ嬢が名乗った時点で自分の家との上下関係を直ぐに理解し、協力的な姿勢を見せる。

「寮の就寝時間なんですけど、何であの時間に設定されているんですか?」

「就寝時間ですか?」

「はい。随分と早い時間なので、驚いてしまって……」

 意外な質問だったのか、女子生徒はすぐには答えを返すことができず、少し待ってください、と小さな声で言うと考え始めた。

「そう、ですね、私が入学した時からあった規則なので、不思議に思ったこともなかったのですが……」

「時間帯を考えると、不思議に思いませんか?」

 そう言われると、確かに、と女子生徒は頷いた。そしてすぐに考え事を始めたのか、あごに手を当て下を向く。どうして当然のものと受け入れていたのか、理由があるなら聞かせてほしい、とミフネ嬢が言うと、その生徒が急に顔を上げた。

「あ、思い出しました。入学してすぐに、流星群の日があったんです」

「昨日がそうでしたね」

「翌日、かなりの数の生徒が隈を作っていて、先生たちに凄い形相で呼び出されたんです」

 それをみて、設定理由は分からないが、守らないと評価が下がる、と感じて今迄規則を守ってきたらしい。僕達も、今日の宗教学の授業の時に、面倒くさそうだから一応規則は守ろう、と思った。

「怒られた人たちも、もう二度としない、って言ってたので、起きていても良い事無さそうだな、と」

「そんなにですか?」

「ええ、何を言われたのか聞いてみたのだけど、思い出したくない、の一点張りで」

 バレて怒られるリスクと、起きていて何かをするメリットを比べた場合、リスクの方が多い。それだけで、十分規則を守る理由にはなるだろう。

「そうですか、ありがとうございます」

「いいえ、あまり話せなくてごめんなさい」

 結局、その生徒からはこれ以上の情報を聞くことはできず、更なる聞き込み調査を続けることになったのであった。


次回更新は7月20日17時予定です。

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