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ハガル・トッカータ  作者: 借屍還魂
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額を打撲

前作と同じ世界線の話です。誤字脱字等あれば指摘して頂けると嬉しいです。

 この国では、新年に社交シーズンが開始し、それともに、王国貴族の子女が通う貴族院の卒業式が行われる。そしてその一か月後、貴族になるための登竜門である貴族院の入学式は、今年も例年通り行われるのであった。


 侯爵家の三男で第一王子の側近候補であるモミジは、入学式の朝、式典会場に入る寸前、隣で笑う人物の無邪気な問題発言に頭を抱えた。

「こんなに人が集まってると、ちょっと騒ぎを起こせば簡単に暗殺できそうですよねぇ」

 発言者はミフネ・ファラデー侯爵令嬢。僕と同じ歳であり、幼少期から第一王子殿下の婚約者候補として王宮で特別教育を受けた女性だ。つまり、僕にとって一緒に幼少教育を受けた仲間ともいえる。

「今から、僕達が誰と一緒に何をするのかは、分かってるのか?」

僕たちは、今からこの国の重要人物である第一王子殿下と一緒に入学式に参加するところだ。その直前、簡単に暗殺ができそうだなんて物騒な発言を聞いて頭を抱えるのは仕方ないと思う。

「そのくらい、わかってますよ?」

 首を傾げるとともに、薄い水色の髪の毛が揺れる。そして、不思議そうに紫色の瞳が此方を見ている。首を傾げたいのは此方の方なんだが。元々、仲間内でもかなり天然と言うか、空気を読まない方ではあったが、流石に今の発言は不味い。注意するために口を開こうとするが、それはやんわりと遮られた。

「モミジ、ミフネに悪気はないのだろう。あまり責めないでくれ」

「悪気は、ないんでしょうけどね……」

 ぽん、と肩に手を置いて言ったのは、この国の第一王子であるセドリック殿下だ。その隣には、困った顔で二人を見ている婚約者候補の一人、ランシー侯爵家の一人娘であるクインテット嬢がいる。

「殿下には、私もついていますから……」

「信頼しているよ、クインテット嬢……」

 僕が力なく答えると同時に、入学式会場への扉は開かれたのであった。これからの一年間、候補三人で協力し殿下を支えていけるか、早くも不安になったのであった。


 入学式自体は長引くことなく、滞りなく行われた。新入生は教師に先導されるまま、貴族院の校舎を歩いて教室へと向かう。一年次は基礎教育を中心として行うため、入学時の成績だけでクラスを二つに分ける。

「わたし達は、Aクラスですねぇ」

「四人で離れることが無くて良かったよ」

「幼少教育の成果ですね」

「Aクラスに入れなかった時点で候補から外されそうだからな……」

 教室の横に張り出されている名簿を見て、四人が口々に言う。殿下のお側にいるという事は、一定以上の能力が求められる。貴族院で上半分に入ることもできないのなら、容赦なく候補から外されるだろう。取り敢えず一安心である。

「確認をしたら席に着け」

 教室の中では、クラスの担任だろうか、少し癖のある黒髪の人物が教壇に立ち、指示を出していた。一瞬、見た目から若い女性と思ったが、声を聴くと完全に男性の声である。

「揃ったな。まずは、自己紹介をしよう」

 僕達が順に、空いている席に座っていき、最後の一人が着席すると、先生はそう言って自己紹介を始めた。

「このクラスの担任のヴィヴィアだ」

 何かあれば、自身かもう一つのクラスの担任であるプラト先生に相談するように、とヴィヴィア先生は言った。生徒の数人が返事をすると、すぐに貴族院生活の注意事項を読み上げ始めた。

「貴族院で生活する間、身分関係なく学んでもらうことになる。が、ある程度の節度は守るように。後は、二年生以降は学ぶ内容に応じてクラスを分けるので、今から考えて置くように。何か質問はあるか?」

 しん、と教室が静まり返る。特に質問がある人はいないようだ。

「では、説明は以上だ。各自、寮に戻るように」

 そう言うと、ヴィヴィア先生はさっさと教室から出ていった。この学園は全寮制であるため、入学初日は荷解きをする生徒が多い。学園側もその辺りを考慮して、初日は最低限の説明だけを行うようだ。

「モミジは戻らなくていいのかい?」

 先生の指示を聞いた生徒たちが次々と教室から出ていく。ぼうっとその様子を見つめていると、隣に座っていた殿下から声を掛けられた。

「あ、僕は、兄の部屋をそのまま使うので、荷解きはないんです」

「ああ、次男のモーリス殿だね。私も用事はないから、良ければ食堂でも行かないか?」

 王族は専用の部屋が準備されている為、荷解きは必要ない。僕も兄の部屋に必要なものはそろっているので、持ってきた私物はお気に入りの筆記具と本が数冊、後は日記くらいのものだ。

「ええ、是非」

「あ、わたしもご一緒していいですか?」

「勿論。クインテット嬢も、用事がなければどうかな?」

「お誘いありがとうございます。是非、ご一緒させてください」

 と、いうことで、僕たちは初めて食堂に行き、ガラスで仕切られた特別席のことなどを聞きながらお茶会を楽しんだ。


 食堂から帰る際、ミフネ嬢が扉と勘違いしてガラスに突っ込まなければ、完璧な入学初日だったといえるだろう。


次回更新は7月11日17時予定です。

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