第四話 真の力
キスってこんな感じなのか。
思っていたより気持ち良くないな。
やってしまった-というかやられてしまった。
俺のファーストキスが奪われた。
初対面の少女に。
なんだか泣きそうだ。
悲しくない。
むしろ嬉しい。
今まで生きてきて、恋愛経験がなかった俺にもやっと春がきたのだ。
しかも、こんな可愛い美少女に…。
今の俺は何でも出来るだろう。
少女が20歳まで純潔を守って魔女になるのなら、40歳まで守ったら何になるのだろうか。
賢者か?
いやっ、賢者は色々とダメな気がするからもう考えるのはやめよう。
それに声が聞こえて来るし。
「ったろう…小太郎!何ボーっとしとるんじゃ! はよ私の名をよべ!」
『名前、聞いてないし。』
「さっきから言ぅておるじゃろ! 私の名はブランじゃ!はよせい!」
『よしっ。ブラン!』
「契約成立。自強化能力…解放。黒豹形態!」
ブランが詠唱し終えると、地響きものが起こった。
ブランを見ると、そこにはさっきまでの可愛い少女の姿はなかった。
『………。』
まるで擬人化した黒豹の様だ。
ブランの体皮は黒い豹柄に染め上がり、眼球は青く光沢を放っている。
度肝を抜かれる連続で、もう言葉が出てこない。
呆然と立ち尽くしていると、小太郎の鳩尾辺りが輝き出した。
少し熱いが、気分はそんなに悪くない。
『ブラン…この光は何だ?』
「それは紋章…契約の証じゃ。」
『これが妹の証かっ。』
「そうじゃぞ。」
『うわっ…なんか泉突っ切って来てるんですけどぉ!!!』
妖婆のケラッハは神殿から渡る細い道を無視し、泉を横断している。
「#!#!#!#!#!#!#!」
泉に足を踏み入っているのに、体の半分が顔を出している。
小太郎が変な妄想をしている隙に、かなり接近してたみたいだ。
改めて近くで見ると、顔はのっぺらぼうだが口元が緩み、薄ら笑いを浮かべている。
(これは鳥肌立ちまくりだわっ。)
小太郎が妖婆を見上げていると、黒い影が妖婆の周りを駆け巡った。
すると、瞬く間に斬撃の衝撃波が無数に広がった。
「キャ########%*##!!!!」
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!』
妖婆が叫んだから、思わず共鳴してしまったじゃないか。
なんか学生時代に友達と一緒にホラー映画見た時思い出したわっ。
一瞬だけ見えた。
妖婆の周りを駆けた影の正体はブランだった。
あんな目にも留まらぬ早業は見たこともない。
しかし、妖婆の傷口はあっという間に塞がっていく。
『ブラン! このままじゃキリが無いぞ!』
「これじゃ埒があかんのぉ…小太郎っ! 今のお前の欲望はなんじゃ?」
『どんな?』
「お主の欲望なら何でもよい! 重要なのは、内容ではなく、欲求の強さじゃ!」
ブランは明らかに機動力が落ちているように見える。
もしかしてウルコラマンみたいな時間制限でもあるのだろうか。
もしそうなら、一刻の猶予もないな。
なら、俺の欲望を思い切り絞り出すまでだ!
俺の欲望?
そんなの。
いもスカを始めた当の昔に決めている。
俺の揺るがない信念の柱となる夢。
それは…。
「俺は妹を百人作る!!!!!!」
言い切った。
言ってやったぞ。
どうだ…ブラン。
俺の人知を超えた妹への欲望は!
「キモいなっ…。」
ちょっと待って、ブランさん。
今明らかに俺の事、白い目で見てましたよね?
いやっ、眼球は青いんだけどね。
一瞬だったけど、徹底的なとこ見ちゃってましたからね!?
まっ、友達百人みたいなノリで言うことじゃ無いけども。
本望だから仕方ないじゃん。
『ブラン! きもって何だよきもって!』
「すまぬ。 つい本音が出てしまったのじゃ。それより、小太郎の欲情は格別じゃ…力が湧き出てくる!!」
ブランはそれまで応戦していた妖婆から距離を取った。
何やら気合を溜めているのか、中腰の姿勢になって、拳を強く握りしめている。
(いやっ、明らかにスーパーファイヤ人みたいなオーラ放ってるし。)
「小太郎、地べたに伏せろ! こいつを一掃する!」
『ちょちょちょ…!』
「はぁぁっ…黒龍咆哮!」
ブランの口から黒く夥しいさめはめ波が出た。
あれは間違いない。
『…パクリじゃないか!』