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呆気もなく鬼は死んだ。心臓からは血が飛び出し、若干の返り血を浴びながら私の目には涙が溢れていた。まだ終わらないこの事実を受けとめきることが出来なかった。
「なんで……なんで……」
私はたくさんのものを失った。得られるものなんて結局なかった。私は人を殺した。「殺してしまった」、というこの事実は私を永遠と縄に縛りつけたかのように苦しめ続けた。
※
私は鬼が持っていた刃物を手にし、玄関へと向かった。私の心は虚無状態。自分でも何をしようとしているのかよく分かっていなかった。ただ、このゲームを終わらす、という強い意志だけは持ち続けていた。
玄関の扉を開く。最後の1人になった今、扉の鍵は解錠されていた。あの鬼が言っていた通り、そこには黒服の男が複数人いた。サングラスをしているため顔ははっきりと分からない。
「松戸 結奈。よくぞ勝ち抜いた、おめでとう」
1人がそう言った。私は少し虚ろになりつつも相手を睨んだ。
「その刃物を置いてこちらへ来い」
別の1人がそう言った。だけど私は刃物を置かなかった。あいつらを殺す、そう決めた。
「その前に。お前らがあの事件の犯人なのか」
「さあ、どうでしょう」
「今回の鬼からは事情は全部聞いた、私はまだここから解放されない」
「それなら話が早い、さあ、刃物を置いて……」
その瞬間、私は男たちに向かって駆けた。私たちの距離は大体15mほど。男たちはスーツの中に拳銃を隠し持っていたり、防弾チョッキを着用しているかもしれない、とは思ったが、それでもよかった。私もう死んでもいい、ただ、こいつらの誰でもいいから殺したかった。人殺しになるなら憎いやつを殺したい、私はその一心だった。
「おい! 何をする、落ち着け!」
「死ね」
私は一言呟いて更に男に近寄った。男たちは武器類は何も持っておらず、いわゆる無防備な状態だった。いける、そう確信した私は刃物を振り回した。
あれから何分が経過しただろうか。体感的には長く感じなかったような気がする。結果的に私は男たちを殺した。もしかしたらまだ息はあるかもしれないが、全員倒れた。とはいえ、私はここからどうすることも出来なかった。この病院は恐らく山にある。室内にいる時は外の景色なんて分からなかったが、周りに建物は一切無かった。見渡す限り木々だらけで、1本の道が場違いかのように通っていた。この道を下れば市街地へ出るだろう。本当に道を下ることが正解なのか。これで例の連続事件は幕を閉じるのだろうか。
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「ここは、どこ?」
「麻衣愛……私たち拉致されたよね?」
「うん、瑞葉大丈夫?」
心配の声が相次ぐ。私たち10人は、どこかの山道の上で眠っていた。時刻は分からないが、陽は沈んでいる。一刻も早く建物の中に入りたかった。
「これ、山下りた方がいい?」
下りには三角コーンが無造作に置かれている。
「通行止めか知らないけど危ない気がする……」
「とりあえず少し上ってみようよ」
私たちは上へと歩いた。なぜこの10人かは分からない、それほど全員が親しいわけでもなければ仲が悪い訳でもない。いわゆるクラスメイトってやつだ。
「ねえ、あれ……」
「あ、建物あるじゃん!ちょっと怖いけど入ろうよ!」
「違う、そうじゃない……」
悲鳴が相次いだ。建物の前には女の死体があった。見る限りまだ若い。女の死体の周りにも誰かが倒れていたかのような血痕が複数あったが、肝心の死体は無かった。
まだ、事件は終わっていない。