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私の後ろには鬼がいた。私はずっとそれに気づかなかった。翔平は、後ろの鬼を倒そうとこっちに走ってきたのだろう。翔平が黒幕だなんて疑ってしまった自分が情けなかった。
そして、翔平は倒れていた。鬼に突っ込んだものの、返り討ちにされていた。
「翔平くん!?」
突っ込んできた翔平を大きな刃物で突き刺した鬼は、元の皮膚の色が見えないほど返り血を浴びていた。
「何が目的なの!」
私は叫んだ。もうここには私しかいない。今までずっと誰かに助けられっぱなしだった。1人になった苦しみを弾き飛ばし、私は精一杯の声で叫ぶ。
「いいことを教えてあげる」
そう言うと、鬼は私に淡々とした声で喋り始めた。まだ私を殺す気はないのだろうか。
「あなたは、ここで生きるか死ぬかを選ぶことが出来る。もしも私に殺されるならば、私は生きて元の生活に戻ることが出来る。しばらくは警察にお世話になると思うが。もし、あなたが私を殺して生きる道を選ぶならば、あなたはまだここから出ることは出来ない」
「どうして?」
「私は前回の10人連続殺人事件の被害者。私たちも必死の思いで鍵を探した。でも、見つからないまま友達は皆殺された。私が最後の1人になった時、鬼が急に自暴自棄になって自殺した。私はもしかしたら逃げれるかもしれない、そう思って玄関の扉を開いた。鍵は開いていた。でも、私はここから逃げれなかった。扉の向こうには黒服の男が何人もいて、また拉致されるから」
「つまり、今生き残ったら私は鬼をやらされる……?」
「その通り。ちなみに2人生きる術はない。優しい鬼なら誰も殺さずに交渉なりするかもしれないけど、私は生きたい。だから最後の1人になるまで殺し続けた。もちろん、あなたを殺すのも簡単に出来る」
私は血迷った。私に鬼なんて出来るのか。誰も殺したくなんかない。この連続殺人事件を終わらせることは出来ないのだろうか。
「もしここで、私が死んだらあなたは解放されるんだよね?」
「そうだよ」
「きっと、解放されない。あなたは生き続ける限り、永遠と鬼だ」
私は冷たい声で鬼に言い放った。これが本当かは分からない。でも、現に何回もこの事件が起きているということは、その可能性も一理ある。
「そんなはずはない! 黒服の人に全部説明されたから!」
「私を拉致した人を信じるの? バカみたいだね」
私は既に決意していた。私は死んでもいい。でも、この殺人事件だけは止めたかった。止め方なんて思いついちゃいない。
『私はお前を許さない』
2人の声が重なった。私に挑発された鬼と仲間を殺された私。無言の沈黙があった後に、私たちはお互いを目がけて走り出した。
私は持っていた盾で鬼の攻撃を防ぐが、なんせ木板。数回攻撃を防いだだけでもうボロボロだ。鬼は無闇矢鱈に私に刃物を振り回してくる。私のナイフは何回りも大きい。私は何とか鬼の背後をとろうとするが、すぐに阻まれる。
「私の勝ちだな」
鬼はそう言うと、さっきよりも早いスピードで刃物を振り回した。私の肩を掠め、ヒリヒリと痛む。私は頭をフル回転にして勝てる方法を考えた。
「それはどうかな」
私はそう言うと、木板を鬼に放り投げ、鬼がよろけている間に床に倒れた翔平を盾のように持った。翔平は私より数センチ高く、死んでいるため全体重がのしかかってかるがダンスをやっている体だからなのか容易に持つことが出来た。
私は翔平を盾にして鬼に突っ込んだ。鬼は動揺して刃物を向けてこない。そのまま鬼に向かってダイブした。
「くそっ」
鬼はそのまま倒れ込む。私は鬼の手を踏んづけ、相手の刃物を奪った。こんな順調にコトが進んで自分でもびっくりだ。
「また私みたいに鬼をやる羽目になるぞ!」
鬼は必死の抵抗で叫び散らす。
「それでもいい、私は殺人事件を終わらせる」
持っていたロープをムチ代わりに鬼に叩きつけ、苦しめた。私のクラスメイト、そして何より彼氏である隼を殺された憎しみで私はやけになっていた。私に人を殺すことは出来ない、そう思っていたが今は違う。
私は人殺しだ。
鬼も抵抗しなくなってきて、死を覚悟したかのように見えた。私は持っていた小さいナイフを投げ捨て、何回りも大きい鬼の刃物を手にした。
「死ね」
皆の敵討ちだ、神様許して。私はそう願って鬼の心臓に突き刺した。