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誰の叫び声かまでは分からない。ただ、私たちのいる1階からは程遠そうだった。
「助けに行かなきゃ」
声が小さくて誰の叫び声かまでは分からなかったが、もしかしたら隼かもしれない、と思うと声がした方に行きたくて仕方がなかった。
「結奈、絶対俺と恵と今は行動しろ、鬼が遠いってことは1階を虱潰しに探すチャンスなんだ」
「そうよ、結奈」
私にはどうすることも出来なかった。
結局、2人の言う通りに1階を探し回った。無論、どこにも鍵は隠されてなかった。よっぽどの見落としがない限りは1階に鍵は無いだろう。
「それにしても、まだ遭遇していない人達はどこにいるんだ?」
蒼士が独り言か話しかけたのか分からないぐらいの声の大きさで呟いた。恵と蒼士はまだ私にしか会っていないらしい。バド部の実里と夏咲、サッカー部の瑞斗と勇翔、そしてダンス部の翔平。彼らは無事だろうか。
「恵たちは4階どれぐらい探した?」
「まだ半分ぐらいかな、だから叫び声が聞こえた方に向かいつつ、残りの調べてない4階の部屋を私は調べる」
「俺もそうしようかな」
「じゃあ、私は6階に行く。隼に会いにいく」
隼を1度、いや、2度見捨てた自分が憎かった。隼はまだ無事だろうか。
「結奈、最悪の場合も考えておくんだぞ」
蒼士はそう言うと階段を駆け上がって行き、恵はその後に続いた。
鬼とばったり遭遇しないか不安だったが、なんとか6階まで来ることが出来た。隼のいる部屋の前に辿り着いたが、ドアを開ける勇気がなかった。
━━━もし死んでいたらどうしよう
そんな気持ちが頭の中を駆け巡った。
もしかしたら、もう元気になって私の知らない間に他の場所へ移っているかもしれない。微かに芽生えた淡い気持ちを胸にドアを開けた。
しかし、現実はそう甘くなかった。
部屋には、鬼に襲われた隼がもがき苦しんだであろう形跡が見られた。ベッドは所定の位置から大きくずれ、簡易的な収納ボックスは倒れ、あらゆる所に血痕があった。隼は部屋の奥でぐったりと倒れていた。
隼!
私は大声で名前を叫ぼうとしたが、出来なかった。
「大声を出すな、泣くな」
私の口を手で覆い、冷たい声で後ろから声がした。振り向くと、翔平の姿があった。翔平はダンス部で、よく他校のダンス部の子と遊んでいるらしい。そのため、クラスの子とはあまり仲良くしているイメージはない。顔見知りのようなものだ。
「翔平……くん?」
「鬼は2階にいる。さっき女子2人がエレベーターを使って2階に降りようとした。音に気付いた鬼がエレベーターで待ち伏せして、一掃した」
翔平は淡々と喋った。女子2人というのは、きっと実里と夏咲のことだろう。
「鍵見つけた?」
私は小さな声で尋ねた。なぜか隼に対する悲しみはもう薄れていた。生き残りたい、という願望が強まっていた。私は隼の分まで生きる。生き残るためには泣いてなんかいられない。
「君、意外とあっさりしてるんだね」
私の態度を見て翔平は少し笑みを浮かべた。
「まだ鍵は見つけてない。でも、2階は全部見た」
これで1階と2階には鍵がないことが分かった。そのうち4階も恵と蒼士によって全部屋調べ終わるだろう。死んだ百奈や隼、実里、夏咲がどこを探したか分からないため、まだ探すべき場所は多くある。
「俺は誰かと一緒に行動する気は無い」
そう言い残すと翔平はそそくさと部屋を出ていった。
私は隼に別れを告げ、6階を探すことにした。もうそろそろスマホのライトも切れる頃だろう。スマホの充電は残り30%にまで減っていた。
10人もいた仲間がいつの間にかあっという間に6人になった。私たちの誰か1人が逃げ出さないことにはこの事件は続くであろう。私の中で様々な感情が溢れてきて、気付かないうちに涙を流していた。部屋のどこを探してもない。天井に貼り付けてあるわけでもなければ、廊下や階段にもない。6階の探索が8割ぐらいまで来た頃、恵と蒼士が6階へと上がってきた。
「結奈……」
恐らく隼の死体を見たのだろう。気難しそうな顔をして恵が話しかけてきた。
「大丈夫、私はもう泣かない」
私は悲しい気持ちをぐっと堪えて2人に言った。そして、翔平と出会ったことや実里と夏咲が死んだことを報告した。恵と蒼士は、4階に鍵が無く、5階にも鍵が無かったことを報告した。これで残りは6階の一部と3階だ。
「瑞斗と勇翔には出会ってない?」
「姿すら見かけてないけどな」
「となると3階にいるのかな?」
なぜ誰も瑞斗と勇翔に遭遇しないのだろう。私は少し疑問に思ったが、取り敢えず気にしないことにした。
「3階を探そう」
私たち3人は3階に移動することにした。
まだ3階で何が起こっていたのか、私たちは知る由もなかった。