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私たちは恐怖のあまりその場で立ちすくむことしか出来なかった。誰かが襲ってくるのかもしれない、見えないトラップがあるのかもしれない。悪い方向にしか想像できない自分に嫌気がさした。
この施設は見た感じかなり広い。何階建てかはまだ分からないが、少なくとも学校ぐらいの広さはあるだろう。ただ、窓がどこにも無い。太陽の光は差し込まず、私たちのスマホのライトが懐中電灯代わりだった。
「今からどうする?」
瑞斗が皆に話しかけた。瑞斗はクラスでも明るいキャラでとてもフレンドリーだ。ここにいる勇翔と仲が良く、さっきも勇翔となんやらコソコソと話していた。
「スマホは圏外だから誰とも連絡はとれない。ここから逃げようにも脱出方法が分からない」
恵は呆然と立ち尽くしたまま言った。思いは皆同じだ。
すると突然、ドアの方から音がした。鍵が開いたような音ではなく、郵便受けに何かが入れられたような音。
「ねえ! 誰かいるの!」
「助けて! 閉じ込められてるの!」
音に気付いた実里と夏咲がドアを何度も叩き、大声で叫んだ。その声はドアの外の誰かに届くことはなかった。
案の定、郵便受けには1枚の手紙が入っていた。
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アナタたちは神に選ばれし者
ここからニゲルには鍵を開けるしか方法はナイ
ただし、選ばれし者はアナタたちだけとは限らない
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手紙にはこの3文だけが書かれていた。
「あなたたちだけとは限らないってことは……?」
「私たち以外にも誰かいる」
恵と蒼士は顔を見合わせて呟いた。
「皆で鍵を探さなければ終わらない」
私は皆に呟いた。今までに拉致された皆が見つかっていない理由は、まだ鍵を見つけられていない、もしくは私たち以外の誰かに殺された。この施設に赤黒いシミがまだ残っているということは誰かが殺された跡。つまり、後者の理由が正しいだろう。
「誰かが私たちを殺しにくる。だから見つかる前に鍵を探そう」
「結奈?」
「隼、行くよ!」
隼は私に困惑の目を向けたが、気にせず私は隼の手をとり、玄関から離れた。それを合図に皆が一斉にバラけだした。
「結奈、さっきのこと本気で言ってるのか?」
隼はまだ現実を受け入れてないかのようだった。
「それしかありえないでしょ? 他に逃げ出す方法ある?」
私は少し強く隼にあたった。まだ確証ではないが、見えない誰かに襲われると思うと怖くてしかたがなかった。隼は私の問いに答えることはなく、お互い無言で廊下を歩き続けた。スマホの充電はまだ90%ほど残っているから心配はない。5分程歩くとさっきの玄関に戻ってきた。
「戻ってきた……?」
「この施設はロの字型で設計されている。そして恐らく、ここは廃病院だ」
隼はそう言うと、また歩き始めた。
1階を1周しても誰とも会わなかったということは、もう既に皆部屋を探索しているのだろうか。それとも上の階へと上がったのだろうか。私たちの話し声と足音以外には何一つ足音はしない。
「皆もう鍵を探してるのかな」
「俺たちも早く探そう」
皆がどこを探索しているか分からないが、1階の部屋を片っ端から漁ることにした。廃病院だと思われるこの施設は、少し広い玄関の前に受付のようなカウンターがあり、1階はほとんどの部屋が診断用の部屋としてつかわれているようだった。恐らく上の階へ進むと手術室や病室があるだろう。そう思うと診断用の部屋を探すのは少し気が楽だった。
スマホの充電がじわじわ減る。目を覚ました時には持ち物はスマホだけ。充電器が無い今、ライトが切れたらどうしようと不安を募らせていた。
「そういえば隼はどうやって拉致されたか覚えてる?」
私は夜、バイト帰りに誰かに襲われた。鮮明な記憶は無いが、バイト先から出た記憶はあるが家に帰った記憶が無いため恐らくそうだろう。
「俺は多分学校帰りかな」
ふーん、と返してまた鍵を探し始めた。誰かと喋っていた方が怖さが軽減するだろうと思って話しかけたが、恐怖のあまり話はすぐ途切れてしまった。
「ねえ、隼」
特に話題も無いが、また話しかけた。
「しっ」
隼は私に鋭い目つきで、口に指をあてて言った。
「誰か来る」