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第八話 酔っ払いと、挑戦者

 

外観はその広さばかり目立っていたが、中に入るとそれとは別の部分が悪目立ちしていた。


「……師匠、確かここって二年前師匠のギルドが使っていたんですよね?」

「そ、そうだが」


「じゃあ何で空き缶とかゴミとかそのままなんですか! もしかして掃除せずに放置してたんですか!?」


 そう。床にはジュースらしき空き缶、ティッシュの残骸、競技関連の雑誌で埋め尽くされていた。当然、埃はたち、天井の角の部分に至っては蜘蛛の巣がちらほらと見える。


「い、いや~、したはずなんだがなぁ。もしかしたら他の奴が入り込んで縄張りにしてたのかも?」


 目が泳いでいる。


「師匠」

「はい」

「掃除しましょう」

「……はい」


 というわけで、俺たち三人は掃除をすることになった。冴島は終始無言であったが、師匠の後をつけて回っていた。広大な敷地なので時間がかかるかと思われたが、魔力を使った少々ずるい方法で一時間と足らずに終えたのだった。







 その後、今後の生活のルールや、訓練日程などを聞かされ夕飯となった。平民の俺には絶対手が届かないような豪勢なお寿司を師匠はコンビニ感覚で注文していた。


「ちょころで君たち! 君たちの目標を教えてくれひゃまえ!」


 師匠はなぜか酔っていた。もちろんアルコールなど接種していない。食事中に飲んだのは緑茶と甘酒だ。


「師匠、水を……」

「いいからいいから! 早く教えろぉ!」


 うっわ、めんどくせえ!

 と、心の声を叫びそうになったが、すんでのところで止めた。とりあえず、今後一切師匠に甘酒を与えるのはよそうと心に誓った。


「目標、ですか。というか師匠にはそれに似たこと、もう教えましたよね?」

「あれから変わったのか、そうでないのかというのも気になるものだよ。人とは変わるものだからね。ああ、そうだ。じゃあ三人同時に言ってみるというのはどうだ? 私の予想では面白いことになると思うのだが」

「はあ、主旨は全く分かりませんが、いいですよ」

「お姉様、私も?」

「もちろんだ冴島! むしろ私はお前の方が気になるっ!」


 というわけで俺たちは「せーの」で声を合わせた。


「「「最強」」」


 声が重なって、師匠はハハハッと笑った。


「いや~~くくくっ、本当にこのギルドを創ってよかったと心底思うよ。よし、じゃあ君たち、肩を組むぞ!」


 どんなノリだよ!

 強引に肩を掴まされた俺と冴島は、先輩と肩を組むことによって、円陣のようになった。


「目指すは最強! 無敵! 無敗! 絶対やるぞぉぉぉおお」

「お、お~~」


 しかしてカオスな日々は始まりを告げたのだった。











 翌日、闘王学院登校二日目ということで、さっそく授業が始まった。闘王学院は生徒の自主性を重んじる校風である。ゆえに、授業は単位が足りるようにすれば完全自由に組むことができる。授業は平日三時間のみ。ただ、一回の授業時間が九十分であるため、集中力も磨かれるという。

 今は昼食を終え三限目、《実習剣技》の授業だ。


「え~~つまらないガイダンスなんかは手短で構わないかな構わないね。この授業では主に魔剣闘技における剣技を実践的に学んでもらう。といっても、君たちが考えているような魔剣技の授業は後期からだ。前期は戦いの合間に切り結ばれる剣の腕を上げてもらう。これを軽んじる者は決して上級者にはなれない。ので、要求されたレベルまで上がらなかった者には単位を与えない。遠距離を専門にする戦い方を好む者はここにはいないと思うから大丈夫だとは思うがな」


 恐ろしく早口で話したのは実習剣技の講師である早口(はやぐち)正雄講師だ。歳は六十を超えたおじいちゃん先生ではあるが、その名を知らぬ者はいないというほど、剣技においては相当の実力を持った方だ。残念ながら魔力は歳と共に衰えるので引退せざるを得なかったが、四十歳まで現役を続け常にトップの実力を誇っていたその剣技は、現プロと競わせても遜色ないだろう。


「第一回の授業は、そうだな。誰かに模擬戦をやってもらおう。剣の実力を見るから、戦場は半径十メートルの、このリングだ。場外へ出ること、戦闘不能状態になること、降参などが敗北条件だ。魔技、魔剣技の使用を禁ずる。魔剣の制限は半解除でやれ。実力の指標となってもらう。では、特に剣技に自信のある者、手を挙げよ」


 ……、

 …………、

 ………………。


「なんだ。今年の一年生は積極性がないな。ふむ、どうしたものか」


 誰も手を挙げようとはしなかった。

 普通の高校なら当然と言えるだろうが、どうして、この名門、闘王学院で非積極的なのか。

 俺のその疑問は、ある人物が挙手したことによって判明した。


「はい、私が()りましょう」


 その声は沈黙を破るほどに透き通っていた。


 声の主は冴島氷菓。同世代最強の闘技者であり、同ギルドの彼女の存在こそが、彼らを委縮させてしまっていたのだろう。

 その小さい身体からは、戦意というよりも殺意に近いモノがあった。確かに、これは憚られる。こんな殺気を向けられていては、たまったものじゃない。

 半制限。主に公式戦でも扱われるルール。魔剣による身体への被害を半分まで抑えるというもの。死に直結するような致命傷を与えそうになった場合は全制限と同様に体力だけを奪うようになっている。しかし、たとえ半解除といっても、試合でもないのに、自らケガをしに行こうとは普通思わないだろう。


 俺は状況を見て、納得して、


「では、相手は俺が努めます」


 静かに手を挙げた。


「ちょ、ちょっとあなた! 何考えてるの!?」


 かなり焦った声が右となりから聞こえてきた。花ちゃんが心配してくれたのだ。

 俺は黒鉄の刀を抜きながら笑って応えた。


「勝てないと、決まったわけじゃない」


 目の前に写るのは、正真正銘の化け物だ。だが、あくまでこの模擬戦は剣のみで行われるものだ。それなら勝機(しょうき)は十分にある。それに、いつまでも、過去の怯えを引きずるわけにはいかない。

 彼女の目を見る。俺は絶対王者の風格をも跳ね除けるほどのずうずうしさで正面に立った。互いに剣を掲げる。黒鉄の刀と、白銀色の片手剣。黒と白が睨みあう。


「「よろしくお願いします」」


 講師の合図で、俺たちは同時に地を蹴った。



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