ゲロと言ったら爆死してしまう世界
「ハァハァ……やっと隙を見せたな魔王!」
無限のように交わされた剣戟の最中、互角と思われた力量差は次第に明らかになり、遂に魔王は剣を弾かれ片膝をついた。
「クク……ここまでの力を持つ人間は初めてだ……」
「貴様が無常にも奪ってきた命、目の前で仲間を失った俺たちの絶望をこの傷とともに永遠に胸に刻め!」
勇者は己の身を震わせ、唸りを上げ、宿敵との間合いを詰める。
「ユート! 勝て! 俺たちの無念を晴らし、散っていったお前の兄に勝鬨を掲げろ!」
瞬間、勇者の幼馴染にして悠久の親友だったトールの体が爆散する。
しかし、勇者は歩みを止めない。魔王の卑劣な術を目の当たりにしても、決して立ち止まることは許されない。
「逃げろ! 我が息子よ! お前は死ぬにはまだ若すぎる!」
瞬間、先代魔王の体が爆散する。
しかし、魔王は判断を歪めない。勇者の卑劣な術を目の当たりにしても、決して己の使命を諦めない。
「ユート! 振り返るな! お前には帰りを待ってくれている女がいる! 友を失い平穏を保てないのは分かっている! それでも、どうにかやるせないその溜飲を下げろ!」
瞬間、育ての親である老いた魔法使いの体が爆散する。
勇者は溢れ返る老人との記憶を胸に掲げ、前だけを見つめ宿敵との間合いを詰める。
「魔王! 何してやがる、早く立ち上がれ! 俺との宿命も忘れちまったのか! 確かに、500年前に亡くなられた初代魔王様の伝説を聞けば、勇者の前で背中を向けて逃げる事はどうしようもない恥かもしれない! しかし、お前にはまだやらなきゃいけない使命があるだろうが! その敬虔な信条も今は必要ない! どうにか己の信念を曲げろ!」
瞬間、幼い頃から互いに高め合い、成長してきた唯一心を許せた友人の体が爆散する。
魔王は溢れかえる友人との記憶を胸に掲げ、曲げた膝を伸ばしながら使命を守るため立ち上がろうとする。
「ユート! この戦いが終われば世界は平和になる! ゲロを吐くまで飲み明かそうぜ!」
瞬間、一度は憎み合い、互いを殺そうとまでした友人、ルークの体が爆散する。勇者は崩れ落ちそうな体を気迫だけで支え、宿敵との間合いを詰める。
「魔王様! 生きていればいずれチャンスは来ます! 死んでしまえば、ゲロを吐くまで飲み明かすこともできなくなるのですぞ!」
瞬間、魔王をいつも支え、良き理解者であった眷属の体が爆散する。魔王は悲しみの帳を自らの手で切り落とし、伸ばしきった膝をいい具合に曲げようとした。
「喰らえ! 此れは旅立ちの日に、女神様に頂いた一度きりの剣技!『捧げろ、仮初めの剣。目覚めろ、光を纏う新たなる力! シャイニング・ブレイドォォォ!!』」
「仕方ない、此れは先代より伝えられし禁じられた秘術!『全ての覇道は、我が玉座に通ず! ログル・ソロゲロ・アルドラドォォ!!』」
瞬間、眩い光が両雄を包み込む。それぞれの運命を背負い、光はいつまでも輝いていた。