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バリトン少女とアニメ声のヤクザ~神は願いを叶えたもうた~

作者: サンバ野郎

書いてて楽しかったです!

もう少し時間があったら情景描写とかいろいろ書きたしたいけど、息抜きで書いたからこのくらいで!

ざっと二時間くらいで書き上げたぜ。書いてて超楽しかったぜ。

 ある日、夢を見た。

 夢には、神様が現れた。

 彼が、私が神だ、などと言ったわけではないけれど、その風貌からきっと神様だと思う。

 長くて立派な白ひげに、右半身を露わにした白い布切れを巻いていたからだ。

 まさに、私のイメージ通りの神様。それもそのはず、これは私の夢なのだから、私のイメージしか出てこないはずだ。そう思うと、妙に納得できた。

 神は言った。

「どんな願いも、一つだけ叶えてしんぜよう」

 なるほど、やっぱり神様と言ったら願い事か。

 実は、眠りにつく前に、私はとあることを真剣に願っていた。

 それは、歌。どんな人でも魅了できるような歌声が欲しいと思っていた。

 子供から、大人まで。男も女も中間も。地底人も宇宙人も。誰もが感動するような、そんな歌声が欲しいと願ってた。

 私は、三歳の頃から、歌の練習をしている。特別な習い事をしているわけじゃない、カラオケに通いつめたり、お風呂場や自室で歌っているだけだ。

 でも、高校生になったら、本格的に歌の勉強をしようと思っていた。そう、思っていたけど。

 今日の放課後、教室に忘れ物を取りに行くと、とても澄んだ女の子の歌声が聞こえた。

 私は、その歌が気になった。自分の荷物のことなどすっかり忘れて、声の聞こえる教室に向かって、自然と足が動いた。

 教室に近づくにつれて、徐々にはっきりと聞こえる歌。これは、『君が代』だ。

 音の一粒一粒が、まるで、月に照らされながらせせらぐ川のようにつながっている。なのに、言葉の一音一音は、はっきりとした存在感と意味を持って耳に入ってきた。

 アカペラなのに、ピアノの伴奏が聞こえる。ハープの優しい音色が思い浮かぶ。フルートの旋律が頭を駆け巡る。

 やがて、歌が終わった。

 私は、ずっとよその教室の前で立ち尽くしていたことに気がついて、急に恥ずかしくなって駆け出した。

 階段で転びそうになり、昇降口の窓ガラスにぶつかって、猫の尻尾を踏んで家についた。

 家に着いた私は、ショックを受けていたのだ。

 もちろん、手ぶらで帰ってきてしまったこともショックだったが、同年代で、あんなにきれいな歌声を持っている人がいると思うと、どうにもやりきれない気持ちになった。

 自慢だが、自分は歌がうまいと思っていた。カラオケの採点では、九十点台だって出せるし、友達も親も褒めてくれる。

 しかし、それが所詮、自分の自己満足と他人の社交辞令なのだと思い知らされた気がした。

 彼女の歌声を聞いたとき、そんな、途方もない敗北感が込み上げてきていたのだ。

 その日は、むしゃくしゃしてがっつりとごはん三杯を平らげた後、食後にチーズケーキを食べた。

 それでも、気が収まることはなく、むしろ嫌な気分に吐き気が追加される次第となったのは、言うまでもない。

 布団に入っても、名前も顔も知らない女の子の歌声が、頭に流れていた。

 そして、寝る前に歌が上手くなりますようにと、流れ星(よく考えると、あれは飛行機だったのかもしれない。ゆっくり動いてたし、赤とか青とかいろいろ光ってた)に願って眠ったのだった。

 そして今、その願いを叶えてくれるという神様が夢に現れたというわけだ。

 神様は、立派な白髭を一撫でしながら、優しい視線をこちらに投げかけてくる。

 透き通るような蒼い瞳は綺麗で、でも、人間らしくない、深海魚が獲物をおびき寄せるような怪しげな光を持っていた。

 目が合ったとき、思わずどきりと胸が高鳴る。神様と、目が離せない。ああ、そんな、ダメよ私。

 夢に見てしまうほど自分を追い詰めるなんて、ちょっとメンヘラっぽいわよ?

 自分がそんなにナイーブな性格だったのかと思うと、かなり憂鬱になった。

 このまま、精神的に深い傷ができて、病院送りになったらどうしよう。不安で心臓が破裂しそうだわ。

「ごほん! どんな~願いも~、あ、一つだ~け~叶えてしんぜよ~う~!」

 急に小節の入った口調で神様は言った。言い方は違うけど、さっきと同じセリフだ。

 聞こえていないと思われたのだろうか。たぶん、そう思ったに違いない。

「あ、すいません、聞こえているんで。今、ちょっと悩んでるんで」

「え……」

 神様は、真面目な顔のまま小さく呟いた。

 申し訳ないことをしてしまった。けど、こんな状況、そんな簡単に飲み込めないよ!

 私、病んでるかもしれないんだよ!?

「あのー、まぁ、あんまり深く考えずに、ぱっと思ったことを言えばいいんじゃないだろうか」

 うんうん頭を捻っていると、神様はずいぶんと見当違いなことを言い出した。

 どうやら、私が、願い事について悩んでいると思ったようだ。

「いや、それについてはとっくに答えが出てますけど」

「ええー……何なのこの子。うぉっほん! それで、何を願うんじゃ」

 ええーとか言われた。神様に。

 まぁそれは、どうでもいいか。んーとりあえず、願うだけ願っておこうかな。

 私の精神の心配は置いといて、ね。

「声」

「声、とな?」

「はい、誰もが感動するような、聞き入ってしまうような、そんな歌声が欲しいんです!」

「よかろう!」

 神様は両手の手首を合わせながら、低い姿勢になった。

 そして、手と手の間に、白い光が集まっていく。

「ふぃ~、後がつかえているからマキ《・・》でいくぞい! ほぉあああああ!」

 神様が手を突き出すと、白い光は、一筋の光芒となって私に迫ってくる!

 いや、え? これ、かめはめ…。

「はああああああ!?」

 私は、全身を光に包まれ、塵となって消えた。

「うあああああああ!」

 布団を吹っ飛ばすようにして起き上がった。

 そんなバカな、神様が波的な何かを撃ちやがった。女子中学生相手に、だぞ。

 汗をびっしょりとかいていて、ブルりと体が震える。今は三月。寒いのも当然だ。決してさっきのギャグのせいじゃない。そもそもあれは、ギャグじゃない事故だ。もしくは、奇跡的偶然の産物。

 というか、今、なにかとんでもない違和感を感じた。

 なんというか、声が……。

「どうしたのマミ~? 朝から騒がしいわよ~?」

 ママの声がして、部屋の扉が開いた。

 エプロンをつけた小太りの女性、ママが様子を見に来たのだ。

 ママは、扉を開けたまま、呆れた顔で立っている。

「ママ! ……ええ!?」

 野太い声が聞こえた。一瞬、どこから聞こえてきたのかわからなかったが、どうやら私の口から出ているらしい。

 え? なに? なんで? 

 なんでこんなフランク・シナトラみたいな声が出てるの!?

「え、マミ……声変わりかしら?」

「私女だよ!? 声変わりにして変わりすぎだよ! 男子でもこんなダンディボイスいないよ!」

「あら、良い声だわ。太くて落ち着いてて。……そうだわ、ちょっと目を瞑るから、『アケミさん、愛してるよ』って言ってみてちょうだい」

「嫌よ! 娘になんてこと言わせようとするの!? 信じられない!」

 言うまでもないが、今までの会話全て、私はバリトンボイスである。

 音声だけ聞いたら、完全にオカマとある意味ママとの会話だ。

「そんなに怒らなくてもいいじゃないの、も~。ご飯できてるから、早く来なさいよ」

「え、ちょっとママ!? 娘の声が突然フランク・シナトラになったのにその反応は無いんじゃないの!?」

「そんなのイソジンでうがいすれば治るわよ」

「イソジンはそんなに万能じゃないもん!」

 ばたんと扉が閉まり、私の投げつけた枕がぶつかって床に落ちた。

 室内はしんと静まり。両手で頭を押さえた。

「……とりあえず、学校サボろう」

 サボり宣言までダンディである。チクショウ。


 見上げれば、鉛色の空が広がっている。寒空の下、私は行く当てもなく歩いていた。

 私は、悶々と思考を巡らせている。どうしてこうなった。どうして。

 そうか、神は死んだ。死んだのだ。哀れな理想主義者が患った病気が、初めて私を理性へと導いてくれる。私は、このバリトンボイスで世界を狙う。

 と、そんな荒唐無稽な考えに至るほど、私の精神はダークサイドへと落ちていたのだった。

「あれ、ここどこだろう」

 ふと、気がつくと、見覚えのない路地裏へと来ていた。

 どうやら、考えることに夢中で迷いこんでしまったらしい。

 こんな、薄暗いところに乙女がいたら何があるか分かったもんじゃないわ。声は、何人も女を抱いてきたようなダンディズムに溢れているけど。

 踵を返し、大通りに出ようとしたとき、それは聞こえた。

「はーなーせって言ってんだろ! この野郎!」

「うるせぇ! 黙って出すもん出しやがれ!」

 若い女性の声と、男の声が聞こえる。

 どうやら、なにか揉めているようだ。私は、路地に設置された室外機にさっと身を隠した。

 状況を確認しようか迷ったが、万が一相手がヤクザだった場合、顔を見られるのはまずい。ここは、隠れることに専念しよう。

「やめろよー! お前に渡すもんなんかなんもねーって言ってんだろー!」

「嘘つくんじゃねぇ! シマの売り上げくすねたのはおめーだろーが!」

 なんだろう、女の人がお金を盗んだのかな。

 それより、この女の人、胸やけしそうなくらい甘ったるいアニメ声なんだけど。

 萌え萌えなんだけど。

「俺じゃねーって言ってんだろー! ルルミンの奴がくすねたに決まってる!」

 るるミン!? 誰!? めっちゃくちゃ気になるその人!

 その声で言われると、もう、魔法少女とかそういうのにしか聞こえない!

「バカやろー! あんな筋肉だけの外人野郎に、そんな器用な真似ができるかよ!」

 るるミン、脳筋属性なの!? ああ、いや、待て待て、武闘っ娘かもしれない。

 まだ結論を出すのは早いよ、私。

「何言ってんだ! あいつは、組織を裏切って俺たちのところに来たんだぞ! キレ者なんだよ、やつぁ!」

「何言ってやがる! あいつが生きてたのはたまたまだろーが! 自分のとこのビルが襲われてんのに、風俗嬢とファックしてやがったんだぜ! その間抜けっぷりに興を削がれたお頭が、お情けで見逃したんじゃねーか!」

 るるミーン! もう、ダメだ。私の中のるるミンは死んだ。魔法少女じゃなくて、なんかブーメランパンツ履いたゴリゴリの筋肉ダルマが思い浮かんじゃった。

「クソ!」

「おい、動くんじゃねぇ」

「手前ぇ……チャカなんて持ってやがったのか」

「お頭が貸してくれたのさ。俺は信用されてるからな」

「クソが」

 えええ、どうしよう、どうしよう。このままだと、女の人が殺されちゃう。

 同性としてそれは見過ごせないよ。何とかしないと、何とか……そうだ!

 咳ばらいをして、喉の調子を整えた私は、大きく息を吸った。

「あ、あー、こちらフランク巡査。えー路地裏方面以上ありません! パトロールを続けます!」

 わざとらしいくらい大きな声で言った。

 お願い、これで勘違いして。そして逃げて!

「ち!」

「あ、逃げんじゃねーよ! おーい! お巡りさんこっちだ! 銃刀法違反だぜー!」

「覚えてろよ佐藤! ぜってぇぶち殺してやるからな!」

「こっちのセリフだバーカ!」

 どうやら、男の方が逃げていったらしい。そりゃそうか、捕まっちゃうもんね。

 足音が遠ざかっていく。

「おい、おい! お巡りさん、早く来てくれよ、何してんだそんなところで!」

 まずい、女の人がこっちに来た。

 今出て言ったら、確実にバレる。けど、こっちに来られてもバレちゃうよ! 

 どうしよう、どうしよう!

「おーい? あれ? いねぇ……。おい、そこにいるのは誰だ!?」

 バレた!

 足音がどんどん近づいてくる。

 心臓の音が、痛いくらい聞こえてくる。

 そして、私の視界の中に、影が見えた。

「おい、あんた。何してんだ」

 声をかけられ、びくりと肩が震える。

 顔を上げると、そこには。 

 え……男?

 私の視線の先には、ヒョウ柄のワイシャツに、黒のスーツを着た男が立っていた。

 あれ、ついさっきまで、女の人の声が聞こえてたのに。

「あ……あれ?」

「おめぇ……その声……」

「あああ、しまった!」

 思わず声を漏らしてしまった。私のテノールな無駄にいい声が路地裏に響く。

 いやしかし、待てよ。今確かに、超アニメチックな萌え萌えボイスも聞こえてきた……ような。

「おめぇが、さっきの警官か?」

 ええええええええええ。

 この人、なんでこんなファンシーな声してるの。

「えっとぉ……そうですけど。……声、可愛いですね」

「言うな!」

 男は、目をかっと開きすごんだ。

 けれど、声があまりにも可愛すぎて、あんまり迫力がない。

「すいません。ところで、なにかあったんですか」

「ああ? ……ちょいと失敗しちまっただけよ」

「はぁ」

「さっきの奴は、俺と動機なんだが、何かと目の敵にしてきやがる。今度ばかりは許せねぇ。俺にたてついたこと、絶対に後悔させてやる」

 声のせいなのか、なんだかツンデレみたいだ。アイツ、私にちょっかいばっかりだしてきてー! もう許さないんだから、ぷんぷん! みたいな。

「ぶふ……」

「ああ? 何笑ってんだお前」

「すいません」

 めちゃくちゃダンディな謝罪ができた。なんだか、スパイ映画の主役になった気分だよ。

「お、おぉ……。まぁ、いいけどよ。お前も、ずいぶんと変わった声を持ってんな」

「はぁ、まぁ。いろいろ事情がありまして」

「なんだか深いわけがありそうだけどよ、まぁがんばれや。ああ、それと、助けてくれてありがとよ!」

 続けて、「あばよ」と言って、ヤクザの男は大通りへと向かっていった。

 捨て台詞は男らしいのに、なんだか胸がムズムズする。なんてシュールな光景なんだ。

 やがて、男の姿は大通りの人ごみの中へと消えていった。

「助かった……」

 日常の裏に潜む非日常を軽く体験した私は、緊張の糸が切れたのか、急に疲労感が襲ってきた。

 今日はもう、帰ろう。

 そう思って、立ち上がり、男と同じ、大通りに向かって歩き出したのだった。

 明日には、声が治ってるといいな。そんなうすーいうすーい、ママの作るカルピスよりも薄い希望を持って。 

   

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