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第二話

ヘリがどこかのホテルの屋上ヘリポートに到着しただ。私はまた彼に抱えられてヘリを降りた。自分で歩けると言ったのだが、彼は笑って首をふり下ろしてはくれなかった。

初めて屋上からホテルに入ったが、従業員が待機しておりフロントを通らずに部屋に通された。

その部屋は見たことのないほど豪華な部屋で、ホテルというよりマンションの一室のようだ。

私はソファにそっと下ろされると、ここで待っていて欲しいと言われた。

「待てって、どういうこと?なぜ私はここに連れてこられたの?さっきのは一体なんだったの?」

そして、なぜ私を助けてくれたの?

私は次々にわいてくるなぜを彼にぶつけた。彼は首を振って一つも答えてはくれない。

「すまないが、事態に収集を付けに行かなければいけない。疑問が沢山あるでしょうが、ここで待っていてくれませんか。必ず夜にはここに来ますので。その間、ルームサービスを取っていただいても構いません。部屋にあるものは好きに使ってください。ただし、絶対に部屋を出てはいけません。見張りのものも待機させます」

「それは・・・事情によっては監禁というのでは・・・?」

私が怯えたような顔をしたので、シリウスは眉根を寄せて私の頬に手を添えた。

「絶対に戻りますから、それまでどうか休んでいてください」

そう言って、シリウスは部屋を出て行った。

否定、しなかったわね。監禁って言葉・・・。

私は、少し途方にくれながらソファに身を委ねた。

何が起こっているのか、状況が掴めない。テレビをつけてみると、私がさっきまでいた会社のビルの前で、まさにテレビ中継が行われていた。

一階の玄関部分に白いバンが突入し、そこから何者かが襲撃したのだそうだ。

銃器を持った男達は警備員を殴り建物を制圧したが、仲間割れがあったのか何も奪うことなく全員が逃走したらしい。

負傷者が多数いるが、幸い死者は出なかったようだ。チャンネルをいくつかかえてみたがどこも番組を中断してその中継を行っているが、情報が錯綜しているようで何者が襲撃したのかまで分かっていないようだ。


私は携帯を置いてきてしまったことを悔やんだ。電話をかけられるか、と備え付けの電話の受話器を取ってみるがフロントにしか繋がらない。フロントの人に事情を話そうかと思ったが、止めた。

先ほど襲撃してきた男達はまだ逃走中だ。なぜ私を狙ったのか分からない状況なら、ここにいたほうが安全なのでは、と思ったからだ。それに、どうせ夜までの辛抱なのだ。

そういえば人をつけていると言っていたな・・・部屋の中にはいないみたいだけど、とドアを開けてみると、そこには黒服のスーツ姿で腕組みをした外国人が立っていた。肌が白く明るめのブラウンの短髪、スーツの上からでもその隆々とした筋骨がありありと伝わってくる。

「何か御用ですか?」

彼は英語が話せるようで、そう尋ねてきたので、どぎまぎしながら「何か食べ物が欲しいのですが・・・」と英語で言うと頷いてどこかに連絡を取り始めた。

「あの、ここで待てと言われましたが、連絡を取っては駄目ですか?私を心配している人が居るので、連絡を取りたいのですが」

「駄目です。誰とも連絡を取ることは許されません」

あっさり却下されてしまった。

「すぐに従業員が来るので好きなものをオーダーしてください」

「あ、はい・・・ありがとうございます・・・」

有無を言わさない態度に物怖じして私は部屋にすごすごと戻っていった。


夜になる、と言っていたが7時を過ぎてもシリウスは帰ってこなかった。

私はまたルームサービスを頼んで食事を摂った。シャワーを浴びようかと思ったけど、見ず知らずの男が戻ってくる部屋でシャワー上がりで待つなんて、ちょっとどうかと思い止めた。

なかなか戻ってこないのに痺れを切らせて、また外にいた男に何時に戻ってくるのか聞いたが、分からないと一蹴された。

もしかしたら今夜は戻らないかもしれない、と言われ、じゃあいつまで待てば良いのか?一泊しろということか?と尋ねたが分からないの一言で終わってしまう。

これはさすがにあんまりじゃないのか?

冗談ではなく、監禁の域に達してきている。家に帰してください、と試しに言ってみたが駄目だの一点張りだ。時計を見るともう9時になろうとしていた。


私はもう諦めて、シャワーを浴びて脱衣所にあった替えの服を着た。バスローブもあったが絶対に着たくは無かった。シャワーから上がると、いつの間にか戻ってきていたシリウスがソファに座っていた。

武装していた服は着替えたのか、スーツ姿でジャケットをソファに引っ掛けて、片手にウィスキーのグラスを持っている。少し飲んでいるようだ。

「遅くなりました。待たせてしまったようで」

「ようやく、話を聞けるんですね」

ええ、と言って彼に促されて私は彼の側にあるソファに座った。

「飲みますか?」そういって彼はウィスキーのグラスを掲げた。

「それじゃ、少しだけ・・・」

私は彼からグラスを受け取って喉に流し込んだ。喉が焼け付き胃が暖かくなる感覚にほっと息を吐き出す。

「今回は、巻き込んでしまってすいませんでした。彼らは私があなたの動向を探っているとかぎつけ、あなたを拉致しようとしていた」

「私を・・・?なぜ?」

「あなたが私の弱点だと思ったのです」

「私があなたの弱点・・・?失礼ですが、何年か前にお会いしましたよね」

「2年と半年前ですね。俺が道を尋ねて、親切に教えてくれた」

「そう、その時以来、面識は無いはずですが・・・あなたは一体何者なんですか?」


グラスを持ち微笑む彼の目が妖しく光った。青白い目に吸い込まれそうになる。


「私の名はボレアリス=コロナ=シリウス。アルデバラン王国の国王です」

私は呆気に取られ、危うくグラスを落としそうになった。

「アルデバランって・・・あの中東の方にある燃油資源の主要生産国の一つ・・・あなたがそこの国王・・・なんですか?」

「先代国王の体調不良のため、2年前に着任しました。あなたに会った時はまだ王子でしかなかった」

「嘘でしょ・・・」

信じられない・・・。私は柔らかいソファに身を沈めた。

「先ほどあなたを拉致しようとした組織は、“レグルス”というアルデバランで活動する人民解放軍です。恐らく今頃テレビでもその報道がされているはず」

「もしかして事態を収拾する、と言うのは、つまりアルデバラン国王として動いていたということ・・・?」

「ええ・・・それに今回は私の独断で動いたので、この国の政府と話をつけなければいけなかった。それで遅くなってしまいました」

「テレビ、つけても?」

どうぞと促されて私はテレビをつけた。すると画面いっぱいに、今まさに目の前にいる人が現われた。にこやかに日本の首相と握手を交わしている。それを取り巻く報道官がフラッシュの嵐をぶつけている。見出しでは“アルデバランの人民開放軍、レグルスが日本でテロ活動か”の文字が踊っていた。

「信じていただけましたか?」

「信じます・・・信じるしかないですもの。これを見たら・・・。でも、なぜ私があなたの弱みだとして襲われるんですか?私はあなたがアルデバラン国王だということすら知らなかったのに!」

「私があなたを愛しているから」

え?私は耳を疑った。この人は一体何を言い出すのか?シリウスはグラスをテーブルに置くと立ち上がって私の前に跪いた。そして私の右手を取ってそっと甲にキスをした。

「愛しています、アリア。この世の誰よりもあなたのことを」

「な、なぜ・・・?私は一度あなたに会ったことがあるだけだわ。話もそんなにしていない、それがなぜ」

そう言えば、前に彼を道案内した時、彼は酷く嬉しそうに私を見ていた。学生にしか見えないような、凡そ王子様には見えない格好をして、じっと私を見ていた。

「あなたは、私が待ち望んでいた方・・・レダ様の生まれ変わりなのです」

「レダ・・・?」

「アルデバランの国教であるシグヌース教、その女神レダは死んでもいつの日か生まれ変わり、アルデバランに冨を齎すだろうと言われています。私は幼い頃からレダの熱狂的な信者でした。そして、・・・あなたこそが我が神レダの生まれ変わりなのです」

「何を馬鹿なことを・・・」

私は全く話しについていけなくなってしまった。この私が、神様の生まれ変わりですって?

「なぜ、あなたは私がその神様だと思うのですか?」

「これがその証拠です」

シリウスはそういうと、握っていた私の手をひっくり返し、手首を親指で優しくなでた。そこには、私が日頃時計で隠している、ある痣があった。

「この星型の痣はレダ様の生まれ変わりである証拠・・・そしてその顔も魂も、レダ様そのもの・・・!一目見たときに気づき、心から喜びが湧き上がりました」

そういうと手首の星型の痣にシリウスがキスをした。

「ええと・・・信じられないのだけど、私が、その女神様の生まれ変わりだから、あなたの弱みだと・・・?」

「はい。私はレダ様の転生を信じて世界中を探し回りました。国王の容態が悪く、王位を引き継ぐその時まで探しぬいてやると誓って。その時に高名な占い師であるクルクスの助言によりこの日本に探しにやってきた。そしてあなたを見つけた・・・。見つけたときには喜びで胸が震えました。今すぐに連れて帰りたいと思いましたが・・・それはできませんでした。アルデバランの政情があまりに不安定で、時期国王と目されていた私の周りでも多くの暗殺や裏切りが横行していた。人民解放軍であるレグルスも、王族を誘拐して政府を揺るがしていた・・・そんな時に連れ帰ればあなたは格好の標的となってしまう・・・。だから私は泣く泣くあなたを連れ帰るのは諦め、政情が安定した時に迎えに来ようと思っていました。人知れずあなたの身の回りを探る者をつけて・・・。しかしその情報がレグルスに漏れてしまったようで、彼らは嬉々としてあなたを拉致しにきた。間一髪、あなたを救うことが出来て本当に良かった・・・もし彼らの手に落ちていたら、私は自分がどうなっていたか分からない」

私は、理解できない情報の氾濫に手を振り解きたくなったが、あまりに真剣な表情をするシリウスを見るとそれも憚られた。

「それで、そのレグルスという組織はまだ私のことを追い続けているのですか?」

「彼らも半信半疑だったでしょうが、国王自ら精鋭を従えて撃退に来たとすれば・・・どれだけあなたを私が大切に思っているか分かったでしょう。これからも隙あらばあなたを拉致しようとやってくるはず・・・。こうなったらもうなりふり構っていられない、私と共にアルデバランへ来てください」

「アルデバランへ・・・?」

「そうです。日本にいたら守りきれない。レグルスはあなたを誘拐して、無理難題を王国政府に訴えてくることでしょう。それも阻止しなければいけない」

「私が、あなたの弱みでないと表明しては駄目なのですか・・・?」

「無理でしょう。彼らは非常に疑い深いから、信じやしない。返って火に油を注ぐだけだ」

「アルデバランへ行くって・・・私の仕事はどうなるの?行ったらもう帰ってこれないの?」

「・・・レグルスを壊滅させるまで戻れません。しかしレグルスはもう50年も活動を続けている組織なのです。拠点となっている都市も数箇所あり、庶民からの支持も得ている・・・何年先になるかわかりません」

「そんな、じゃあいつ帰れるか分からないってことじゃない!私の人権はどうなるのよ!」

「あなたに不自由はさせない・・・あなたを傷つけさせたりもしない、けして!あなたを守るためなのです。どうか了承してください」

「できないわ!私には恋人がいるのよ!」

私は明良のことを思い浮かべていた。私を守ろうとして、殴られてその後どうしたのだろう・・・。私の言葉に、シリウスは酷く傷ついたような顔をした。

私も、なぜか分からないが胸が痛んだ。

「あなたには申し訳ないけど、今回のことは私に何の関係も責任もないわ・・・私が女神レダの生まれ変わりだからあなたが私を大切に思い、そのせいでレグルスが私を狙うようになった・・・信じられない話だけど、もしそれが本当なら、私は事故に巻き込まれたようなものだわ。そのせいで何もかもを捨ててアルデバランなんて遠い土地に行かなければ行けないなんて、了承できない。私はこの国で育ったし、この国は法治国家よ。この国の司法に駆け込んで保護してもらいます」

「無理だ、この国の警察が一個人のために何をしてくれるのです?レグルスに追われていると説明するならその理由も説明しないといけない。女神レダの生まれ変わりと言って、信じてくれるわけが無い」

「そうね、信じがたい話よ!私だって信じていないわ・・・そんなわけの分からない話をしてくる人についていく訳が無いでしょう!私は何とかこの国で守ってもらいます。あなたは一刻も早くレグルスをどうにかしてください。それに・・・私の身の回りを調べさせているようですが、それも止めてください!それのせいで襲われたんですよ!」

私は彼の手を振り解こうとしたが、彼の手はビクともしなかった。逆に強く握り締められる。

「俺は、あなたを手放さない」

何か、頭の芯がぼうっとしてきた。一口しかお酒を飲んでいないのに、酷く眠気がする。

「俺は二度とあなたを失わない・・・アリア」

シリウスが何かを言っているが、頭が働かない。気絶するように私はシリウスの方へ倒れこんだ。

「ずっと側に居続ける・・・レダ」

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