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第十七話

アリアが拉致されたという話はすぐにシリウスの耳に入った。シリウスはこの上ない険しい顔をして一連の報告を受けた。アリアを拉致した武装集団はレグルスらしいということ、今のところ何も向こうからコンタクトは入ってきていないこと、一緒に居たラナは間一髪逃げられ無事、一緒にいたボディガードは2人とも死亡、どうやらラナの従者のイザールがレグルスのスパイだったらしいこと、アリアを攫った武装集団の行方は依然不明ということ。

「恐らくレグルスの過激派の仕業でしょう。サディル率いる実働部隊は貴族の拉致が横行していましたから」

警察幹部の一人がそうシリウスに話した。シリウスは低い声で「そんなことは分かっている」と一蹴した。レグルスの2トップであるサディルとカリーナのうち、サディルは過激な武闘派で知られている。王族施設の爆破や王族・貴族の拉致事件を頻繁に引き起こし、拉致されたものはほぼ五体満足で帰ってくることは無い・・・。シリウスは瞳に青い炎を燃え上がらせた。

「ループスを呼べ。レグルスに俺を本気で怒らせたことを思い知らせてやる」

「ループス様ですって・・・?それでは軍を動かすということですか」

ループスはアルデバラン軍の最高責任者であり、シリウスの旧友だった。

「そうだ、レグルスの拠点と目されているところを虱潰しに潰す。奴らがアリアに指一本危害を加えないうちに、交渉に入らせるんだ」

「か、かしこまりました・・・ですが、拉致されたアリア様の身に、万が一何かあった時には・・・?」

恐る恐る警察幹部が尋ねると、シリウスは凍てついた微笑みを浮かべながら「その時は、何もかもが“終わり”だ、レグルスも、アルデバランも、焼き尽くされるだろう」

シリウスの言葉に、その場に居るものは凍り付いてしまった。唯一グルースだけが、溜息をついてシリウスの肩を叩いた。

「そう肩に力を入れすぎるんじゃない。アリアは何としても取り戻そう、絶対に取り戻せる、そうだな?」

シリウスは、ゆっくりと頷いた。

「アリアは、必ず取り戻す。どんな手を使ってでもだ」


レグルスの拠点の一つにアリアを拉致した武装集団は身を寄せていた。エルナト率いるその小集団は、目標の拉致成功に湧いていた。エルナトも大いに酒を飲み上機嫌だ。

アリアは外側から鍵のかかった部屋に入れられていた。目が覚めたとき、酷い激痛にしばらく息が出来なかった。うめき声を上げて激痛のする腹を摩ろうとしたが、手が拘束されていてそれもできない。薄暗い部屋の中で後手に拘束されたまま転がっている自分に、漸くアリアは状況を察するようになった。

襲撃に会い、連れ去られた・・・。

アリアはふと人の気配がして顔を上げた。暗い部屋の中に、自分ひとりだけではないようだ。

遠巻きに数人が自分の様子を伺っている気配がする。

「誰・・・?誰か居るの・・・?」

息も絶え絶えに呼びかけると、一人がおずおずと近づいてきた。

「可哀想に・・・あなたも捕まってしまったのね」

薄暗さに目が慣れてくると、憔悴した女性の姿が見えてきた。女性はぼさぼさの髪で、目がうつろだった。アリアに近づくと、背中を摩ってくれた。

「どこかケガをしているの?」

「お腹が焼けるように痛くて・・・連れてこられる時に思い切り蹴られたからだと思う」

「そう、可哀想に」

よしよしと女性はアリアを労わるように撫でてくれる。

「あなたは・・・?」

「私もあなたと同じように拉致されてきたの。とある貴族の娘なんだけど、もうここに来て2ヶ月は経つわ・・・ここに居るのはそういう子ばかりよ」

見渡すと4-5人の人影がいるようだった。

「ここでは、大人しくしていることが一番よ。彼らは貴族だろうが容赦しない、歯向かえば命を落としてしまうかもしれないわ」

そう話す女性は、歯が何本か欠けていた。折られたのだろう、首にも殴られた跡がある。

ふいに部屋の外で人の気配がして、鍵が開けられる音がした。扉が開くと、廊下の明かりが部屋の中に差し込んできた。

「おい、飯の時間だぞ」

そういうと男は、アリアに寄り添っていた女性を引き寄せて下品な笑みを浮かべた。女性は諦めたような顔で頷くと、とぼとぼと一緒に部屋を出て行ってしまった。その他にも、何人かの男が女性を連れて出て行った。アリアはその場に取り残され、彼女らの身に起こっているだろうことを思い、拳をきつく握り締めた。


あちこちで男の喧騒と女の声があがる食堂で、エルナトは相変わらず酒ばかり飲んでいた。イザールが溜息をつきながら「おい、そろそろシリウス国王と交渉をした方が良いんじゃないのか」と話しかけるとそれもそうだなとエルナトは頷いた。

あの女にどれくらいの価値があるのか見極めないといけない。

「カリーナ様やサディル様にも連絡を入れないと」

「いや、今回は俺たちの力であの女を捕まえられたんだ。上層部に連絡を入れると成果を掻っ攫われてしまいかねない。これまでも貴族を拉致する度に連絡を入れていたわけじゃないだろう、今回は俺たちだけで交渉してやろう」

「しかしそれではカリーナ様がお怒りになるぞ」

「ふん、お前はカリーナ側の教育を受けてきた人間だな。俺がついていたサディルは個人の自主性を重んじていた。目的のために、個々人が出来ることをしていくことが理想の実現に繋がると、俺もそう思っている」

「そうは言っても、こんな危ない話を連絡入れずに進めるなんて・・・」

そんな時、レグルスの連絡係の男から衝撃的な知らせが入ってきた。レグルスの拠点のいくつかが、一夜の間に落とされてしまったらしい。アルデバラン正規軍が突如として攻め入ってきて、壊滅させられたそうだ。

一同が騒然とする中、エルナトはチッと大きな舌打ちをした。目には憎悪が宿っている。

「王族様のやりそうなことだ・・・俺たちのことなんかゴミクズのようにしか考えていないんだろう」

「そうは言っても、今までこんな過激なことはしてこなかったのに・・・一体どうしたというんだ」

「まさか女一人のためにやるわけが無いし・・・とにかく、奴らと交渉だ。3日以内に国王は王位を捨てろ、そして潰した拠点も元通りにするんだ。5億の金も用意させろ。もし一つでもかけていたら女は膾に切られてアルデバランの川に浮かぶだろうと伝えろ」

そう言ってエルナトは国王にこちらの要求を伝えるように指示した。

「いつもに比べたら随分無茶な要求だな」

「もうちんたら根競べなんてやってられねぇ、俺たちの悲願だった、国王制の終焉と民衆の解放を起こす。革命は俺たちの手で行われるんだ。俺たちは歴史に残るかもしれんぞ」

エルナトのその言葉に、同志達は大いに湧いた。イザールだけは冷静に、アリアの行く末を考えていた。イザールはラナと共に、ずっとアリアと付き合ってきたのだ。アリアのおかげで、わがまま放題だったラナが、ずっと大人になっていくのが側でひしひしと感じられた。自分のことだけではなく、周りのことを思いやるなんて、以前は考えられなかった。いつも明るく笑顔でいるのに、誰よりも人情に厚く聡明なアリア。彼女を失うことは、できれば避けたかった。

“交渉が上手く行ってくれると良いのだが・・・”

イザールは切にそう願っていた。

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