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第十三話

アリアが久しぶりに王宮に帰ると、廊下の向こう側にシリウスの姿が見えた。

沢山の人に囲まれて、廊下だというのに深刻な話をしているようだ。

立派で偉そうな服を着た人たちに、様々な案件の判断を迫られているのだろうなとアリアは察した。

時間が無い中、今ある状況の情報と自分の意志の元に、自分の責任で判断を下していく・・・それは彼の肩に重責が一つ一つ乗っかっていくようなものだ。

自分の判断が間違っていれば、多くの人が路頭に迷うかもしれない。

もしかしたら正しい人を傷つけてしまうかもしれない。

多くの人から批難を受けるかもしれない。

そんな重責が、知らず知らずシリウスを疲弊させているのだろう。眉間に深い皺が寄っている。

餌をまかれた鳩のように纏わりついてくる判断待ちの人を一人一人さばきながら廊下を歩くシリウスを見つめながら、アリアは側に近寄っていった。

シリウスがアリアの姿を目に留めると、目が見開かれた後、ふっと目元が優しくなり笑みが浮かんだ。アリアも嬉しくなってにこりと笑う。シリウスが、「残りは後で」の一言で周囲の人間を引き離すと、アリアの元にやって来た。


「今日は帰りが早かったんだな」

「うん、夜ご飯を一緒に食べようと思って」

珍しい言葉にシリウスが笑顔で頷いて、メイドを呼ぶと部屋に食事を持ってくるように伝えた。歩きながらシリウスは「例の件は上手く行ったのか」と聞いてきた。今回の外資系企業にアプローチするプランは、大まかにシリウスに話していたし相談もしていたのだ。

「うん、とても上手くいったわ。でも、レオに聞いたわよ、どうやら王族の誰かがオリオン社の幹部と既に話をつけていたようだって」

シリウスは、それは澄ました顔で「良いことをする奴がたまにはいるもんだな」と言うので、アリアは苦笑してシリウスの脇腹を肘でつついた。

「でも、本当に良かったの?アルデバランの国営企業に、少なからずダメージがあると思うんだけど・・・」

「ああ、問題ない。というか、むしろ良い機会になった。これで王族の息がかかった腐敗企業の膿みをかきだすことができる。これで今は国内トップシェアを誇っている企業の業績悪化が起こってくれれば、業務改善の名目で抜本的な改革や労働環境の見直しを図れるだろう」

「そう、そうね。やっぱり外資系企業に的を絞ってよかったわ。国内の根強い差別意識や特権意識のある企業では、こう上手くは行かなかったでしょう」

「それに、ずっと2位に甘んじていたオリオン社の危機意識を上手く利用したな。これが上手く行けば同じような仕掛けを他の外資系企業もやってくるはずだ。少しは国内の雰囲気も風通しが良くなるだろう」

部屋の前までやって来たシリウスが扉を開けて、アリアが中に入る。シリウスは扉を閉めると、アリアの細い腰を引き寄せて、後ろから抱きしめた。ふうっと深呼吸をするシリウスの気配に、アリアはそっと微笑んで、腰に回る手を撫でた。

「あなたは王宮で、私は孤児院で、別々のところにいたのにやってることも目的もとても似ていたのね」

まあ、あなたの方が責任重大で大変でしょうけど、とアリアが付け加えた。

「不思議だな、300年前は、君が王宮にいて、俺が孤児だった・・・でもその時も孤児に恩赦をかけてくれたのがレダだった。君は生まれ変わっても、何も変わらない」

「あなた、孤児だったの?その、前世では」

「そうだ、戦争孤児だった。10歳でアルデバランの軍隊に入って、数年後にレダの従者となった」

「私とは、よく話をしていたの?」

「護衛を兼ねていたから、どこに行くにも側にいた。レダは乗馬が好きで、すぐ馬に乗ってどこかへ出かけようとするから着いていくのが大変だった」

シリウスが苦笑している。自分の身に覚えの無いことで笑われるのも変な感じだ。

「レダは明るく優しかったが、いつも寂しそうな顔をしていた。いつだったか、夕焼けの落ちていく草原に馬を駆ってやってきて、ぼうっとそれを見ながら、もう帰る場所が無いのだと言っていた・・・」

帰る場所が、無い。

アリアは、ハッと静止し、膝から崩れ落ちそうになった。

どうした?とシリウスが顔を覗き込んでくるので、取り繕うように「なんでもない」と言うと顔を背けた。

すぐに食事を持ってメイドがやってきたので話はそれまでになっていたが、アリアはその後も浮かない顔をしていた。

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