第4話 生徒会の秘密
「そして、今は佳納美羽流さん、ですか」
「はい。その前の彼女とは、最低でも半年は付き合おうと思っていたんですが……駄目でした」
俺は美羽流に出会った。
出会った瞬間はこの子しかいない、とは思った。
その時も俺は、一週間前に付き合ったばかりの子がいたし、その子も俺の経歴を知ってたから警戒してたし、俺も、もし、この子が嫌いになっても半年は付き合おうと決めていた。
だけど、無理だった。
急速にその子の魅力が失われて行くのだ。
よく考えたら、俺、おっぱいが大きな女の子が好きだよな、とか、自分から何も言わない子は嫌いだったよな、とか、どんどんその子の嫌いな面が目についてくる。
美羽流と出会った時、美羽流は別の男のことが好きで、周囲から見ても分かるくらいそいつを追っていた。
それが逆に俺の心を揺さぶった。
もし、こんな奴と半年も付き合っているうちに、美羽流があいつと付き合い始めたらどうするんだ?
何しろ美羽流は魅力的だ。
性格も容姿もスタイルもおっぱいも、どれをとっても俺の理想だ。
スタイルにおっぱいは含まれるとか、そんな些細なことはどうでもいい。
とにかく、理想の女の子だったんだ。
そう思ったら居ても立ってもいられず、美羽流を口説き落としていた。
「本当に、一度は我慢したんですよ……? 信じてもらえるかは分かりませんけど」
「そうですね。分かってますよ、あれは苦労しましたから」
「? どういうことですか?」
苦労した? この人が? 何に?
俺は既に、美羽流と付き合う前から生徒会にマークされていたって事か?
「尾澤さん、私はあなたに謝らなければなりません。申し訳ありません」
幼い感じだけど、育ちのよさそうな郷羽先輩が、生徒会副会長が、俺に頭を下げる。
「え? いや……何ですか?」
その意味が分からず、俺は戸惑うばかりだった。
先輩は頭を上げ、じっと俺を見つめる、申し訳なさそうに。
「まさか、そんなことになってるなんて思ってなくって……申し訳ありません……」
「いや、何言ってるか分からないですよ。何があったんですか?」
「…………」
郷羽先輩は、それを俺に言うことに勇気がいるのか、少し戸惑った表情をする。
「あのですね、あなたのその惚れっぽさは、実は私が操っていたのです」
「……は?」
何を言ってるんだこの人?
見た目同様に、心まで幼くて変な夢を見るタイプなのか?
だって人の心だぞ? そんなもん操れるわけが……。
いや、でも、確かにこの数か月の俺の惚れっぽさは異常だ。
しかも、可愛いは可愛いけど絶対俺の好みじゃない女の子にまで惚れて、情熱的に口説いていたし。
それこそ、誰かに操られていなければ絶対しないだろうという事を平然としていたんだよな。
目の前の郷羽先輩は、心から申し訳なさそうにうつむいていた。
「え? もしかして、本当に……?」
「……はい」
「え? でも、どうやって?」
もしそれが本当だったとして、俺に何をしたら俺を惚れっぽくさせることが出来るんだろう?
マインドコントロールだよな、それって?
まさか、俺の部屋に何か催眠ツールがあって──。
「尾澤さんは、異能者って信じますか?」
と、思ったら、明後日の方向から答えが返ってきた。
「いえ、そういうのは受験前に卒業しました」
「実は、異能はあるんですよ。しかもそれは、特定個人じゃなく、特定地位の人に与えられているのです」
「はあ……」
だから、そう言うのは卒業したって言ってるじゃん、とか思ったけど、郷羽先輩が妙に真面目くさい話し方をするので、とりあえず聞いてあげることにした。
子供の面倒が見れるようになって初めて大人だよね。
「これは秘密にしておいて欲しいのですが。いえ、秘密にするしかないのですが、葉納高校の生徒会長には『統率力』という異能が与えられます。これは全校生徒の気持ちを思い通りに操作する能力です」
「え……?」
何だそれ?
人の心をいじるとか、あり得ないだろ。
「おかげで葉能高校の生徒は、これまで問題という問題を起こしたことがありません。これも責任ある者が、強力な異能を正しく使っているからです」
「いや、ちょっと待ってくださいよ、それって人の心を操作するんですよね?」
「そうですよ?」
いや、そうですよって。
「人の心を操るとかまずいでしょ、それは」
「どうしてですか? 尾澤さんはこれまで、人の発言に感動したり、反省したりして心が動いたことはないですか?」
「いや、それはありますけど」
「それと同じですよ。ちょっと発言力が強い人と思ってもらえればいいです」
なんか違う、とは思うものの、確かにそうかもな、と納得してしまっている。
確かにクラスメートでもやたらと発言力が強い奴はいる。
それの強力版、と言われると何となく分かる。
だって俺、そいつらをちょっと卑怯だと思ってるし。




