第32話 次期会長、そして──
「さて、それで君たちのどちらかを次期生徒会長に選ばなきゃならないんだけれど。正直どちらも合格点には達していない。だけど、今後の伸びしろや、就任後のリスクを考えたら、郷羽くんの方になるね?」
「ほ、本当ですかっ?」
郷羽先輩が立ち上がる。
えー、この人が生徒会長かよー。
普通に能力不足で務まらない気がするんだが。
「だけど、君もどちらかと言えばというだけで、適任だからではないのだよ、郷羽くん」
「は、はい……」
選ばれた郷羽先輩は喜びを表現しかけていたが、生徒会長の一言でしょぼん、と肩を狭める。
「彼女だけに任せるのは、非常に不安も大きい。それは分かるかい、尾澤くん?」
「……俺ですか? まあ、そうですね。郷羽先輩は真面目ですが、精神的にも幼いですし、騙されやすいです。生徒会長になったら、月一のペースで丸め込まれるでしょうね」
「尾澤さんはそんな目で私を見ていたんですか!?」
いや、驚くほどの事か?
俺、ずっとそんな感じの態度だったと思うんだけど。
「分かってくれていて話が早い。だから、君が副会長──次期生徒会長候補として、彼女を支えてくれないか? これは君にしか出来ないことだと思う」
俺が、生徒会副会長……。
「え? いや、ちょっと待ってくださいよ!」
「何かな?」
「俺、いきなり副会長って言われても困るんですけど」
副会長として、郷羽先輩を支える?
いや、確かに郷羽先輩が生徒会長って、一人じゃ無理だろうけど!
「そうだね、もちろん君の意思は尊重しよう。だけど、郷羽くんのせいで、君は『統率力』について知り過ぎている。今後、生徒会に関わらないとなると、残念だが忘れてもらわなければならない」
「…………え?」
何かを、忘れてしまう?
それは、なんとなく気持ち悪い。
「忘れる、と言っても大したことじゃない。『統率力』と、それに関連する郷羽くんとの記憶のみだ。それらを忘れた君は生徒会とは関係のなかったように、今後の学校生活を送って行けることだろう」
まあ、その程度なら問題ないか。
『統率力』なんて知らない方が幸せだからな。
郷羽先輩なんて貧乳先輩のことも別に忘れても──。
「しかし、だ。これはあくまで僕の感想に過ぎないんだけれど、君は郷羽くんと話をしていた時、いつもよりも楽しかったように思えるんだけど、どうかな?」
「楽しそうだった? 俺が、ですか……?」
そんなことは、ありえないだろ。
何しろ郷羽先輩だぞ?
貧乳のBカップ先輩だぞ?
まあ、最悪貧乳は置いておくにしても、尊敬するところなんて何一つない先輩だぞ?
そんなのと一緒にいて、俺が楽しかった、だって?
「ていうか、どうして会長はそこまで俺を知っているんですか?」
俺と会長はこれまでほとんど接点はなかったはずだ。
もちろん郷羽先輩が報告しているという可能性はあるが、郷羽先輩が「尾澤くんは私といると楽しそうです」なんて言うわけもないし、言ったとしても信じる人でもないだろう。
「知っているも何も。矯正面談室はその用途目的上、防音になっているけれど、だからこそ、カメラが付いている。声までは聞こえないけどね」
「ええっ!?」
驚いたのは俺じゃない、郷羽先輩だ。
「そんなこと知らなかったですよ? 大変ですっ! 凄いところを見られてますっ!」
一体何やってたんだよ!?
「安心して欲しい。僕だってずっと見ていたわけじゃないし、君が着替えを始めたらモニタの電源は切っている」
「き、着替えだけですか? その……」
だから、何やってたんだよ、このお嬢様!?
「少なくとも僕は、君が恥ずかしいと思うような場面は見ていないつもりだよ」
会長が言うと、郷羽先輩がほっとBを撫でおろす。
何やってたのか知りたいと思ったが、よく考えたらそこまで興味がない。
「それで、君を見ていたが、あの部屋で君と郷羽くんがいるときはずっと楽しそうな表情だったように思えるんだけれど、気のせいかな?」
楽しそうな表情……?
確かに、あそこで郷羽先輩と話していた時は楽しかったように思える。
俺も今や、全校に嫌われていて、どこにいても嫌悪の視線があるし、嫌がらせも数知れない。
それでストレスが溜まらないほど精神的に強いわけじゃない。
だが、郷羽先輩をからかっている時は、俺が抱える色々なストレスが全てなくなったかのようになくなっていた。
何しろ俺は、廊下を歩くだけで、教室にとどまっているだけで、俺を敵視する目や、聞こえみよがしに言う悪口にストレスを感じるんだからな。
だけど、あの部屋に行けば、必ず郷羽先輩は俺を迎え入れてくれた。
俺を唯一の味方として、歓迎してくれた。
しかも、先輩なのに、異性なのに、何の気も使う必要がなかった。
だから俺も自由に行動して、大半の時間を郷羽先輩をからかって、楽しんでいた。
それが楽しくなかったと言えば嘘になる。
「どうするかな? 君は副会長になって彼女を支えるか、『統率力』や郷羽くんとのことを忘れて、普通の学校生活を送るか」
その問いの答えを、会長に迫られた。
俺は。
俺は──。




