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第3話 罪を告白

「こっちです、二階です」


 郷羽先輩は俺を連れて、階段を上がる。

 ちびっこいので後ろについて歩いてもスカートの中が見える気配もない。

 いや、階段でスカートの下を覗くのは礼儀だから、好みとか関係ないよね?


 本校舎の二階は生徒会の部屋があり、その周囲に生徒も使える会議室がいくつかある。

 その中で一番小さな会議室に──いや、その部屋の入り口には「会議室」とは書いてなく「矯正(きょうせい)面談室」って書いてあった。

 え? 何だ矯正面談って?

 矯正ってなんだっけ、歯を綺麗に並べる奴だっけ?

 いや、なんか違うと思う。


 ……多分俺、これまでの事を怒られるんだろうなあ。

 そして、もう二度としません、とか誓わせられるんだろうなあ。

 でもさ、俺だって仕方がないんだよ、俺自身、何度自分で誓ったことか分からないし!

 部屋はなぜか完全防音になっている。

 矯正ってやっぱりそういう事なんだろうな?


「では、そこに座ってください」


 大きめのテーブルの向かいの椅子を指さして、郷羽先輩が言う。


「…………」


 俺はおとなしく、そこに座る。


「さて、尾澤さんはここ三か月、何度も情熱的な恋をしましたね?」

「……はい」


 俺は素直に答える。

 俺は中学時代から格好いいとは言われて、何度か告白されたこともあったが、照れくさかったから断っているうちに、誰とも付き合うことなく卒業して高校生になった、という普通の高校一年生だ。


 当時から女の子には興味があったけど、俺は女は顔とスタイルと元気さだと思ってるから、中学時代の女の子はよほどの早熟な子でない限り、顔と性格はともかく、スタイルで俺が付き合いたいとまで思う子はいなかった。

 だけど、高校に入って俺の気は変わった。

 スタイルなんて、どうでも良くなった。


「最初に付き合ったのは、同級生の大久保友里子さんでしたっけ?」

「はい」


 さすが生徒会、よく調べてる。

 そう、俺は入学式の当日、クラスメートの女の子に一目惚れをした。


 それは、美羽流とは、そして、俺のタイプとはかけ離れた、まあ、可愛いけど、スタイルもまだまだで、おとなしい女の子だった。

 俺はその子を情熱的に口説いて、その二日後には付き合うことになった。

 生まれて初めての彼女だ。


「次が一週間後に一年生の一色沙也加さんでしたっけ?」

「はい」


 そう、俺は付き合って一週間もしないうちに再び一目惚れをした。

 その子は、少しはスタイルがいいが、それほどでもなく、性格も明るいが、まあ、その程度の子だ。

 俺はその子に情熱的にアタックをして、その三日後、付き合うことになった。

 それと同時に、最初の子、えーっと誰だっけ? その子とは別れることになった。


「次がその一週間半くらいしてから、二年生の更谷恵美さん」

「そうですね、吹奏楽部の」


 体育会系後輩的女子が好きな俺としたことが、ゴリゴリの文化系先輩に恋をしてしまった。

 その人は年上がタイプとかで、最初は俺なんて相手にもされなかったし、その時の俺の彼女が俺を取られないようにガンガン割り込んで来るしで時間はかかったものの、二週間後には付き合うことになった。


「で、またその一週間後は、えーっと誰でしたっけ?」

「覚えてませんが、確か三年生のおっぱいの大きな人だった気がします」

「あ、そうそう、永村多恵先輩でした」


 三年生だから、この人にとっても先輩なのか。


「その後も、入学してこの三か月で十人もの女生徒を口説いて、今のところ全員を口説き落としましたね?」

「……はい、その通りです」


 多分、俺はこれから、責められるんだろう。

 もしかすると、何か処分されるかもしれない。

 俺は別に中学時代も惚れっぽかったわけでもなく、それどころか、女の子と付き合ったこともなかった。

 だけど、この学校に入ってからは、惚れては付き合い、また惚れては付き合い、を繰り返している。

 自分の事ながら、何をやっているんだ、とは思うけど、惚れてしまったんだからどうしようもない。

 俺に口説かれて惚れてしまった女の子全員を傷つけているのは分かってはいるんだ。


 だけど俺は、惚れるのを止められない。

 まるで何かに急かされているように。


「それが原因で、あなたはほぼ全校生徒に、特に女生徒に嫌われているんですね?」

「はい……まあ、仕方がないとは思ってますが……」


 女の子に次々と告白しては、その気になったら捨てて、次に行ってしまう。

 そんな俺が好意的な目で見られるわけもなく、女の子からは絶対的な敵を見る目で見られてるし、男からも呆れられている。


 で、女の子を敵に回す、女の敵の仲間になりたくはないので、男の中学時代からの知り合いもみんな離れて行ってしまった。

 それが全て、自分の蒔いた種だってのは分かってる。

 それでも俺は人を好きになるのをやめられない。

 まるで何かに引っ張られるかのように、また、恋をしていた。


「尾澤さんは学校でも結構有名な存在になっています。私も最近それを知りましたけど」

「そうですか。……でしょうね」


 学校全体の噂なんて知らないけど、多分そうなんだろうな。

 俺の行動は目立ってるから、噂は広がるだろうし、俺の顔を知らなくても名前と噂は知ってるって奴も多いだろう。

 一応俺にも人間の感情ってものはあるから、俺を好きになってくれた子達には誠意をもって謝ってはいる。

 自分の正直な気持ちを伝え、俺なりに誠心誠意謝罪はしている。

 だけど、さ、この前まで情熱的に口説いてきた相手から、もうあなたを好きではない、だからこれ以上あなたとは付き合えない、と言われて、分かりました、なんて納得してもらえる事なんてほとんどない。

 女の子たちのほとんどは怒るし、泣き、そして、別れるのは嫌だと言ってしがみつく。

 それでも俺の気が変わることはない。

 何しろ俺はもう、別の女の子に夢中なんだからな。

 そのうち女の子たちは俺を恨み、憎むようになって離れて行く。

 そりゃあ、仕方がない、自分でもそう思う。


「だけど、それでも人を好きになることは止められないんです……」


 俺だって、女の子の悲しい表情が見たいとは思わない。

 だから、今はもう彼女がいるんだから絶対に他の女の子に見向きをするな、なんて強く思ってる。

 だけど、それでも恋をしてしまうんだよ。

 ここまで行くともう何らかの病気かも知れない。


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