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第21話 好きなもので共感

 正面から来る南潟先輩を、大きく手を広げてガードする。

 先輩はシュートの姿勢、だがこれはフェイクだ。

 俺は半歩前に出て、ボールを奪おうとするが、ボールを背に回される。

 ていうか、背中でドリブルしてるよ、この人。

 眼前に迫る南潟先輩。

 ここは一旦引いて再度攻撃に来ると思っていたその時。


「あ?」


 束ねてない先輩の髪が俺の視界を塞ぐ。

 あれ? 反転したのか、と思った瞬間、更に反転して、俺の脇を抜ける。

 そして、一気にゴール下に走り──。

 高く飛び上がり、ゴールにボールを乗せるようにシュートする。


「……あ」


 この時の集中力、瞬発力はかなりのものだっただろう。

 だから、その跳躍はとても高く、そして美しかった。

 ゴールを決めた時、全身が伸び切った綺麗な姿は、見とれてしまうほどだ。

 だけど、南潟先輩はゲームに集中するあまりに忘れていた。


 今、自分の着ている服が、短パンじゃなく、ミニスカートであることを。

 薄い青と濃い青のチェック。

 そんな色が、濃いベージュのミニスカートからちらりと覗く。


「これで十ゴール。あたしの勝ちね」


 だが、先輩はそんなことにも気づいた様子はなく、満面の笑みで勝ちを名乗った。


「負けました、流石に勝てませんね」


 最後は俺も先輩もかなり本気だったし、先輩が自分の服装を忘れるのと同じくらい、俺も今がデート中なのを忘れて真剣にどうすれば守れるか、攻められるかを考えていた。


「でも、一ゴール入れたのはさすがね。あれだけは悔しかったわ」


 正直、楽しかったし、おっぱいの全く揺れない先輩でも、魅力的に思えてくるくらいには実力差を感じた。

 真剣にプレイしたからこそ、それが分かる。

 この人は、本当に凄い。


 何よりプレイしながら俺に細かく教えて、俺がそれを習得したら敵なのに喜んでくれるし。

 この人は本当にバスケが好きで、純粋に人とバスケをすることが楽しいんだろうな。


「……ちょっと汗かいちゃったわね。さすがにここまでは考えてなかったわ」


 困ったように、可愛いキャラクター柄入りのハンカチで、額と腕周りを拭く先輩。

 ベンチに置いておいたポーチから小型の制汗剤スプレーを取り出して身体に振り撒いている辺りはさすがにスポーツを嗜む女性だ。


「最後、本気でしたよね?」

「あんたが上達してきたから、本気でやらないとね。あんなこと言って負けたくないし」


 笑いながら、冗談なのか本気なのか分からないことを口にする先輩。


「ま、俺が負けたんだから、飲み物は奢りますよ」

「そんなの悪いからいいわよ」


 熱くなって自分から言い出した賭けなのに、勝ってしまうとこんなことを言う南潟先輩。


「これもデートの一環です。あっちにあるカッフェで奢りますよ」

「あ、そ、そうだったわね。デート、してたんだったわね……」


 楽しくて今まで忘れていたのか、突然思い出した南潟先輩は、自分の服装まで思い出し、今更また短いスカートを押さえた。


「じゃ、俺がボール返して来ます。そうしたらすぐに行きましょう」


 俺がボールを事務に返しに行く。

 戻ってくると、先輩が小走りにトイレから戻って来ていた、ああ、トイレ行きたかったんだ、なんて思ってた。


「じゃ、連れてってくれるのよね?」


 そう言って、俺の近くに寄って来た南潟先輩からはさっきよりも濃いフローラルの香りがした。

 ああ、さっきトイレで服の中まで制汗剤ふったんだな、なんて思うと、少しだけ可愛いと思った。


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