第2話 ちみっこに連行される
「尾澤陽翔さんですか?」
公園に行こうと下駄箱に向かっている最中、女の子に声をかけられた。
「? そうだけど、誰?」
見たことはない子。
背格好が小柄なので、一年生かとも思うけど、少なくとも俺は見たことがない。
俺も入学してまだ三月ちょっと。
だけど、色々な女の子と付き合った経緯から、その子の周辺の交友関係も含めて、一年生から三年生まで、多くの女の子を知っている。
だから、大抵の女の子は、俺にどんな感情を抱いているかは別にして、顔見知りではある。
だけど、こんな子は見たことがない。
肩にちょっとかかるくらいの髪の長さで、ゆるく天然パーマがかかってるから、天然パーマ証明証を持ってそうな子だ。
見た目だけで判断するなら、いかにも「しっかりしていなさそう」なタイプで。ほっといたらいつまでも半笑いでぼーっとしてそうな子だ。
だけど、ちょっとした仕草が上品で、きちんと躾けはされていそうな子ではある。
まあ、可愛くないと言ったら嘘になるけど、おっぱい小さいから興味はかけらもない。
アホの子っぽくて、おそらく学級委員とかそういう人の上に立つものからもっとも縁遠いタイプの子だ。
「えっと、私は、生徒会副会長の郷羽咲理って言います」
にっこりと笑う女の子。
自己紹介されたけど。どうすればいいんだこれ。
え? まさか、今更俺に惚れた子とか?
まあ、正直に言えば、俺の顔面は格好いいらしい。
だから中学の頃から時々告白されたことはあった。
だけど、高校に入って、変な噂が広まってから、俺は好かれるどころか嫌われてるから、今更そんなことはないと思ってたんだが。
でも俺、今付き合ってる子がいるし、この子、おっぱい小さいし、ちょっとタイプじゃないなあ、可愛いのは認めるけど。
どうやって断る……ん?
「え? 生徒会副会長……?」
「はいっ! 生徒会を去年の十月から勤めています!」
笑顔で言われたけど、それがまた無邪気な感じで、こんな子に本当に生徒会が務まってたのか? なんて疑問に思う。
だけど、まあ、実際勤めてるようだし、こう見えて実は実力があるのかも知れないな。
「それで、その副会長さんが俺に……え? 年上?」
生徒会の任期は俺も詳しくは知らないけど、さっきこの人、えっと、郷羽さんは去年の十月から勤めていると言っていた。
ってことは少なくとも二年で、生徒会ってのは大抵二年から三年の間に努めるだろうから、この人、実は三年生?
「あ、はい、尾澤さんよりはお姉さんですね。二年生ですから。大人の魅力です」
あ、二年なのか。
大人の魅力は笑えない冗談にしても、一年で生徒会に立候補なんて、物凄く出来るか、いじめで押し付けられたか、無意味な自信家かのどれかだろう、多分二番目だ。
しかもいじめに気付いてないタイプだ。
でも、この人、一応俺の年上なんだな。
「出来ればちょっと付き合ってくれませんか? 会議室まで」
郷羽先輩は、無邪気な笑顔で俺を会議室についてくるように言う。
「え? いや、俺、これからデートなんですけど」
「あ、はい、そういうあなたの色々なことでのお話しです」
「……えー」
そういう色々って言うと、やっぱりあれか。
俺のこの三か月の素行の問題なのか。
あまりにもひどいので、生徒会が動き出したって事か?
それなら……まずいな。
中学と違って高校の生徒会はそれなりの力を持っているらしいし、厳重注意で済めばいいけど、そうじゃなかったら……。
俺には何の後ろ暗いところはないんだけど、それは俺が思っているだけで、周囲から見たら多分、厳しく取り締まられる側だと思う。
そして、まだこんなもんじゃ先生は出て来ないだろうけど、いつか先生が出てきて指導や懲罰もあるのかも知れない。
その前に生徒間で何とかしようって話なのか?
「さあ、来てくれませんか?」
「あー、でも……」
「来てくれないと、大変なことになってしまいますよ?」
その表情は、それこそ「来てくれないと泣いちゃいますよ?」みたいなのだが、相手は生徒会役員。
俺の知らない権力があるかもしれない。
俺の高校生活は既に破滅寸前だけど、自分から破滅させる必要なんてない。
「分かった、分かりました、行きます……」
俺は諦めてついていくことにした。




