いきなり転生のことがばれました
「カグラ・・・、なぜこの艦がここに有るんだ・・・。」
辛うじて絞り出したその呟きに応えられる者は誰もいなかった。
いや・・・、理由を応えれる者は居なかったが、呟きに応える者はいた。
「かぐら? ですか? リュシル様はこれが何かご存知なのですか?」
フィーのその声に、少し混乱していた俺は不用意に応えてしまった。
「ああ・・・、この船は、俺が転生する前に乗る予定だった護衛艦カグラなんだ・・・なんでこの艦が・・・。」
そこまで言ってしまってから俺は、ハッとなり”やってしまった”と心の中でつぶやいた。
恐る恐るフィーの方を見ると、「俺? 転生? 護衛艦・・・?」と呟きながら、訝しむ様に俺を見ていた。
その様子に、内心冷や汗を掻きながら言い訳を考えていた。
「え、と、その、そ、そお、少し前に読んだ物語にこの船の事が書かれていて、それでその船に乗ってみたいなと・・・その・・・。」
信じてくれる? と思いを込めてフィーを見つめると、俺の顔を暫くの間じっと見つめた後、深くため息を吐き出し。
「分かりました、今はその様に思っておきます。」
あれ? 追及されなかった? もしかして誤魔化せた?
「でも、落ち着いたらちゃんと説明してくださいね?」
駄目でした・・・。凄く良い笑顔でした。怖かった・・・。
「はい・・・、分かりました・・・。」
でも、これで少し時間が稼げる、なんとかこの調査が落ち着くまでに上手い言い訳を考えて置かねば。
何とか心を落ち着かせると、調査を再開しようと顔をあげる、フィーを見ると、ニッコリと笑顔を見せてくれた。良かったいつも通りの笑顔だ。
「落ち着かれましたか?リュシル様。」
「うん、なんとか・・・。」
落ち着いた事をフィーに伝えると。
「では、ご説明をしていただけますね?」
――!? フィーさんの笑顔がまた怖くなった!?
え? え? 説明は調査が終わってからじゃ・・・。え?
落ち着いたらって、俺が落ち着いたらってことなの?
俺はどうやってこの場を切り抜けようか考えていると、フィーが急に真面目な顔になり。
「リュシル様・・・、フィーは言ったはずです、リュシル様が何者であっても、リュシル様のみに忠誠を誓っていると、ずっと傍にいると。逆にリュシル様が隠し事のせいで、フィーによそよそしくされる方がもっと嫌なのです。ですから全部話してくれませんか?」
そう言ってフィーの目から一筋の涙が零れた。
ああ・・・、女の人の涙ってずるいよな・・・、特に俺はフィーの涙に弱すぎる気がするな。
頭を掻きながらその場に胡坐をかいて座ると、フィーにも座るように促す。
覚悟を決めフィーの手を握ると彼女も握り返してくれた、そうして、俺の事を話して行った。
ギフトの儀式で転生者だと分かった事、その影響で転生前の記憶が戻った事など、そしてこの艦が転生前に乗る予定だった事などを話して行った。
そうして話し終わった後、恐る恐るフィーの顔をみると、彼女は真っ直ぐな目で俺を見つめていた。
「二つ程、伺ってもよろしいですか?」
その言葉に、俺はゆっくりと頷く。
「転生されて記憶が戻るまでの間のリュシル様はどうなったのですか?」
「それは、ちゃんと俺の中にあるよ、その5年間があるからこそ今の俺があるんだし。」
「では、記憶が戻った後のフィーとの誓いは嘘偽りの無い事なのですか?」
「それも、もちろん俺が本心から誓った事だよ。」
そう言って、フィーの目を真っ直ぐに見つめ返した。
「そうですか・・・、では、特に問題ないですね。」
そう言うとフィーはニッコリと笑顔を見せてくれた。
え? それだけでいいの? 他に問い質したい事とか無いの? 俺が困惑した顔で尋ねると。「先ほども言った様に、リュシル様がリュシル様である限り何者でも問題ありませんから。」と笑顔で返されてしまった。
俺の今までの悩みは何だったんだろ・・・。
一番の懸念が解消された事により、気持ちも楽になったため周りの状況を確認する余裕が出来た。
この空間は、通路側から見ると、横300m奥行200m高さ50m程の空間があり、天井が開閉出来る構造となっていた、その中心に護衛艦カグラが存在していた。
俺たちの出て来た通路は一段高い位置にあり壁に沿って3m幅の通路があり。そして、その通路の途中から、カグラ側面に有る乗船口へと橋がかかっていた。
ここは、どうやら船の整備工場か何かの様だ。
まず、最初にこの建物の制御室へと向かった、ここの設備が使用できるか確認するためだ。
残念ながら、電力を外部から取っていたためか供給が止まっていて設備を稼働させる事は難しそうだった、緊急用の蓄電池はあるがフル稼働させたら、数十分で使い切ってしまい、真っ暗になってしまうだろう。
なので、建物の設備の稼働は諦めて、カグラへ向かうことにした。
通路の途中にある橋を渡り、カグラの乗船口の前までくる、入り口のパネルに触れると開閉用のパスコード入力を求められてきた、電力については、先程の制御室で蓄電池から供給されている事を確認済みである。
パネルに入力するパスコードだが、生前の軍に所属していた時の物が使えるはずだ、これも制御室の扉で確認済みである。
そうして、入力後にオープンの表示に触る前に、後ろを振り向きフィーに扉を開ける旨を伝える、ふ・・・、先程と同じ轍は踏まないのだよ。
フィーが頷くのを確認後、表示に触れると、扉が自動で開いて行く、やはり内部の気圧が高かったようで、空気が流れ出て風が起きる、俺はやはりなと思いながら後ろを振り向く。
そこには、スカートがふわりと捲れ上がったフィーさんがいた・・・。
あれ~? これどうなってんの? 風が出るからスカート押さえててねって注意したつもりだけど・・・。
その光景に固まっていると、フィーがスカートを押さえ、俺を見て優しく微笑みかけてきた、その顔は、もぅリュシル様も好きねと言っている様だった。
ちょ、違うから、そんなつもりで言ったんじゃ無いからね!? 一度フィーとはちゃんと話し合わねばいけない様だ・・・。
気を取り直して中に入ると通路は常夜灯が点灯しており、薄暗いが明かり無しでも進む事が出来た。
俺は迷いなく通路を進み、『中央制御室』と書かれた扉の前で立止まる、入り口のパネルにパスコードを入力して扉を開け中に入る。
その部屋は直径10m程の円筒形の部屋となっており、その壁面には無数のパネルやメーター、モニターなどが有り、部屋の中央にもモニターらしき装置が複数設置されていた。
俺は中央にある装置に近づくと、装置の上面に有るカバーを鍵を使い開け中にあるスイッチを入れる、鍵は制御室に保管されていた、少しすると壁面に有るパネルに明かりが灯り始めモニターにもいくつもの文字が表示され、何度も明滅を繰り返していく。
さらに暫く待つと部屋の明かりが点灯し明滅も落ち着く。
その瞬間、中央にあった装置の上部に、一人の女性がホログラムによってが浮かび上がる50cm程の大きさのその女性は巫女服を着ており長い黒髪をした美しい女性の姿をしていた。
その女性は透き通るような声で言葉を告げる。
『システムの使用者確認の為、パスコードの入力をお願いします。』
前の世界の言葉を聞いて、懐かしさがこみあげて来た。俺はその声に従い、軍の時代に使っていたパスコードを告げる。
『確認致しました、護衛艦カグラへようこそ、私の名前は艦と同じく神楽と申します。比嘉 徹様。』
『比嘉様のこの艦に対する管理レベルはAとなります、艦の航行システム、武器管制システムの使用は出来ませんがその他のシステムは全て使用可能です。』
ホログラムの女性は自らを神楽と名乗った、神楽はこの船を管理する疑似人格の一つの様だ。
『!! もしかして、貴方様はマスターの一人、比嘉 徹様ですか?』
神楽が驚きの表情を浮かべてそう言った、マスターか懐かしい呼び名だ、この神楽の親となる、システムの開発に大学時代参加していた事を思い出した。
『マスターか懐かしい呼び名だね、たしか天照からそう呼ばれてたよ。』
『ああ、感激です、こんな所でマスターに遭うことが出来るなんて。』
神楽は、胸の前で手を組み俺を見ていた。
『でも、記録されている画像と姿が違う様ですが?』
『ん~いろいろあって今はこの姿なんだよね。』
俺が頭を掻きながら答えると。
『成程、いろいろあったのですか・・・。でも、お会いできて光栄です。』
そう言って神楽は喜びを表す様に笑顔を見せた。
ふと、背後から不穏な空気を感じて振り向くと、そこには、もの凄く機嫌が悪そうなフィーが居た。
「フィ、フィーさんやどうしたのかな? 」
俺が恐る恐る問いかけると。
「知りません! リュシル様が綺麗な女性と楽しそうに話しているのを見てたら、なんとなく腹が立って来ただけです!」
あら~、俺が神楽とだけ話してたから拗ねちゃったのかな? 言葉が判らないから話している事が気になったのかな。
「あ~、フィー? 彼女は神楽と言って、この艦を管理している管理システムの疑似人格なんだ。俺は神楽の親となるシステムを開発していた人間の一人だったんだ、だから神楽は孫みたいなもので、懐かしくなってつい話し込んじゃっただけだよ?」
それでもフィーの機嫌は直らない、こうなったら最後の手段だ。
「こ、今度フィーの言う事を一度だけ、俺のやれることならなんでも聞いてあげるから機嫌直して、ね?」
なんか、子供をあやす父親の気分だ・・・。
「ほ、本当ですか? 約束ですよ、なら許してあげます。」
そう言うとフィーは満面の笑みを浮かべた。
何を許すのか分からないけど、機嫌が直った様で良かった。
『あの~、そう言う事は、他所でやってくれませんか~?』
く、元々の原因作ったやつが何を言ってるんだって、今度は神楽が機嫌悪くなってる~、なんか凄い不貞腐れてる~。
もぅ、なんなのこれ、何かの呪いなの? ほんとに・・・。
なんとか神楽を宥めて、本題を切り出す。
『神楽、今の艦の状態を教えてくれないか。』
『はい、現在艦の機能は40%程が使用可能となっております。30%が整備点検を実施しないと使用に支障が出ます、後の30%は権限が無いため使用が出来ません。』
『航行システムと武器管制システムが権限の関係で使用できません。』
俺の指示に神楽が答えると、神楽の足元に艦の全体図が表示され、使用可能な施設の一覧と位置が色分けされて表示されていく。
その、表示の一部に目を向けると、そこが拡大表示されて詳細が確認できた。
『後、メインとなる動力炉がメンテナンス中のため、制御基盤が取り外されており、起動する事が出来ません、ですが、航行システムと武器管制システムを使用しないのであれば、サブの動力炉で十分賄えます。』
艦の一部が赤く表示されていた、動力炉のある場所の様だ、そこに目を向けると詳細が表示され制御基盤のスロットが幾つか赤く表示されていた、恐らくそのスロットの制御基盤が無いのだろう。
『その、基盤の有る場所は解るのか?』
『同じ敷地内の研究棟にて整備点検されているはずです。』
ふむ・・・、研究棟がこちらに存在しているか分からない以上、復旧は難しいか・・・。
『そうか、ありがとう。整備が必要な設備はどれぐらいで使用可能となる?』
『スウィープを使用してとなると、現在過半数がメンテナンスのために、整備に出されているため、他の箇所の点検なども含めて、10日程必要になります。』
今度は機械で出来た蜘蛛の様な物が表示される、これは大きさは10cm程で、人が入れない様な場所の整備、点検、修理などを行うためのマシンで、意外と愛嬌のある姿をしていてスウィープと呼ばれている。
『そうか、それで構わないので早速初めてくれ。』
『はい、では、直ぐに始めます。他には何かありますでしょうか?』
『あっと、そうだった、外の設備に電力を送る事は出来るか?』
『はい、外の施設に設置されている蓄電池からの、送電線を流用すれば可能です。ただし艦内で使用する電力が10%ほど低下する事になりますが。』
この施設の全体図が表示され、外の施設の蓄電池からの配管ルートが表示され電力の流れを表していた。
『それで良い、やってくれ。』
『はい、送電を開始します。』
その様子をみて、満足げに頷くと、かなりの時間がたっている事に気づく、そろそろ戻らないといけないかな。
まだ、やらなければいけない事は沢山あるが焦っても仕方が無いか・・・。そう思い、一度引き上げる事にした。
『これで、一度退艦するが、俺の居ない間の管理は全て任せる。』
『はい、お疲れさまでした、またのお越しをお待ちしておりますマスター。』
そう言って神楽のホログラムは一礼をして消えた。
妙に静かだったフィーを見てみると、どうやら、俺にお願いする事をあれこれ考えていた様だった、すみません、俺の出来る範囲でお願いします・・・。
帰り際に建物側の制御室に寄って最低限の設備の起動を行い、帰路に着いた。
勿論入り口のドアのセキュリティロックも解除しておく、これで次回からパスコード入力で扉が開くはずだ。
坑道の外に出ると、もう日が傾いていた、今日はいろんな事があったな・・・、フィーにも転生の事や記憶の事もばれてしまったけど。
フィーは俺の秘密を知った上で受け入れてくれたって事だよな、どうして此処まで俺に尽くしてくれるんだろ?
「なあ、フィーはどうして此処まで俺に尽くしてくれるんだい?」
ふと立ち止まるとフィーを見て何気なく聞いてみた。
「どうして尽くすのか、ですか?」
フィーも立ち止まり、指を顎に当て何かを思い出すかのように首を傾ける。
「さあ、それは、なんででしょうか・・・、秘密です。」
そう言って優しく微笑む彼女に一瞬見惚れてしまった。
「え~、俺にはあれだけ秘密にするなって言っといて何かずるくない?」
恥ずかしさを誤魔化す様にそう言うと、フィーは「女の子には秘密が付き物なんです」と悪戯っぽい笑顔を見せた。
はぁ、フィーには一生適わない気がするな。
その日の夜、夕食が終り自室に戻ってきて、緊張の面持ちでフィーと向き合う。
昼間約束したお願い事を聞くためである、一体どんなお願いをされるのか、ドキドキしながらフィーの言葉を待つ。
そうして告げられたお願いは、フィーが俺を抱っこしての魔力循環でした、あ~良かった~それくらいなら大丈夫だよ~。
大丈夫では有りませんでした・・・。フィーがベッドの縁に腰かけ俺を抱っこして腕で抱きしめる形なんだけど、何だか柔らかい物が背中に当たる感触で集中出来ませんでした・・・。
フィーは終始ご満悦な顔をしてたから良いんだけどね・・・。
読んで頂きありがとうございます。
いろいろと試行錯誤しながらの投稿のため、文章が安定しませんが、生温かい目でみていただけると幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。