フィーさん旅日記
この物語は異世界のお話です、現実の物理法則とは違う法則で動いております。
その辺を留意してお読みください。
*フィーリア視点です*
”二人で小旅行”、その言葉を聞いた瞬間。フィーの中では、旅の間どうやってリュシル様を堪能・・・、もとい、リュシル様に快適に過ごして頂くかの算段が目まぐるしく立てられていた。そんな、私の様子を見てエルンスト様は苦笑いを浮かべていましたが。リュシル様からは見えない位置で本当に良かったです。
その後、お話を聞いていると、どうやら、昨日ルミネさんが納品した、新デザインのメイド服の件の様ですね。たしか、お隣のマスクート領の領主様からのご依頼をエルンスト様が受けて、ルシール商会へ発注頂いた物ですね。
私も試着しましたが、確かに着る手順が少し複雑だった様に思います。まあ、そんな事より、その時にリュシル様がご試着された姿は、とても愛らしく永久保存してしまいたくなる程でした。何か良い方法は無いかと神楽さんの方を見ると、小さく頷くとサムズアップと言う物を返してくれました。!! そうでした、たしか神楽さんは見た物をそのまま映像記録? と言う物に残せると言っていました。きっと、このリュシル様の愛らしいお姿も映像記録に残してくれたのでしょう。流石神楽さんです! 後でじっくり堪能させて頂かねば・・・。
「まぁ、差し迫った用事も無いので僕は構いませんが。フィーリアは大丈夫かな?」
おっと、物思いにふけっている間にお話が進んでいたようです。
「はい、リュシル様の行かれる所でしたら、何処へでもご一緒致します。」
勿論問題無いですよ~。リュシル様と一緒なら、たとえ、お風呂の中、お手洗いの中でも憑いて行きますよ~。
その後は、指名依頼の手続きの為に、ギルド支部へ出かけたり。小旅行で必要になりそうな小物類を買いに行ったりと、予期せぬリュシル様とのお出かけが出来ました! メイド服を発注したお隣の領主様には感謝ですね!
朝一番の乗合馬車に乗って街を出発した後、特に問題無くお昼の時間となり、街道の脇の広くなった所で休憩となりました。
リュシル様と二人で用意してもらったサンドイッチを食べていた時ですが、5歳ぐらいの女の子がこちらをじっと見つめていました。いえ、サンドイッチを見つめていたのかな? 声を掛けようとした所、多分母親と思われる女性に連れられて、乗合馬車の陰に行ってしまったのだけど。う~ん、リュシル様も気付いて無い様ですし、他の家の方針に口を出すのも問題となるでしょうし。そっとしておくのが一番ですね。
「リュシル様、領境の宿場町が見えて来ましたよ。」
その後も順調に進み、遂に最初の宿場町が見えて来ましたよ! リュシル様を堪能、もとい、リュシル様に快適に過ごして頂く為に、しっかりと計画道りに進めないと!
「リュシル様! 宿についてはフィーにお任せください。出発前に良い宿を聞いて来ましたから。さぁ、こっちです。」
乗合馬車から降りた私とリュシル様は、宿へと向かいます。コークス料理長から良さそうな宿のお話を聞けたのは僥倖でした。ふふふ、きっとリュシル様も喜んで頂ける事でしょう。それに、リュシル様をご案内するのにさりげなく手を繋ぐ事に成功しましたよ!
大道りに沿って暫く進むと、教えて頂いた通りのきのこの看板が見えて来ました。
リュシル様と共に建物に入って行くと正面のカウンターの中に一人の女性が立っていました。「いらっしゃいませ。」と気持ちの良い挨拶をしてきます。うん、やっぱり初めの印象は肝心です。この宿は当たりでしょう。
リュシル様から宿との交渉はフィーに任せて頂きました。ここは、腕の見せ所ですね。
カウンターの女性は、この宿の女将との事。どの部屋を取るか話を進めていたのですが、その様子をカウンターの縁に手をちょこんと載せて見ているリュシル様・・・。
くっ、フィーを萌殺す気ですか! こ、これが噂に聞いた、くっころと言うやつなのでしょうか・・・。
(ある意味間違って無いのかも知れませんが、違いますから! by神楽)
どうやら、女将もその様子を見て、顔を綻ばせている様ですね。ふふん、どうですか、私のリュシル様は素晴らしいでしょ!
そんな事を考えていたら、リュシル様が何があったのだろう? と言った様子で首を傾げていましたが・・・。くっ、ここで更にその攻撃をして来ますか! このままでは、我慢の限界が臨海突破しそうです! ここは一計を案じねば・・・。
「リュシル様、今のうちに宿帳に記入をお願い出来ますか?」
なんとか、気を紛らわす為にと、リュシル様へとお仕事を一つ任せる事にしたのですが・・・。
合わない高さのカウンターの上の宿帳に苦労しながらも記入するお姿・・・。私を誘っているのですか? ハッ! このままではいけません。お話を進めなければ。
「女将、少し確認したいのですが・・・。」
顔を近づけて、小声で声をかけると、その様子に女将も顔を近づけて来ます。
「二人部屋の事ですが、ベッドが一つの部屋は有りますか?」
その言葉を聞いた女将が何かを察したのか頷きます。
「はい、ダブルサイズのベッドが設置されている部屋が空いていますよ。しかも、そのお部屋は、最近流行り出した、魔道具によるお風呂が設置されております。ただ、そう言ったお部屋なため、通常の二人部屋より割高となっておりますが・・・。」
ほほう、ダブルサイズのベッドだけではなく、お風呂まであるとは、それは、正に私とリュシル様が泊まる為にある様なお部屋ですね。これは、お金が幾らかかろうがぜひ借りなければいけませんね。
「差額分は私が出しますので、その部屋をお願いします。後、リュシル様へのフォローはお願いしますね。」
「畏まりました。それでは3Fの一番奥のお部屋になります。こちらが部屋の鍵です。」
殆ど迷った様子も見せずに答えた私の言葉に、少し驚きながらも部屋の鍵を渡す女将に、差額分の金額を渡すのでした。
女将に指示された部屋に入ると、確かにダブルサイズのベッドが一つと、部屋の脇には浴室へと続く扉がありました。ふむふむ、女将の行った通りのへやですね。
これなら、リュシル様も喜んでいただける。そう思っていたのですが・・・。どうやら、お気に召さなかった様で、私の静止を振り切り女将の元へ向かってしまいました。
あわわ、ど、どうしましょう、理由は分らないですが、リュシル様はこのお部屋が気に入らなかった様です。リュシル様の意向に沿わないお部屋を取ってしまうとは、従者失格です。
しかし、理由が分からない以上、どうやれば許して頂けるのでしょう・・・。
ここは、もう、あれしかありません。神楽さんから教えて頂いた方法ですが、リュシル様の以前に居られた世界で、何かやらかしてしまった時に謝罪する方法。そう、DOGEZAと言う方法しか・・・。
リュシル様が部屋へと戻って来て扉を開けると同時に、床に頭を擦り付ける程に頭をさげます。
うう、どれだけお怒りになられているのか、怖くて顔を上げる事が出来ません。
「もう、気にしてないから、顔を上げていいよ。」
ほんの、数秒。私にとっては永遠とも感じる時間の後。リュシル様は小さくため息を吐かれ、お許しのお言葉をかけて下さいました。
それでも、恐る恐ると言った様子で顔を上げると、そこには、いつものご様子のリュシル様がいました。
ほっと、安堵のため息を吐く私に、「でも、次からは俺が部屋を取るからね。」と、告げられました。
そんなぁ、旅の間にリュシル様を堪能、もとい、楽しんで頂こうと言う計画がぁぁぁ。絶望の淵に落とされるのでした。
「後、今回の件の罰として、今日はお風呂に一緒に入るのは禁止だからね。」
更なる追い打ちですぅ。折角、個室のお風呂があると言うのに一緒に入れないなんて・・・。新しい湯浴み着も用意したと言うのにぃぃぃ。
でも、やらかしてしまったフィーがいけないのですから。今までリュシル様の優しさに甘えていました。従者である事を忘れてはいけないのです。
そう思って、食事の時も従者の立場を貫こうとしたのですが・・・。
「フィー、旅の間は、従者とかの立場は気にしなくて良いから座りなよ。」
速攻で、決意が砕け散った瞬間でした。もう! リュシル様ったら、ほんとにもう。因みに料理はおいしかったですよ。
食事の後、この宿の料理人を見た時に「「コークス料理長!?」」と、リュシル様と声が揃ってしまいました。心が一つになった様で嬉しかったです。
そうして、部屋へと戻って来たのですが。そうでした、忘れていました。一緒にお風呂に入る事を禁止されていたのでした。そんな、私を残して、リュシル様は浴室へと入ってしまいました。
うう、目の前でリュシル様がお風呂に入られていると言うのに一緒に入れないとは、生殺しも良い所です。
せめて、お背中だけでも流しに・・・。はっ! そうです、お風呂に一緒に入らなければ良いのです! お背中を流すだけなら、お風呂に一緒に入った事にはならないのです! そうと決まったら、膳は急げです。私は素早く湯浴み着に着替えると浴室へと向かうのでした。
浴室へ突入した私を迎えたのは、丁度体を洗っているリュシル様でした。ふっふっふ、どうやら、丁度良いタイミングだった様ですね。
何かを諦めた様子のリュシル様でしたが。何とか許可を頂いて、お背中を流し髪を洗わせていただく事に成功しました。フィーはこれだけで満足です!
満足だったはずなのですが、な、なんと! 今度はリュシル様がフィーの背中を流し、髪を洗ってくれると言うのです! こ、こ、こんな事初めてです! 普段は、アーベル様、シルヴィ様とお風呂に入られる事が殆どなので、アーベル様の従者のマーサさんに手伝って頂いてましたから。まさに、フィーにとって初体験、一体なんのご褒美なのですか!
先ずは、背中との事ですが。あ、あの、何故リュシル様は素手で石鹸を泡立てているのでしょうか? タオルは使われ無いのですか? ふぉぉぉ、リュシル様のぷにぷにの手が直接フィーの背中に~。しかも、優しく撫でる様な洗い方をするなんて~。
はぁはぁ、な、何と言う攻撃をしてくるのでしょうか。危うく昇天しかける所でした。
理由を聞いて見たのですが、持ち込んだタオルは目が粗いため、それを使うと肌の角質? なる物を痛めてしまって肌に良くないとの事。「フィーの綺麗な肌に傷を付けたく無かったから。」って、そんな、綺麗な肌だなんて・・・。もう、リュシル様ったら。因みに勢いに任せて、前もお願いしますと言ってみましたが、流石に前は自分で洗いなさいと窘められてしまいました。
そして、いよいよ髪の番です。リュシル様に言われて伸ばし始めた髪も、以前より20cmは伸び手入れが少し大変になって来ているのですが。そんな、伸びた髪をリュシル様は、優しく手で揉み解す様に洗って行きます。そんな、様子を見て、あんな風に全身を洗って頂きたいなどと、自分の髪に嫉妬したりしていました。そして、徐々に上へと進んで行き、遂に頭部へと到達しました。
はぁ~、癒されます~。頭を揉み解す様に洗われて、フィーはこのまま眠ってしまいそうです~。リュシル様のぷにぷにの手の感触が素敵すぎます~。
でも、そんな至福の時も終わりを告げるのでした。全ての髪を洗い終え、お湯で濯ぐと妙な虚しさが漂います。
「じゃあ、お湯に浸かろうか?」
その声で現実へと戻されるのでした。そうです、フィーがお風呂で出来る事は此処までなのです。後は、リュシル様の傍らに佇むだけ・・・。
でも、やっぱりリュシル様はお優しいのです。私が傍らに佇んでいるのを見かねて。
「そのままだと風邪を引いちゃうから、フィーも浸かりなよ。罰の事はもう良いからさ。」
そう言って許して頂けたのです。さすがはリュシル様、お心が広いのです。
ただ、二人でお湯に浸かるとしても、この浴槽は少し小さい気がします。恐らく大人一人用の浴槽なのでしょう。まあ、私達二人なら詰めれば何とか入れそうですが。
少しでもリュシル様が快適にお湯に浸かれる様にと、私がリュシル様を抱っこして入る事を提案しましたが、却下されてしまいました。残念です。
結局、背中合わせで入る事になりました。膝を曲げて入る事になりますが何とかなりそうです。リュシル様のお顔を見る事が出来ないのが非常に残念なのですが。
しかし、これは、これでなかなか・・・。!! いえ・・・、これは! 湯浴み着が新しくなり背中を流しやすくするために、大きく背中が開いているのですが・・・。私の背中とリュシル様の背中が、肌で直接触れ合って、リュシル様のぷにぷにの背中の感触が直接伝わるのです! 何と言うぷにぷに感なのでしょう。
何時までもこうしていたい位なのです。フィーはもう辛抱たまらんのですよ!
「十分温まったし、そろそろ出ようか?」
はっ! 危ない所でした。危うく、リュシル様を抱き締めてお持ち帰りしてしまう所でした。
少し、いえ、かなり、いえいえ、物凄く名残惜しいですが、のぼせてしまっては元も子も有りませんからね。
体も程よく温まり後は寝るだけとなったのですが、そこで問題が発生しました。
なんと、リュシル様が自分はソファーで寝るから、私にベッドを使えと言って来たのです。
そんな事出来る訳がありません。当初の目的が台無しに・・・。い、いえ、主を差し置いて従者がベッドで寝る訳には行きません。
ですので、私がソファーで寝ますからと伝えると、女の子をソファー何かで寝させられないと、またまた反論されてしまいました。こんな従者の私を一人の女の子として扱って頂けるとは、さすがはリュシル様ですね。
しかし、このままだと、どちらもベッドを使わなくなってしまいます。なので、逆に二人でベッドを使えば良いのでは? と伝えると、それしか無いかと納得して頂けました。何故か首を傾げていましたが。
そして、いよいよ、ベッドに横になります。先に横になっていたリュシル様の傍らにそっと入ります。何度か屋敷で添い寝をさせて頂きましたが、周りの目が在ってたっぷり堪能する事が出来ませんでした。
でも、今は二人きり・・・。誰に憚ることなく、リュシル様を堪能できます。ですので、リュシル様をじっと見つめるのです。あ~リュシル様の横顔こんなに近くで見ながら眠れるなんて、フィーはしあわせです~。
はっ! いけません、このままでは朝まで見続けてしまいそうです。少し別の事でも考えて気を紛らわせましょう。
そう言えば、お風呂に入っていた時の、リュシル様の背中のぷにぷに感、あれは素晴らしい物でした・・。
ごくり、す、少しだけなら大丈夫でしょうか。起こさない様にそっと、リュシル様の背中に手を忍び込ませます。何とか、リュシル様を起こさずに済みました。
!!、これは、やはり素晴らしいぷにぷに感! ほ、他はどうなんでしょう・・・。
その誘惑に負け、もう一つの手で今度はお腹に手を這わせます。
!!! こちらも素晴らしい! これは、以前作ったリュシル様抱き枕の比ではありません! こんなぷにぷに感を味わってしまえば、元の抱き枕に戻る事が出来ないではないですか! これは、リュシル様に責任を取って頂かねば!
この小旅行の間、リュシル様には、フィーの抱き枕になって頂きますからね? 良いですね? 沈黙は肯定と取りますからね?
はぁ、なんて冗談を言っている訳には行かないですね。リュシル様に気付かれる前に離れないと。でも、あともう少しだけ・・・。後五分、五分だけ・・・スヤァ、、。
チュンチュン 小鳥さんは今日も元気ですね。今日も良い日になりそうです。
はい、現実を見ましょうね、現実を 何てことでしょう、昨日あのまま眠ってしまうなんて、リュシル様がまだ起きていなくて助かりました。今のうちに離れなければ。
そう思い背中に回していた手を引き抜き力を入れた瞬間。びりっと走る電撃の様な痺れに思わず身動きが取れなくなりました。
もう一度、恐る恐る力を入れて見ますが。
「っ・・・!」
こ、これは、腕が完全にしびれていますね。流石に一晩中リュシル様の背中に手を入れていた訳ですから、仕方が無いですね。マッサージすれば治るでしょうか・・・。
「ん・・・」
思わず声が出てしまいそうです。リュシル様を起こさない様に我慢しなければ。
「くぅ・・・。」
こ、これは、かなりきついです、リュ、リュシル様のお顔を見て気を紛らわせねば。
「ふぅ・・・、んぅ・・・、いぃ・・・。」
な、何か、リュシル様のお顔を見ながらマッサージしていたら、しびれがイタ気持ち良い様な気がしてきました。
そろそろ、大丈夫でしょうか。そう思い腕に力を入れて見ます。
「ふぅっ! ・・・。」
くっ! 痛みで思わず体が仰け反ってしまいました。暫く動けそうにありません・・・。これは、だめですね。
そうでした、この部屋にはお風呂が有るのでした。お湯で温めれば何とかなるかも知れません。少し寝汗も掻きましたから丁度良いですね。
そうして、私はベッドからそっと抜け出すと、浴室へと向かうのでした。
お湯に浸かり温めながらマッサージする事で何とかなりました。
浴室から出ると、丁度リュシル様も起きられた様ですね。お着替えを用意せねば。
「あ、おはようございます、リュシル様。もう、起きてらしたんですね。すぐに、お着替えを用意いたしますね。」
「あ、ああ、おはようフィー。」
何故かリュシル様は少し疲れた様子でした。どうされたのでしょう?
もしかしたら、枕が合わなかったのかもしれません。私は合い過ぎて怖いぐらいでしたが。も、もし、リュシル様が望まれるのでしたら、フィーを抱き枕にして頂いても・・・。
その様子を想像して、頬を染めるのでした。
読んで頂きありがとうございます。
フィーさんの語りが安定していない様に見えますが、従者モードとフィーさんモードと思って下さい。