隣の領までお使いに行ってみる①
この物語は異世界のお話です、現実の物理法則とは違う法則で動いております。
その辺を留意して用法用量を守りお読みください。
「え? マスクート領へですか?」
俺は父さんへと疑問を投げかける。
その言葉に「そうだ。」と父さんは頷くのだった。
話は前日の事になる。
俺の作ったルシール商会、その生産部門の纏め役であるルミネさんが、出来上がったある物を納品した事から始まる。
その時に父さんと何某か話をしていた用なのだが、話が終わって、部屋から出て来たルミネさんが、俺を見ると申し訳無さそうな顔で一礼をして去って行ったのだ。
一応俺がルシール商会の会長をしている事は、父さんや一部の人しか知らないから、公の場では一礼ぐらいで問題無いのだが、あの表情はなんだったんだろ?
まあ、立場上俺から父さんに聞く訳に行かないから、何かあれば向こうから言って来るだろう。
そうして翌日、父さんから呼び出されて、告げられた言葉が、「マスクート領へお使いに行かないか?」と言う事で、冒頭の話になるのだが・・・。
恐らく、昨日の件に絡んで来るのだろうが、確認は必要である。
「父さん、一応確認ですが、昨日納品された例の物絡みですよね?」
「そうだ、それを、マスクート領へ届けて欲しいんだ。」
ふむ、届ける事に関しては難しい事も無く、特に問題無いのだが、逆に問題無いからこそ、誰が届けても変わらない気がするけど、何か理由があるのだろうか?
「父さん、どうして僕に?」
「ああ、実はな、例の物なんだが、今までの物と大分着付けの手順が違うらしいんだ。」
その言葉に、俺は確かにと頷く、俺とフィーも作成には携わっていたから良く分かる。フィーが試着した姿なんて、カメラが無い事を悔やむ程だった、神楽の方を見たらサムズアップを返してくれたから、映像記録として残してくれた様だった。
その後、何故か俺まで試着させられた。ルミネさん曰く、幾つかのサイズを用意したが、このサイズに合う体格は俺しかいないからだそうだ・・・。そして、俺の姿を見て目をキラキラさせたフィーが神楽の方を向き、神楽がサムズアップを返していたのだが・・・。神楽よ後でその映像記録は消すからな?
後で気づいたが、俺に合うサイズって、子供サイズじゃねぇかよ! 子供がこの服を着て仕事って流石にそれは無いだろ・・・。
おっと、話が逸れてしまった。ようするに、着付けの仕方が分かる俺とフィーにお届けがてら、着付け方法も教えて来いと言う訳か。
「どうだ? ちゃんと指名依頼と言う形を取らさせて貰うから報酬も出すぞ? それに、偶には良いんじゃ無いかお前たち二人で、マスクート領まで小旅行って言うのも。」
二人で・・・、その言葉を聞いた瞬間フィーの目は鋭くキランと光ったのだが、後ろにいた為に俺は気づけなかったのだが。
「まぁ、差し迫った用事も無いので僕は構いませんが。フィーリアは大丈夫かな?」
「はい、リュシル様の行かれる所でしたら、何処へでもご一緒致します。」
その言葉で、俺とフィーはマスクート領までのお届け&着付け指導の指名依頼を受けるのだった。
「リュシル様、領境の宿場町が見えて来ましたよ。」
窓から乗り出すようにして前を見るフィーなんだが、なんだろ、妙にテンションが高いんだよな。そんなに小旅行が楽しみだったのか? まぁ、フィーが楽しそうだから別に良いけどね。
依頼を受けた翌日、俺とフィーは、朝一番の乗合馬車に乗って、この宿場町までやって来た。
マスクート領の領都までは、乗合馬車を乗り継いで3日の距離だ。
最初の宿場町には日が落ちる前には到着したが、流石にこのまま次の宿場町に向かうと途中で日が落ちて野宿する事になる。なので、ここで一泊して、明日の朝の乗合馬車で次の宿場町まで向かう予定だ。
さてと、今日の宿を何処にするかだけど。
「リュシル様! 宿についてはフィーにお任せください。出発前に良い宿を聞いて来ましたから。さぁ、こっちです。」
そう言って、俺の手を引きフィーは歩き出した。やっぱり、フィーのテンションがやけに高い。
まぁ、俺自身宿屋の手続きなんて初めてだからな、今回はフィーに任せて見るか。今回のでやり方を覚えれば良いし。
そうして、やって来た宿は、3階建てのそれなりに大きな宿だった、一階が食堂となっており、2階と3階が宿になっている様だ。名前はきのこ亭と言う名前の宿で、看板にきのこのマークが書かれていた。看板が示す道りきのこ料理が有名らしい。
フィーに手を引かれ建物の中に入ると、目の前にカウンターがあり、そこには30代半ばぐらいの恰幅の良い女性が立っており、フィーは部屋を取る為にその女性へと話しかけていた。どうやらこの女性は、この宿の女将さんらしい。
今後の参考の為に、フィーと女将のやり取りを見ようと、ちょっと高めのカウンターの縁にちょこんと手を乗せ、見上げる様にして聞き耳を立てる。そんな様子の俺を見た女将がなぜか相好を崩し優し気な目を向けるのはなぜだ? そして、何でフィーもそこでドヤ顔をする?。
そうして、話を聞いている中で、ちょっと看過出来ない処があり、フィーの袖をちょいちょいと引き、耳打ちをする、その様子に女将はまた相好を崩していたりするのだが、まあそれは置いておくとして。
「フィー二人部屋を取ろうとしてるみたいだけど、流石に年頃の女の子が男と同じ部屋は不味いって。お金も余裕が有るんだから、二部屋取った方が良いんじゃ無い?」
「いえ、リュシル様、こう言った旅先では何があるか分かりません。部屋が分かれていると咄嗟の対応が出来なくなってしまいます。それに、今後こう言った活動も有るでしょうから、いくらお金に余裕が有るからと言っても、節約出来る所で節約しておかないとだめですよ。」
と、正論を別の正論で諭されてしまった。まぁ、最悪ベッドの間に衝立でも立てれば良いか・・・。そうして、二人部屋を取る事になったのだった。
俺は、気づいていなかった・・・。俺が宿帳に名前を記入している間に、フィーが女将と何やら内緒話をしていた事に。
「!? 何でベッドが一つなの? しかもダブルベッドサイズ・・・!。」
女将に指示された部屋、3階の一番奥側の部屋へ入った俺は驚きの余り固まってしまった。
俺は、ギギギと音が出そうな様子でフィーの方に顔を向けると、フィーは別段驚いた様子も無く、「ふむふむ中々良い部屋ですね。」と呟いていた。フィー~~! 何かやったな~! こんなんあかんて、チェンジや!
俺はフィーの静止を振り切り女将の元へダッシュ、部屋のチェンジを願い出た。
「あらぁ、ごめんなさいね、他の二人部屋は一杯で、あの部屋しか開いていないのよ。」
何だとぅ、一体どうすれば良いのだ!
「あ、ごめんね。お客さんが来たからちょっとのいてね。」
「あ、はい、すみません。」
俺は、素直にあやまり横へとずれると、そのままとぼとぼとさっきの部屋へと向かって歩き出す。
「女将、二人だが部屋は空いてるか?」
「あ、はい、大丈夫です。2階の3番の部屋へどうぞ。」
背中の向こうで行われているやり取りに、え? どう言う事? と疑問を感じながらも、諦めた表情でさっきの部屋へと戻るのだった。
部屋へ戻って来ると、部屋の入り口でフィーが土下座をしていた。全て、フィーの策略でした・・・。次から俺が部屋を取ろ・・・。因みに今回の件は、簡単な罰を一つ与えるだけにした。旅が始まったばかりでこの後気まずいままになっても嫌だったからね。
その後、少し時間は早かったが食事を取る事にして、フィーを伴って1階の食堂へとやって来た。1階の殆どが食堂となっている事も有りかなりの広さの部屋に、テーブル席も30程あるが、早めの時間にも係わらず、半数以上のテーブルが埋まっていた。話を聞いて見ると、泊まり客だけでなく、食事だけのお客さんもいるとの事だった。
空いている席を見つけ席に座ると、フィーは俺の傍らに佇んでいた。あれ? 何で座らないのかな?と思ったが、そう言えばここは一応公の場になるから、従者として行動しているのか、と思い至った。
「フィー、旅の間は、従者とかの立場は気にしなくて良いから座りなよ。」
俺の許しが出た事によりフィーも席に着く。二人が席に着くと同時に、小さな女の子が水の入ったコップを持って、トコトコと注文を取りにやって来た。その一生懸命な姿に思わず相好を崩す俺とフィーだった。
女の子の名前はメリナと言うらしく、この宿の女将の末の娘との事。看板娘との話だが、どちらかと言うとマスコットキャラ的な存在と思えた。客の中にもメリナ目的の人もいるらしい。変な意味では無く、メリナの一生懸命な姿を見て癒されに来るらしい。
因みに俺とフィーが頼んだのは、きのこ亭本日のおすすめ定食と言う奴だ。
出来上がった料理を持って、メリナがトコトコと歩いてくる。流石に一人で全部持つ事は無理なので、女将が一緒にやって来た。そして、料理が並べられて行った。
出された料理は、細かく刻んだきのこが練り込まれた、きのこパン。キノコがたっぷり入った具沢山のシチュー。そして、直径20cmは在る椎茸に似たきのこの傘の部分にシキン鳥の挽肉を詰めて焼いた物に、甘辛いソースをかけたきのこステーキとその付け合わせの舞茸ににたきのこだった。正にキノコ尽くしと言って良かった。
シチューはよく煮込まれた野菜が口の中でほろりとほどけ、少し塩味の効いたスープと合わさって絶妙なバランスを取っていた。
きのこパンは少し硬く味も薄く感じたが、周りを見てみると、パンをシチューに浸けて食べている人が殆どだったので真似てみると、染み込んだスープによって、柔らかくなり塩味の効いたスープによってパンの甘みが際立って美味しかった。刻んで練り込まれたきのこもコリコリとした食感でアクセントとなって良かった。
きのこステーキは、肉厚のきのことシキン鳥の肉に甘辛いソースが非常に合っていてメインの一品として十分な旨さだった。付け合わせの舞茸似のきのこも、ただ湯掻いただけだったが、素材そのままの旨みが、濃いめの味付けの物が多かった料理の箸休めの役割として丁度良かった。
きのこが殆どの料理だったが、十分に満足できた。きのこ亭の看板に嘘偽りなしと言った所か。
これだけの料理を作る料理人に会ってみたくなり、女将に聞いて見ると快く厨房に案内してくれた。その人は女将の旦那さんとの事だった。
「「コークス料理長!?」」
俺とフィーの声が綺麗に重なった。厨房から出て来た人物を見て出た言葉である。
「んん? コークスって兄者の事を知っているのか?」
どうやら、彼はコークス料理長の双子の弟で、名前はコープスと言うらしい。名前も紛らわしい・・・。
ん? ちょっとまって? たしか、コークス料理長の甥っ子のカープスが修行も兼ねて、働きに来ていたけどもしかして?
「おお、カープスは俺の息子だ。兄者の所に修行に出していたんだがもしかして知り合いか?」
いや、まあ、知り合いと言うか、雇い主の息子だったりするんだが、その辺は言わないでも良いかと、頷くだけにしておいた。
「そうか、兄者とカープスの奴は元気にしているのか?」
「そうですね、コークス料理長は元気すぎる位元気でしたし。息子さんの方も元気ですが、たまに、創作料理を作って、大失敗をやらかして、コークス料理長に叱られていますが・・・。」
「あー、やっぱりか、仕方の無いやつめ。」
コープスさんは、おれの言葉を聞くと苦笑を浮かべていたが、それでも元気にしている事が分かって安堵している様子だった。
しかし、世の中は狭い物だな、こんな所で横のつながりに出会うとはね。しかし、どうでも良い事かも知れないが、何て紛らわしい名前なんだろ。因みに、女将の名は、ミリナと言うらしい。こっちも紛らわしいな。
その後、コークス料理長や息子さんの近況を色々と話して、忙しい時間帯となって来た為、俺とフィーは部屋へと引き上げた。
そうそう、この部屋を取って一つ良かった事が有る、何とこの部屋には、浴室が付いていてお風呂に入れるのだ。この点についてはこの部屋を取ったフィーを褒めても良いだろう。因みに使用されている湯沸かしの魔道具はR&B工房製でした。
今回、フィーには変な事を画策した罰として、一緒に風呂に入る事を禁止している。もちろん普段一緒に入っている時は湯浴み着を着用してますよ?
罰を伝えた時のフィーは、生きる希望を失ったとでも言いたげな様子だったけど、罰だから仕方ないよね。
浴室へと入って気づいたけど、一人でお風呂に入るのって本当に暫くぶりだった。必ずと言って良いほどフィーが突入してくるんだよね。
今回は、ゆっくりと一人湯を満喫・・ガチャ! 「リュシル様お背中をお流しします!」 出来ない様だった。
え~、フィーさんや一緒に風呂に入るの禁止って言ってあるのに何で入ってくるのかな?
「ですから、一緒にお風呂には入りません! お背中をお流しするだけです!」
あ~、そう解釈した訳か~。一緒に入室禁止にしておくべきだったか・・・。
結局、背中を流して貰った後も、浴槽の脇にじっと佇んでいるし。濡れた湯浴み着のままだと風邪をひくかもしれないからと、俺の方が折れる形となってしまった。
浴槽自体は、一人では広く、二人では微妙に狭い大きさで、フィーと背中合わせでピッタリくっついて入る形になってしまったよ。正面どうしだと膝を立てて座る形となり、フィーの湯浴み着の隙間から見えてはいけない物が見えてしまいそうだったし。フィーが抱っこする案も出て来たが、背中に色々と危険な物が押し当てられる形になるのでそれも却下した。背中合わせもかなり危険だが前の2案よりはましなのでこれで我慢する事となった。
「リュシル様のお顔が見えないのは残念ですが、これはこれで、リュシル様のお背中を感じる事が出来て安心します。」
などと、フィーが呟く物だから、気にしない様にしていた、背中の感触に意識が行ってしまい危うくのぼせる所だったよ。
そうして、お風呂から出たその後は、ベッドを誰が使うかで一悶着があった。「俺がソファーで寝るから」と言う言葉に、フィーが「主を差し置いてベッドで寝るなんてとんでもない」と返し、「それなら私がソファーで寝ます」と言い出し、「女の子をソファー何かで寝させられるか」と俺が猛反発し、「それじゃあやっぱり二人でベッドで寝るしか無いじゃないですか」とのフィーの言葉に、双方が納得するにはそれしか無いかと了承する俺だった。
・・・。あれ? 結局、フィーとベッドで寝る事になってないかな? あれ?
ベッドで横になる俺の隣にいそいそと入って来るフィー。あのーちょっと近すぎないですかね? 肩と肩が触れ合うのですけども? 「布団は一枚なんですから、くっついて寝ないと風邪をひきますよ?」
の正論に反論出来ねぇ。
お風呂上がりで、しっとりと濡れた黒髪をアップに纏めた事により、普段見えないフィーの白いうなじが妙に艶めかしく色々やばいです。後、なんでこっちを向いてじっと見つめてるの? あ~フィーの黒い瞳が綺麗だな~って、これじゃ眠れないって。全く何でこんな事になってる? まだ、成長途中で、こんな状態でも反応しない体で良かったよ・・・。ほんとに、フィーにはこまったも・・・、スヤァ、、、。
チュンチュン、どこかで小鳥が鳴いている。この世界にも雀に似た鳴き声の鳥っているんだね~。
はぁ、では現実を見ようか、何でこんな事になってんの?
俺は、すぐ横に目を向ける、そこには目と鼻の先に幸せそうな寝顔のフィーの顔がある。ちょっとでも頭を動かせば口付けでも出来そうな距離だ。そして、俺の体に抱き付くフィーの腕。俺の腕に柔らかい物が押し付けられてます。当ててんのよ処では有りません。
何でこんな事になってんの? こんな状態で、フィーが起きて目でも合ったら、どんな表情して良いのか分かんないよ。
何時もならフィーの方が先に起きてるのに、何で今日に限って・・・。
もう、これは、あれだ、フィーが起きるまで寝たふりするしか無いね。それにしても、フィーは柔らかいなぁ。
俺、耐えれるかな・・・。
目を瞑り待つこと暫し、フィーがもぞもぞと動く気配、あぁ、やっとで起きてくれたか。
俺の体の下から手をそっと引き抜いた事で、やっと一安心出来そうだ。
・・・あれ? その後、フィーが離れる気配がしない、二度寝しちゃった?
そんな事を考える俺だったが・・・。
「っ・・・!、ん・・・、くぅ・・・。」
衣擦れの音と共に、控えめに洩れ聞こえるフィーの声・・・、そして、俺の頬にかかる熱い吐息。
え・・・? フィーさんや何をしているのかな? ナニをやっているのかな?
「ふぅ・・・、んぅ・・・、いぃ・・・。」
わぁぁぁ! フィー本当に何やってんの~~~!
俺は内心でだらだらと汗を流して、今、俺が起きていると気付かれては不味いと、一生懸命寝たふりを続けた。
「ふぅっ! ・・・。」
そうして、フィーは、一瞬ビクリと体を震わせた後、辺りに静けさが戻って来る。
何かの余韻に浸るかの様に過ぎて行く時間。
今度こそフィーは何事も無かったかのように、俺の傍を離れ布団から抜け出すと、この部屋に備え付けられている浴室へと向かって行った様で、その扉が閉まる音が聞こえた。
俺はそこから更に数分程待ち目を開ける。部屋の中にフィーの姿が無い事に、ほっと安堵のため息を吐く。
フィーさんや、一体俺の横でナニをしていた!
いや、まあ、フィーも年頃の女の子だから、色々とそんな事に興味を持ってもおかしくは無いと思うけど、思うけどね! それでも、俺の寝てる横でやんなくても良いと思うんですけど?
「あ、おはようございます、リュシル様。もう、起きてらしたんですね。すぐに、お着替えを用意いたしますね。」
浴室から出て来たフィーは、俺が起きている事に気付き朝の挨拶をしてくる。
「あ、ああ、おはようフィー。」
あんな事をした後なのに、何時もと変わらないフィーの様子に少し戸惑いながら返事を返す俺だった。
そんな俺を見て、どうしたのかしら? と小首を傾げるフィーであった。
読んで頂きありがとうございます。
フィーさんがちょっと暴走したようですね。




