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底辺召喚術師のシュウカツ事情  作者: なおさん
第1章
25/34

ある春の日の幻

今回のお話は本編とは直接関係ありません。おまけ話です。

時間軸も少し先の話になります。


この物語は異世界のお話です、現実の物理法則とは違う法則で動いております。

その辺を留意してお読みください。




それは、年が明けたある日の事。


ここクロノーツ領にある領都では、この領を含む周辺にある五つの領の領主が集まり、新年の祝いのパーティーが開かれ様としていた。

以前はそれぞれの領で行われていたこのパーティーなのだが、それでは効率も悪く、毎年の負担も大きくなると言うことで、順番に開催する事になり、そうして今年の担当は、クロノーツ領となり、他の領から続々と招待されたお客様が集まって来ていた。

領主館では、慌ただしく準備が進み、開催時間が刻一刻と迫って来ていた。そんな中この一室でも恐らく夜のパーティーへ着て行くための服を選んでいるであろう、3人の人物がいた。


「姉さん、こっちの方が似合うんじゃ無いかしら?」


「え~そうかしら? こっちのが可愛いと思うんだけど。」


そんな風にあ~でもない、こ~でもないと話し合いながら服をとっかえひっかえしていく。


その二人の前で、着せ替え人形の様に、服を着せ変えられている三人目の人物、リュシルはげんなりとした顔でその二人に成すがままとなっており。早く終わって欲しい、そんな顔をしていた。


「よし、これで完成ね。」


「きゃー、良いんじゃない? 中々可愛いわよ~。」


そう言って、姿見の前にリュシルを立たせる二人。そこには、白を基調とした、足元まで覆う様なドレスを纏った8歳ぐらいの子供が写っていた。子供が着るには少し大人っぽいデザインだったが、少し背伸びをして着てみました、と言った様子で逆に可愛らしさが引き立てられていた。


だが、そんな当人はそれ所ではない様子。体に巻かれたコルセットにきつく締め付けられ、呼吸もままならないのだった。


「も・う・・、まんぞく・した・・?」


苦しさの余り涙目となり、その潤んだ目で伺う様に二人を見上げ、言葉を零すリュシル。


「「っ!?」」


その様子に、はっと息を飲む二人。


「っく、なんて破壊力なのかしら。女の私から見てもぐっと来てしまったわ、思わずお持ち帰りする所だったわよ。」


上の姉レティシアのその言葉に、同意するかのようにコクコクと頷く下の姉マリーであった。


その時、何か良い事でも思いついたかの様にぱっと顔を輝かせるレティシア。


だが、レティシアがこの様な顔をした時は、ろくでもない事を言い出す事を知っていたリュシルの顔は青ざめていた。


「そうだ、リュシル、今日のパーティーにその恰好で出なさい。きっと面白い事になるわよ~」


レティシアのその声に、絶望の表情を見せ。その次の瞬間には。


「そ・んなの・・・、いやだーー!」


そう、叫んで部屋を飛び出したのだった・・・。




** その頃のおフィーさん **


「副料理長、こちら、野菜の皮むき全部終わりました。」


「え? もう終わったの? はや!」


「じゃ、じゃあ、フィーリアさん次は、肉の切り分けお願いできるかしら?」


「はい、分かりました。」


”リュシル様、今頃どうしてるかな・・・。レティシア様とマリー様に衣裳部屋で無理やりドレスを着せられて、その恰好でパーティーに出ろとか言われて、部屋を飛び出したりしていなければ良いのですけど・・・。”



                  *



姉達から逃げ出したリュシルは、足に纏わり付く履き慣れないスカートに、足を縺れさせ転びそうになりながら、何処かに隠れる所は無いかと廊下を走っていた。


そうして、廊下の角を一つ曲がり、更に次の角を曲がろうとした所で、その角から出て来た人物にぶつかりそうになり。咄嗟に躱そうとするが、足に纏わり付いたスカートによりバランスを崩し、その人物の方へ倒れ込んでしまった。


しかし、その人物は一瞬よろめきながらもサッとリュシルを支え体制を立て直した。


「おっと、危なかった。君、大丈夫? 怪我は無い?」


リュシルは、聞き覚えのあるその声に、顔を輝かせると顔をあげその人物を見る。そこに居たのは、リュシルの弟のアーベルであった。


その弟は、何故かリュシルを見て、頬を染めていたのだが・・・。


「ア・・・、た・すけて・・・。」


コルセットで締め付けられ、更に走った事により上気した息で、目を潤ませ、縋る様に言葉を零すリュシル。


「あ、う、あ、きょ、今日のパーティーに、た、他のりょ、領から来られた方の、お、お嬢さんかな? も、もしかして、迷子にでも、な、なったのかな?」


その弟は耳まで赤く染めて、しどろもどろになっていた。弟に助けを求めただけなのに、何でそんな反応になるの? 疑問符を浮かべ首を傾げるリュシルであったが、今の自分の姿を思い出し、もしかして、自分の正体に気付いてない? そう思い。


「お・れだ・よ、リュ・シルだ・よ。」


何とか、声を絞り出すのだった。


「えっ!? 兄さんなの!?」


その言葉にやっと目の前の人物が誰なのかに気付いたアーベルは、驚きの声をあげていた。その声に、コクリと頷くリュシルであった。


「本当だ・・・、兄さんだ・・・。」


リュシルの顔をじっと見つめ呟くアーベル、やっと、分かってくれたと、笑顔を向けると何故か弟は兄と分かっているのに、頬を染めて目を泳がせていた。


「向こうの角から声が聞こえたわよ!」


「今の声はアルの声じゃない?」


そんな声が聞こえて来た。


その声にアーベルは、全てを悟ったのか、疲れた様なため息を吐いていた。そんなリュシルは弟の腕の中で怯える子犬の様になっていた。


「や~っと見つけたわよリュシル。私達から逃げられると思ってるの?」


「そうそう、逃げたら後がも~っと怖いわよ~?」


そう告げる姉達に、世界の終りの様な絶望の表情を浮かべるリュシルであった。


「んん? ちょっとまって、これは・・、ふむ、怯える姫君とそれを守る騎士って訳ね。」


アーベルとその彼に抱きよられているリュシルを見た、レティシアが何かを呟き始める。


何かを呟き始めたレティシアは、ろくな事を言わないと分かっているアーベルは、冷や汗を垂らしながら頬を引き攣らせていた。


「よし、 決めた! アル、貴方はリュシルのエスコート役として一緒にダンスパーティーに出なさい!」


その言葉にアーベルは目の前が真っ暗になり。その腕に抱かれたリュシルは顔面蒼白となり、魂が抜けかけていた。


「さ~、今から、大急ぎで準備するわよ~。リュシルの衣装もダンス向けに変えなきゃね!」


「アルの衣装もそれに合わせないとね!」


そう言いながら、リュシルとアーベルを引きずって行くレティシアとマリーであった。



** その頃のおフィーさん **


「フィーリアさん次はこっちをお願い。」


「はい、分かりましたっと、はい出来ました。」


「うっわ、相変わらず見事な細工飾りね。」


「後は、どうします?」


「これから、更に忙しくなるから、今のうちにご飯たべちゃってて。」


「はい、分かりました。」


”ふぅ、今頃リュシル様どうしているかな・・・。逃げ出した後、アーベル様に助けを求めるも、結局お二方に捕まって、アーベル様共々連れ戻されていたりして・・・。”



                *



「お母様お待たせしました。準備に手間取ってしまって。」


「女性の準備には時間がかかる物だけど、主催者側が遅れたら示しがつかないのよ? 今度からもう少し余裕をもって行動なさいね?」


「はい・・・、ごめんなさい。」


ギリギリの時間になって、主催者側の控室にやって来たレティシア達を、母のイレーヌが嗜める。


「まあ、いいわ、ところで後ろのその娘はどうしたの?」


アーベルの後ろに隠れる様にくっついている女のリュシルを目聡く見つけたイレーヌが問い掛けた。


「あ、その、この子すぐそこで迷子になってたみたいだったので、時間も無かったのでこっちに連れて来てしまいました。」


「あら、でも、親御さんが心配してるんじゃ無いかしら? メイドに言って直ぐに探させないと。」


そう言って、メイドを呼んで来ようとするイレーヌをレティシアは必死に止める


「あ、あの、この子すっごい人見知りみたいで、同じ位の私達となら何とか一緒に居られるんだけど、大人の人だと怯えて泣き出しちゃうのよ。」


「あら、そうなの?」


レティシアのその言葉にイレーヌが女のリュシルをじっと見ると、女のリュシルはその目線から逃れる様にアーベルの後ろに隠れてしまった。


「そ、それにこの子、アルには特に懐いている様だから、アルにエスコートさせて一緒に会場に行けば親の方が見つけてくれるかなと・・・。」


必死な様子のレティシアをじっと見つめると、イレーヌは肩を窄めた。


「まあ、いいわ、この子を一人にするのも不味いでしょうから。アーベル、しっかりこの子をエスコートするのよ?」


その言葉に、安堵の表情を浮かべるレティシア達だった。


「ところで、リュシルが居ないようだけど、どうしたのかしら?」


その言葉に、安堵の表情から一変、しまった! と言った表情になるレティシア達、どうやら、全くその事を考えていなかった様だ。


「さ、さあ? あの子も困った物ね、何処をほっつき歩いてるのかしら?」


その言葉に驚愕の表情になる女のリュシルであった。その表情は、あんたらの所為でこんな事になってるのに、本人は切り捨てるのか? そう言っているようであった。


「あ、あの、兄さんなら、体調がすぐれないから、部屋で休んでるって言ってました!」


必死で弁明してくれるアーベルをリュシルは潤んだ目で見つめていた。その目は、うおぉ、流石は俺の弟よ、後で、たっぷり頭なでなでしてやるからな~、っと言っている様だった。そんな、アーベルは、頬を赤く染めており、その表情は、ちょ、兄さん潤んだ目で見るの止めて! 変な気分になっちゃうから! と言っている様だった。


「あら、それは、大変ね、誰かに様子を見に行かせないと。」


「い、いえ、多分眠れば良くなるからと、暫く部屋に人を寄越さないでくれと言っていましたので、パーティーが終わったら、僕が様子を見て来ますので。」


もう、皆必死であった。


「そう? 仕方が無いわね。」


と、ため息を吐くイレーヌに、何とか誤魔化せたかな? と顔を見合わせるレティシア達だった。因みに末の妹のシルヴィは、テーブルの上に置かれているお菓子に夢中だった。


コンコンと扉をノックする音がして、扉が開かれ父のエルンストが入って来る。


「そろそろ時間だが皆準備は良いか?」


その言葉に安堵の表情を浮かべるレティシア達だったが。


「皆、後で私の部屋に来るように。」


イレーヌがすれ違いざまに囁く声に絶望の表情を浮かべるのだった。因みにリュシルが居ない事と女のリュシルが居る事に気付いたエルンストには、イレーヌが説明をしていた、その言葉を全く疑わないエルンストであった。



** その頃のおフィーさん **


「料理長、クリームシチューが出来ました、味を見てください。」


「おう、どれ・・・、ん~、このシチューはダンスの後の立食パーティーに出すから、もう一つまみ塩を追加しといてくれ。」


「はい、分かりました。」


「フィーリア、これから、お菓子作りに入るから、ちょっと手伝ってくれ。」


「はい、今行きます。」


”リュシル様、今頃どうしているのかな・・・。ドレスを着せられて、ばれないかとびくびくしながら、アーベル様の陰に隠れていても、結局イレーヌ様にばれて、後で部屋に来る様に言われてたりして・・・。”



                  *



会場へと入ると、そこには既に沢山の人が集まっていた、周りの五領の領主の家族やその家臣たち、更にその者達に招待された、他の領の者や、有力者達など様々だった。


主催者側家族が入って来た事により、皆がそちらに注目する中、エルンストの挨拶により、新年を祝うパーティーが開始される。


まず最初に行われるのは、成人前の子供達によるダンスパーティー。大人達もまずは子供達の踊りを見て、ほっこりしようと言う訳である。


そうして、大人たちが輪を作る様に壁際へと寄って行きスペースが空くと、子供達がそれぞれのパートナーを連れて集まって来る、一応、男の子が女の子をエスコートして集まって来る形になっていた。周りの大人達はそんなたどたどしい様子の子供達を見て、大いに相好を崩すのだった。


だが、そんな大人達の一部から、感嘆の声が上がる。そこには、堂に入った様子でパートナーをエスコートしながら歩くアーベルがいた。白を基調として銀で縁取られた礼服姿、その姿は正に王子様と言われても遜色が無かった。そんな様子を見た女性陣は相手が子供にも拘らず頬を染めうっとりとしてしまう程だった。


そうして更に、その後ろをアーベルに手を引かれながら少し恥ずかし気に歩く女のリュシルを見て、男性陣だけで無く女性陣までもが頬を染め、なんて愛らしいんだと感嘆の声を上げた、その声を聞いて更に恥ずかしくなり、頬を染めどう返せば良いのか分からず、笑っておけば間違い無いかと微笑みを返した女のリュシルの様子に、可愛い物大好きな女性陣の一部が卒倒仕掛ける事案が発生したほどだった。


そんな、女のリュシルは、薄い緑を基調としたふわりと広がるスカートのエプロンドレスを身にまとっていた、その背中には大きなリボン飾りが付いており、妖精の羽の様にも見えた。

この世界に存在しないはずのエプロンドレスが何故在るのか。それは、フィーリアが趣味で作った物を衣裳部屋に保管していたのだが、それをレティシア達が偶然? 発見してリュシルに着せたのだが、なぜかそのサイズは、リュシルにぴったりだったと言う。


そんな一騒動が有ったりもしたが、気を取り直した奏者が演奏を開始した事により、子供達のお遊戯会、げふん、ダンスパーティーが始まるのだった。


思い思いに踊る子供達、演奏からずれたり、回った拍子にパートナーを見失って、あれ?っと首を傾げていたり、バランスを崩して尻餅をついたり、中にはたどたどしいながらも、演奏に合わせて踊れているこどもたちもいたり、そんな様子に頬を緩めてほっこりする大人達であったが、その一角でまたもや歓声があがる。


そこでは、アーベルと女のリュシルが演奏に合わせ踊っているのだが、その踊りは完璧なまでに演奏と調和し、しかも、大人たちが普段踊る様なただくるくる回る様な物とも違い、会場を右に左にと動き回り、時には飛び上がり、また、アーベルの手により高く持ち上げられたり、そのまま空へと投げ上げられくるくる回りながら着地したりと、実に躍動感に溢れた踊りであった。


いつしか、周りの大人達や他の踊って居た子供達も踊りをやめ、二人の踊りに見入っていた・・・。って、あーー! マスター何てことしてくれるのですか! 私は子供達のつたない踊りを見て、ほっこりしたかったのにーー! はっ! げふんげふん失礼。


回りながら宙を舞うマス、げふん、女のリュシルは、その背中にある大きな飾りリボンがひらひらと舞いまるで妖精が空を舞っていると錯覚するほどだった。さらに、ふわりと広がるスカートは、見えそうで見えない位置をキープしており、一種妖艶さも醸し出していた。


そうして、全ての演奏の終わりに合わせ、アーベルと女のリュシルが手を取り合い、アーベルは右手を胸にあて、女のリュシルは左手でスカートの端をを持ち上げ礼をした所で、会場は静まり返った。


その様子に、何か失敗したのかな? そう思い顔をあげた瞬間、わっと歓声が上がると同時に割れんばかりの拍手が鳴り響いた。警備をしていた者が何事かと様子を見に来るほどだったのだ。もちろん、可愛い物大好き一部の女性陣が興奮のあまり意識を失うと言う事案が発生していたりもしたのだが・・・。


当の本人は余りの会場内の興奮に気おされてしまい、逃げる様にして会場を後にするのだった。


その後、一緒に出て来た開催主である、エルンストに人々が詰め寄せ、あの娘は何処の誰なのかと質問攻めに合うのだが、迷子になっていた子共としか知らないエルンストは答える事が出来ず困り果てるのだった。

なぜ、エルンストにのみ質問が集中したのかというと、騒ぎになる事を見越して、イレーヌ達はこっそりと退場して控室へと戻っていたからである。可哀相なエルンストパパであった。


そうして、会場に来ていた人々は、あの娘は本当の妖精だったのでは? と、真しやかに噂するのだった。



** その頃のおフィーさん **


「料理長、ミルクレープのリフィルの実クリームバージョン出来ました。」


「む、よし、O.Kだ、お~いだれかこれを会場に持っていってくれ!」


「は~い、私がいってきま~す。」


「よし、フィーリアは少し休憩していてくれ。」


「はい、分かりました。」


”リュシル様は今頃どうしているのでしょう・・・。子供達のダンスパーティーで張り切りすぎて、恥ずかしくなって会場から逃げ出していなければ良いのですが・・・。”


「ねぇ、ねぇ、聞いた? なんでも、ダンスパーティーの会場に妖精が出たんだって。」


「え? それ、本当なの? あ~私も会場の方の担当になれば見れたかもしれないのに~。」


「ふっふっふ、それなら、主催者側の控室に行って見なさい良い物が見れるから・・・。」


”ふむ、他の休憩をしていたメイド達が小声で妖精がどうのと話していたようですが、私には天使リュシル様が居るのですから、今更、妖精など見れても仕方が無いですね・・・。まあ、でも、リュシル様が妖精の格好をしているのなら、何を置いてもお持ち帰りするのですが・・・。”


残念、肝心な所を逃してしまったおフィーさんでした。



                 *



新年のパーティーが終わり、イレーヌの部屋へ呼び出された、リュシル、レティシア、マリーの3人。何故、アーベルは呼び出されていないのかと言うと、彼は被害者と言う事で、今回は免除されたのだ。それなら、一番の被害者であるリュシルがなぜ呼び出されているのかと言うと・・・。


「母様、足が痛いのですけど・・・。」


「私は足がしびれて、足の感覚が・・・。」


イレーヌの目の前の床で、足が痛い、しびれると訴えるレティシアとマリー。


「当たり前です、これは罰なのですから、きつく無くてどうするのですか。」


そんな二人を一刀のもとに伏すイレーヌであった。


そんなイレーヌは、リュシルを抱っこして至極ご満悦の様子だ。


「あの~、母さん? なんで僕だけこんな事になっているのでしょう?」


イレーヌにぎゅっと抱き締められ、頭をなでなでされながら困惑の表情を浮かべるリュシルであった。


「これは、ご褒美なのよ。普段頑張っている私に対する神様からのプレゼントなのよ。」


「いや、どうせ抱っこするなら、妹のシルヴィの方が、小さい分抱っこしやすいのでは?」


ご褒美云々は兎も角として、どうせ抱っこするなら妹の方が抱っこしやすいのでは無いか、そんな風に思い口に出した言葉だったが。


「だって、シルヴィってば、抱っこし過ぎて、私が近づくと一定の距離を置くんだもん。」


その言葉に、どんだけ、抱っこしまくったの? と呆れ顔の3人である。


「それにしても何故僕なのです? しかも今日急になんて。」


「だって、抱っこが出来なくて、悶々としている所に、こんな愛らしくなった、息子が現れたら、思わず抱っこしちゃうじゃない?」


そう言い切るイレーヌの顔は、愛らしくなった息子が悪いのよ? と言っている様だった。


そんなイレーヌにリュシルは、好きでこんな格好している訳じゃ無いんだけどと、その元凶を作った二人へとジト目を向けた、そんな二人はそっと目を逸らすのだった。


「ところで、リュシルちゃん? 貴方何だか抱っこされ慣れて無い? しかも、何だか頭も撫でられ慣れているみたいだし。」


突然のイレーヌの言葉に抱っこされ慣れるって何なの? と首をかしげるレティシアとマリーの二人だった。しかし、当の本人は、物凄く動揺していた。


「な、何を言ってるのか、わ、分から無いよ母さん?」


そう言って目を泳がすリュシルを見て、分かりやす! 3人が3人共共通の感想を思い浮かべるのだった。そう、リュシルはかなりの頻度でギルドに通い、そこの受付嬢に抱かれると言う行為を繰り返している・・・。”わーわーちょっとまってー、言い方おかしいから! 抱かれるじゃ無くて抱っこされるだから、そこんとこ間違えると大変な事になるから!” ちょっと、マスター、ナレーション中に割り込まないで下さいよ。全く、どっちでも同じだと思うんですけど・・・。”いや、全然違うから!” はいはい分かりましたよ。コホン、そこの受付嬢に抱っこされると言う行為を繰り返している内に、抱っこされマスターの称号を手にしていたのだった。”え・・・、何でその称号持ってるの知ってるの・・・?” おや、適当に言ったら当たってましたか。”・・・。” 


そうして、墓穴を掘りつつも、イレーヌに抱っこされ、頭をなでなでされ続けるのだった。



** その頃のおフィーさん **


「料理長、こちら片づけが終わりました。」


「お、そうか、ご苦労さん、後はこっちでやっとくから、フィーリアはもう上がって良いぞ。」


「そうですか、それではお先に失礼しますね。お疲れさまでした。」


「おう、お疲れさん。」


”早くリュシル様の元へ行かねば! リュシル様分が不足しております!”


「あ、ちょっと、フィーリアさん、さっき聞いたんだけど、リュシル様体調を崩されたみたいで自室で休まれてるらしいのよ。」


「な、な、なんですって! そ、それは、本当ですか!」


「わ、ちょ、私も人伝に聞いただけだから。」


「分かりました、直ぐに確認に行って来ます。」


”何てことでしょう、私が厨房のお手伝いをやってる間にそんな事になっていたとは! 従者失格です、待っていてくださいリュシル様、今貴方のフィーが向かいますからねーーー。”



                  *




** ここからはリュシル視点になります **


「あ~やっと解放された―。」


母さんから解放された俺は、部屋へ戻って来ると安堵のため息を吐いた。


「あ・・・、しまったな、服を着替えるの忘れてたな。」


疲れ切っていた俺は、エプロンドレスのまま、部屋へと戻って来てしまった。元の服は衣装部屋に置きっぱなしになっているはずだ。


「ああ、もう明日で良いか、今日は疲れたから、ドレスだけ脱いでそのまま寝るか。」


そう呟くと、俺はエプロンドレスを脱ぎ始める、何とか四苦八苦しながら脱ぎ終わると、下着姿のままベッドに這い上がった。と、その時。


「リュシル様! お加減はどうですか!」


勢いよく扉を開きフィーが部屋の入り口から声をかけて来た。


「っ!?」


何故かフィーは言葉を詰まらせ、驚いた様に少し仰け反っていた。


あ! フィー危ない! 俺が声をかけようとするが間に合わなかった。勢いよく開いた扉が、勢いよく戻って来たのだ。そして、丁度仰け反っていたフィーの後頭部にその扉が・・・。


ガン!


と、言う大きな音と共に、フィーが扉に打倒され更に。


ゴン、


と言う音と共に床に額をぶつけて、動かなくなっていた。


「フィー!?」


俺は慌てて、フィーに駆け寄り、彼女を抱き起こした。そうして、彼女の後頭部に触れると大きなたん瘤が出来ていた。そして、額にも赤い痣が出来ていた。


そのままフィーを抱きかかえると、俺のベッドへとそっと寝かせ、魔力で覆って保護して、痛覚を遮断しようとするが、前と後ろの二か所に傷がある為、どうせならと頭全体を魔力で覆って保護しておいた。


そのまま、暫く様子を見ていると。小さなうめき声と共に目を開け、そして、がばっと、上半身を起こしたのだった。


うわ、びっくりした、フィー急に起き上がったけど、大丈夫なのかな? 俺はフィーに近づき様子を見ようとするが、俺を見たフィーは目を見開くと。


「て・・。」


て?


「てん・・。」


点?


「天使が居る!」


うわ!びっくりした! 急に叫ぶから、思わず仰け反って尻餅を付いちゃったよ。


「これは、夢?」


何事か呟いた後、フィーはそのほっぺを抓り。そして、残念そうな表情をした。


「痛くない・・・、やっぱり夢なのですね。」


そう呟くのだった。あ~はい、フィーさんやさっき魔力で顔を保護したから、痛覚が遮断されてて、つねっても痛みを感じないはずです。


「夢・・・ならば、何をしてもいい筈です、こうなったら、夢が覚めるまでたっぷり楽しまねば!」


そういって、俺にフィーがにじり寄って来る。え? ちょ、フィーさん落ち着いて? 俺は怖くなりじりじりと下がり、それに合わせてフィーも更ににじり寄って来た。


!? しまった。逃げ道がない! ベッドの縁まで追い詰められた俺は如何しようかと迷い、一か八かフィーの脇をすり抜ける強硬手段に出た。


しかし・・・、あっさりと、フィーに捕まってしまった。すり抜ける瞬間、フィーに後ろから抱きかかえられるように捕まり。そして、現在文字通り抱っこされている状態である。俺が逃げられない様に前に回した両手でしっかりと抱かえられ、動く事さえ出来なくなっていた。うわ、フィーさん手に魔力強化使ってるよ・・・。絶対逃がさないつもりだな。


仕方が無いフィーにこれは夢じゃ無いと告げようとした所で。


「うふふふ、うふふふふ。」


と、フィーの機嫌よさげな声が聞こえて来た。そっと、フィーを見て見ると、その顔は物凄く機嫌よさそうな表情をしていた。


それを見た俺は、今日ぐらいは、まあ、良いかと抵抗するのを止めた。


まあ、フィーがこれが夢だと思ってるのなら、そのまま夢と思ってて貰おう。その内疲れて眠ってしまったら、そっと抜け出して、俺は、ソファーででも寝れば良いさ。


その後フィーは、ベッドの上に俺を抱っこしたまま横になり、更に機嫌良さそうに鼻歌を歌い始め・・・。そうして、暫くすると、すぅすぅと可愛い寝息を立て始めた。俺はそのまま、暫く様子を見ると、そろそろ深く寝たころかなとフィーの腕からそっと抜け出そうとするが。!? 何だと! 寝ながら魔力強化を使っているだと! 俺でもそんな器用な事出来ないのに・・・。なんて事だ、いや、慌てるんじゃ無い、魔力強化を使ってるんだから、その内魔力が切れて、解除されるはずだそれまで待つんだ! 


駄目でした・・・。なんと寝ながら魔力強化を使う事によって、消費量より回復量が上回り強化がきれませんでした。


あ~、どうしよう、このまま脱出が出来なければ・・・すや~。




「リュシル様、朝ですよ、起きて下さい。」


俺を呼ぶ優し気な声で目を覚ます。


そうして、昨日の事を思い出しがばっと起き上がる・・・。


あれ? 何時もの寝間着だ・・・。ん? あれはもしかして全部夢だったのか? フィーの様子もおかしな所は無いし、うん、きっと夢だったんだ、俺がエプロンドレスを着せられて、人前で踊らされたのも夢だったんだ、あ~良かった~。


夢では有りませんでした・・・。昨日の話題で持ちきりでした。なんか妖精にされていました。はずかしい・・・。







おまけ


** やっちまったぜ、おフィーさん **


私の名前はフィーリア、敬愛する我が主リュシル様の従者をしている。


私の一日の仕事は、リュシル様を起こす事から始まる。


今日も日が昇る前の薄暗い時間に起き、手早く身支度を済ませ、リュシル様の傍らに立ち、時間になったら起こす事になるだろう。


起きる前、最後に私手製のリュシル様抱き枕をぎゅっとして起きようとした。


「ん・・、んん・・。」


え? ちょっと待って下さい。何で抱き枕から声がするのですか? それに何時もの抱き枕より、抱き心地が良い様な、そう、本物を抱っこした時の様な抱き心地が・・・。


私はまさかね? と思いながら、恐る恐る抱き締めている物に目を向けた。


!? あわわ、ほ、本物のリュシル様!? な、なんで、リュシル様が私のベッドに? そう思って周りをよく見ると、こ、ここは、リュシル様の部屋!? 


な、なんで、こんな事に、そうして、私は昨夜の出来事を思い出すのだった。


そんな・・・、あれは夢では無くて、全部本当の事だったのですか! なんてもったいない事を夢で無いと判って居れば、もっといろいろやっていたのに・・・。 は! 違うそうじゃ無くて、なんとか誤魔化さねば。 そう思い、ものすご~く名残り惜しいのですが、リュシル様を起こさない様にそっとベッドを出たのだった。


ベッドを出て、眠っているリュシル様を見て、!? 天使がいる! は! リュシル様でしたか、しかし・・・、リュシル様のこのお姿、私を誘っているに違いありません! ならば、このまま・・・、ちがう! 誘惑に負けるな私。


なんとか、リュシル様を普段の寝間着に着替えさせると、既に日は上り、リュシル様を起こす時間になっていた。


さあ、とにかく、知らんぷりをして、何も無かった事にしなければ!


「リュシル様、朝ですよ、起きて下さい。」


そうして、私の一日が始まるのであった。









読んで頂きありがとうございます。

新年用に書いてたお話ですが、投稿が大分遅くなってしまいました。

まさか、文字数がこんな事になるとは・・・。

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