弟を助けて見る
この物語は異世界のお話です、現実の物理法則とは違う法則で動いております。
その辺を留意してお読みください。
その後は大きな問題も無く日々が過ぎて行った。神楽が賊の話を聞いてスウィープ100体を警備の為に孤児院に配置しようとしたりだとか、緊急時に孤児院を丸ごと地下に格納する為の地下シェルターを作ろうとしたりだとか、暴走したマルティナさんが私とフィーリアちゃんとネリーの為に種を寄越しなさいと言って襲い掛かってきたりだとか、夏の暑い時期に神楽が暑い時にはプールよ!とか言ってカグラの甲板上に簡易プールを作ってそこでフィーを使って水着ファッションショーを披露して俺を貧血にさせたりとか、フィーの下着が日々際どくなって行きその魅せ方も非常に洗練されて行ったりと、ああ、うん殆ど神楽がらみだね・・・。
そう言った事も有ったが、特に大きな問題も無く、1年以上が過ぎていた季節も秋となり気温も涼しさを感じる様になっていた。
敢えて何か有ったとするなら、弟のアル(アーベル)が5歳となりギフトを授かったのだが、その授かったギフトが騎士と言うレアな物だったのだ、そのギフトにアルは大喜びをし、そして、俺のギフトの事を好まなかった一部の家臣がアルを煽てて、アルこそが次の領主に相応しいと派閥を作ってしまった事か、それによってアルは増長してしまい午前中の座学や鍛錬をサボる様になってしまったのだ、俺への態度も最悪と言う状態にまでなっていた。まあ、俺自身は特に気にしていなかったんだけどね、フィーの方が憤慨してしまい宥めるのに一苦労したものだった。あれ? なんでだろう、結構大事のはずなのに普通の事に思えちゃってる。
今日も座学と鍛錬をさぼり、アル付きメイドのマーサを連れて街へ出掛けてしまったのだ、そんな時に、あの事件が起こったのだ。
「なんだと! 魔物の森の入り口周辺にワイバーンが出ただって!」
屋敷の入り口のホールから父さんの大きな声が聞こえて来た、丁度出掛けようとしていた父さんに、東門の警備兵が緊急の報告があると駆け込んで来た為、その場でその報告を聞いていたようだった。
ワイバーンは本来魔物の森の奥にある、山の中腹に生息していて、街の近くまで来ることは無いのだが、たまに、縄張り争いに負けた個体が餌場を求めてやって来ることがあるらしい。
ワイバーン自体は魔物ランクとしてはDランクのバランスの取れたパーティーで倒せる強さだがソロで倒すとなるとCランク以上の腕前が必要となる。それに、他の魔物と違い空を飛べる為それを何とか出来ないと倒すのが難しい魔物でもある。
そんなワイバーンが街の近くに現れたとなると、急いで討伐を行う必要が出て来る、もし街が襲われでもしたら大惨事になってしまうからだ。
「父さん、何か有ったのですか? 大きな声を出してましたが。」
「リュシルか、すまんな、どうやら、街の近くにワイバーンが現れたらしい、私は直ぐにギルドへ向かい討伐隊を編成して、討伐に向かう、お前たちは決して外に出ないようにな。っと、そう言えばアーベルは何処に行ったんだ? 朝から見かけないが?」
「朝からマーサを連れて街へ出かけられた様ですが・・・。」
近くにいた執事が答えると、父さんはまたかと眉を顰めるのだった。
「アーベル様でしたら、此方へ向かう途中で見かけました。急いでいる理由を問われたのでワイバーンの事と東門が閉鎖されている事を伝えて決して街の外に出ない様に注意をしましたので、恐らくまだ町中に居るかと・・・。」
この警備兵とは何度が屋敷で顔を合わせていたから、アルの事を知っていた様だ。警備兵の話を聞いて俺は嫌な予感がした、以前アルと家臣の一人が話しているのを聞いたのだが、その家臣がアルならワイバーンも簡単に倒せると煽てており、アルも自分なら余裕だと豪語していたのを聞いていたからだ、このタイミングでワイバーンの話が出たとなると、アルが討伐に向かおうとしてもおかしくは無かったからだ。
その事を告げると、父さんは青い顔をしていた。
「父さん、東門は閉鎖されていてアルの様な子供が外に出るのは止められるはずです、そうなると、北門へ向かった可能性があります。北門にはワイバーンの件は?」
俺は自分の考えを父さんに告げ、報告に来ていた警備兵に北門への通達はしたのか確認してみる。
「いえ、北門へは自分がこのまま向かうつもりでいましたのでまだ伝わっては居ないはずです。アーベル様にも同じ様な事を聞かれましたが・・・。」
その兵士の言葉に俺は直ぐに行動を開始する。
「父さん! 北門へは僕とフィーが向かいます、途中でアルを捕まえれれば良いのですが、捕まらなくてもそのまま北門までいって、ワイバーンの件を北門の守備隊の人に伝えておきます。父さんは直ぐにギルドへ向かって討伐隊の編成をお願いします。」
「あ、ああ、分かった、そちらの事はリュシルに任せる、そうだ、手紙を渡すからそれを警備隊へ渡してくれ。」
俺の言葉に父さんは気を取り直すと、直ぐに手紙をしたためて俺に手渡した、警備隊への指示を書いた物だろう、流石に子供の俺では信じて貰えない可能性が有ったからだろう。手紙の入った封書を受け取ると俺とフィーは屋敷を飛び出して行った。
北門への道は、王都方面への通りの為人通りが多く、思う様にスピードが出せなかったが、それでも、小回りの利かない馬よりは、早く到着出来るだろう。
俺とフィーも魔力感知を使いアル達がいないか確認しながら進んで行った、だが、北門が見えて来てもアル達は見付からなかった。
北門へと到着し、そのまま警備兵の詰め所へと向かう入り口に立っていた警備兵へ緊急事態を伝えて父さんの封書を渡す、最初は子共な俺達を見て、何かのごっこ遊びかと緩んだ表情をしていた兵士も父さんの封書の緊急を示す封蝋をみて、態度を正すと直ぐに隊長に封書を渡してくるからここで待っていてくれと言われた、う~ん俺としては直ぐにでも入出管理所でアルの事を確認したいのだが、そうもいかないか。
警備兵が建物へと入って暫く待っていると、慌ただしく先程の警備兵と共に若干装備が良さげな警備兵がやって来た、北門の警備隊を預かる隊長の様だった。
「おお、これはリュシル様緊急事態との事ですがいったいどの様な事でしょうか?」
どうやら、この隊長は俺の事を知っていた様で、確かに何度か見た顔ではあったが、はて? 父さんからの手紙を渡したはずなんだけど、その手に持っているのがその手紙だと思うんだけど・・・?
「その手紙に書かれている内容に従って貰えれば良いかと・・・?」
「ええ、ですので、指示をお願いします。」
そう言うとその警備隊長は父さんからの手紙を俺に見せてくれた。そこには、”この手紙を持って来た子供は俺の息子だから指示に従ってくれよろしく。”と、そう書かれていた、と、父さん・・・、いや、まあ、たしかにあの短時間で内容を認めるのは難しかったんだろうけど・・・。俺は盛大なため息をついてしまった。
仕方なく俺は状況を説明した、その説明を聞いた警備兵は顔を青褪めさせていた、隊長は流石と言うか落ちつた物だったが、状況を伝え終わった俺はもういいだろうとアルの事を確認する為に入出管理所へと向かおうとするが、隊長も一緒に行った方がスムーズに話が進むだろうと言う事で一緒に行く事になった。
隊長はもう一人の警備兵に手早く支持を出すと、俺達と共に入出管理所へと向かった。そうして、確認したところ、やはり、アルとマーサと思しき二人が北門から出て行った事が分かった、およそ1時間半程まえの事らしい、更に門の所にいた警備兵からその二人が、街道から外れ東の方へ向かった事も判った。
「やはり、予想が当たってしまったか・・・。」
「リュシル様どう致しましょう?」
俺の呟きにフィーがどうするか尋ねて来る、父さんからは街から出るなと言われているが、俺とフィーの足なら今から追えばギリギリ間に合うかも知れない。
「今からなら、ぎりぎり間に合うかもしれない。直ぐに追うぞ。」
その言葉にフィーはコクリと頷いた。そこで俺は隊長に父さんへの伝言を頼んだ、アルが魔物の森へと向かってしまった事、それを俺達が追いかける事、討伐隊の中で直ぐに動けるものがいるなら、先遣隊として向かわせて欲しい事などを頼むと、北門を出て魔力強化を発動し、東にある魔物の森へと駆け出した。その場には、あっと言う間に見えなくなった俺達を唖然とした表情で見送る隊長と警備兵がいた。
魔物の森へ向かって30分程、魔物の森の入り口が見えて来た、残念ながらこれまでの道のりでアル達を見つけられなかった。そのまま、川に架かる大きな橋を渡ると魔物の森の入り口の少し開けた場所へと到着する。ここで一旦立ち止まる、フィーを見るとかなり息が乱れていた、フィーに合わせていたつもりだったが、焦りで少し早くなっていたか・・・。
「フィーは少し休んでいろ。」
そう言うと、広場の近くにある枯れた巨木へと駆け上がった。森を見渡すが、ワイバーンの飛んでいる姿は見られなかった、そこで俺は目を閉じ集中すると魔力感知を発動させた。
俺は集中して、いつも触れていたアルの魔力を探して行く、見つけた! もう一つ重なる様にあるのはマーサか、!? 近くに一際大きな魔力の塊がある、普段この辺りで感じた事の無い魔力きっとこれがワイバーンか。まずい、既にアル達はワイバーンに遭遇してしまっている。
「フィー! 見つけた、北北東に400、既に接触している、俺は全力で向かうから、フィーは後から追ってきてくれ!」
俺は素早く支持をすると、強化を限界まで上げ森の中へ突っ込んだ、直線で400m強化を使えば大した距離では無いが森の中では木々が邪魔をして思う様に進めない、だが、そんな事は関係ないと、邪魔をする枝や細い木々を薙ぎ払ってほぼ直線で進んでいった。
見えた! 俺の目の先には、少し開けた場所で、マーサを庇う様に覆いかぶさるアルと、その二人に対峙して、大きく息を吸い込むワイバーンがいた。やばい、あれはブレスか!
間に合え! 俺は森を抜けると同時に地面を勢い良く蹴って、ワイバーンの顔の側面へと飛び蹴りを食らわせた。
その蹴りは、ブレスを吐き出そうと大きく口を開いたワイバーンの顔の側面へと命中し、それによりワイバーンは、あらぬ方向へとブレスを吐き出していた。
「俺の弟に何してくれてんだ! 殺すぞ!」
そう言って、アル達の前に立ち、ワイバーンを睨みつける、その先には毒々しい色をしたブレスを受けた木々がしゅうしゅうと音を立てて枯れて行っていた。うげ、毒のブレスか厄介な。
ワイバーンは頭を蹴られた影響で、眩暈を起こしたのか頭を左右に振っていた。今のうちに逃げれれば良いんだけど、そう思いアルとマーサをちらりと見る。
「二人とも無事か! すぐに動けそうか!」
そう声をかけるが。
「僕は大丈夫です、でも、マーサが足を挫いてしまって。」
ちっ、そう旨くは行かないか。
「兄さんごめんなさい、でも、どうして?」
「話は後だ、父さん達も討伐隊を率いてこちらへ向かってるはずだ、何とかそれまで凌ぐんだ!」
アルが、なぜ助けに来たのか? そんな事を聞こうとしてくるが今はそれどころではない。その時、俺が飛び出して来た方の茂みが揺れる。そこから飛び出して来た人物を横目に捉え、俺は頬を緩める。
「リュシル様お待たせしました!」
「いいや、丁度良いタイミングだ。」
俺とフィーそしてアルの3人で相手すれば、父さん達が来るまでなんとか凌げる、最悪フィーがマーサを抱えて俺が殿を務めれば撤退戦も可能だろう、そう思った矢先。
背後の茂みが幾つもガサガサと揺れ、複数の唸り声が聞こえて来る。
「リュシル様・・・、 フォレストウルフです。数は、20・・・、囲まれています。」
フィーの絞り出すかの様な声が聞こえて来たのだった。
フォレストウルフ、それ自体は大型の狼程度でそれ程強くは無い、こいつの厄介なのは群れで連携して狩りをする事だろう。
恐らく、ワイバーンと俺達の戦いでこちらの人数が増えた事によりお零れが貰えるかも知れないと、もしかしたら漁夫の利を狙えるかもしれないとやって来たのだろう。
そうこうしている内にワイバーンの方も眩暈が直ったのか、憎々し気な目で俺を睨み唸り声をあげていた。万事休すか・・・。
アルとマーサはもうだめだと絶望の表情を浮かべていた。そしてフィーは何かを覚悟するかのような表情をしていた・・・。
「あの、リュシル様、ここは私が・・・。」
「却下だ!」
フィーの言いたい事なんて分かっている、彼女がワイバーンを引き付けている間に、逃げろと言うのだろう。確かに俺ならフォレストウルフ20匹位なら何とか防いで、アルとマーサを連れて逃げれるだろう。だが、それでは意味がないだろが!
「ここは、俺が一人でワイバーンを抑える、フィーはフォレストウルフから二人をを守れ。」
「でも、リュシル様!」
「父さん達がもう直ぐ来る、それまで凌ぎ切ってやる。」
そう言って、俺はワイバーンへ向かって駆け出す。フィーは俺の後を追おうとしたが、怯えきっているアルとマーサを残して行けば、フォレストウルフの格好の獲物となってしまう、それだけは避けねばならなかった、だから、フィーは動けなかった。
俺は左右にステップを踏みながら時にはフェイントも混ぜワイバーンへと迫る、どうやら、スピードは俺の方が上で、奴は俺を目で追いきれないでいるみたいだった、これならいけるか? 後は攻撃が通るかだけど、俺はフェイントをかけ、ワイバーンの注意が逸れた一瞬の隙を突き奴の懐に入りその羽の根元肩口へとへ剣を叩きこむ。羽の根元の部分で稼働部分の為皮膚が薄いと踏んだのだが。
ガギッ!
そんな音と共に俺の一撃はワイバーンの硬い皮膚にほんの少し傷を付けただけだった。まるで岩を斬りつけた様な衝撃に俺の腕は痺れ、そのため一瞬の隙が出来てしまった。
ゴウッ!
そんな音と共に目の前にワイバーンの尻尾が迫っていた。なんとか体を捻り直撃は免れるが、掠めた腕の皮膚が裂けそこから血がにじみ出ていた。
痛みに顔を顰めつつ、一旦距離を取り傷の状態を確認するが、どうやら動きに支障は無さそうだった。
ワイバーンを見ると奴も傷の様子を見ていた様だが、その顔は全く問題無いとでも言っている様にニヤリと笑った様に見えた。
やはり、俺の力ではワイバーンに大きな傷を付けるのは無理か・・・、スピードはなんとかなるが、当初の通り時間を稼いで父さん達が来るのを待つしか無いか、その為には一撃で良いから奴に傷を負わせて俺に対して、油断できない相手と思わせなければならないか。ふん、少し張り切って見るかなっと。
そうして、地面を蹴りフェイントをかけながら奴に近づいて行くそして奴の目をめがけて剣を振るう、相手もそんな事はお見通しとばかりに顔をずらし目への直撃を避けた、最小限に交わして懐に入られない様にする為だろう、俺の剣は側頭部へと当たり、面の皮はかなり分厚いのか微かな傷を付けるに留まった、そして奴の尻尾の攻撃、俺もそれは予測していた為、俺の足元を狙って来たそれを後方へステップしてして交わした。
そんな攻防を何度か続け、奴が体勢を崩した瞬間を見計らい大きく振りかぶって顔面に剣を叩き込んだ。奴もこの勢いの剣を頭に受けるのは不味いと大きく頭を振りその剣を躱す、それにより更に体勢を崩した隙を俺は逃さず懐に飛び込むと、羽の根元先程と同じ場所に寸分違わぬ一撃を入れた。
それにより更に深く傷を付ける事が出来た。よし、これなら後1~2回で皮膚を破れるかも知れない。そう思い一瞬気を緩めたのがいけなかった。ワイバーンは俺の力では皮膚を破れ無いと判断をして、その間に空気を吸い込みブレスの準備をしていたのだ。
斬りつけた後、尻尾の攻撃を警戒して後方へ飛びのいた所を狙われてしまった。それでもぎりぎり躱せるか? そんな刹那のタイミングだったが俺は動くことが出来なかった。ワイバーンと俺の射線上にフィー達3人がいたからだ。
ワイバーンの口から ゴォォ! と言う音と共に赤く灼熱した炎が吐き出される。そして、それを俺はまともに受け止めた。背後からはフィーの悲痛な叫び声が聞こえた。
ほんの数秒間だったが、俺にとっては数分間ぐらいに感じられた、そのブレスを吐き終わり、俺を見たワイバーンが首を傾げていた。本来ならそこには焼け焦げた俺の死体が横たわっているはずなのに、所々火傷を負ってはいるが、まだまだ元気そうな俺がいたからだ。
あっぶな! 咄嗟に体の周りに魔力を放出し続けたお陰でなんとか凌いだぞ。ワイバーンのブレスは体内の魔力を変換して発生させている、魔法の一種だと聞いた事が有ったから、同じ魔力で防げるんじゃ無いかと思ったんだが、効果覿面だった様だな。それでも完全に防げなくてあちこち火傷しちゃったけど。
そんな俺の様子を見て、フィーは安堵の表情を見せていたが、フィー後ろ後ろフォレストウルフが迫ってる、そんなフィーは跳びかかって来たフォレストウルフを振り向きざまに喉を切り裂き一撃の下に屠っていた。さすがフィーさん。
ワイバーンは何で生きているのか分からないそんな風に首を傾げていたが、俺が構えを取った事で意識を切り替え戦闘態勢に入った。それでも、俺の事を脅威と思ったのか直ぐには動かず俺達は睨み合い、次の瞬間ワイバーンは体を屈めると羽を広げ空へと飛び立った。空から攻撃するつもりなのだろ。
だが、飛び上がる瞬間は無防備にもなるのだ、恐らく焦りが出たのだろう、その隙を俺が逃す訳も無く、近くにあった大木を利用して高く跳ね上がるとワイバーンの更に上空へと飛び出す。そうして、今度こそと更に力を籠めて羽の根元へと剣を叩きつけた。しかし。
バキン!
と、嫌な音を立てて、剣が根元から折れてしまった。度重なるワイバーンへの剣撃と先程のブレスで限界を迎えてしまった様だ。そんな俺の様子を見て、ワイバーンがニヤリと笑った様に見えた。身動きの出来ない空中、俺はこのままではやられると身構えたが、当のワイバーンは羽を動かし俺から離れていった。
いつ反転して襲って来ても対応できる様に、俺は油断無くその様子を見ていたが、突然ワイバーンが急降下を始めた、その先にいるのはフィー!? フィーはフォレストウルフの相手で手一杯でワイバーンには気づいていない、このままではフィーが殺されてしまう!? そう思った瞬間俺は切れてしまった。
俺は咄嗟に、魔力強化の限界を突破させ、オーバーブースト状態となった、これは、魔力の続く限り際限なく身体能力を強化させる、ただその代償は大きな物になるだろうが、そんな事は構ってられない。
そうして、次に魔力を無制御で背後に放出し、魔力暴走の爆発を起こし、その爆風に乗る事でワイバーンに追いついた、背中が酷い事になっていたがそんな事はどうだって良い。いま正にフィーに噛みつこうとする寸前だったからだ。
俺はその勢いそのままで、ワイバーンを地面に叩きつけてやった。
「俺の、フィーに手を出してんじゃねぞ!」
思わず言ってしまった言葉に心の中で赤面しつつ、フィーの様子を見る。彼女はワイバーンを叩きつけた衝撃でバランスを崩し、尻餅をついていた様だが、どうやら、怪我はしていない様だった。ほっと安心しそしてそのまま固まってしまった。きょ、今日はアダルトな黒ですか・・・。神楽のせいで日に日に煽情的な下着になって行くフィーさんであった、この位置だとアル達から見えなかったのは幸いか。
そんな事を考えていたのも束の間、目を覚ましたワイバーンが起き上がろうとしていた、俺は奴がフィーに何をしようとしていたかを思い出し沸々と怒りが沸きあがって来るのを覚えた。フィーが無事だったから良かったが、もし、何かあって見ろお前らワイバーンを根絶やしにしてやる所だったぞ、そんな事になっていたら他のワイバーンにとってはとんだ災難であろう。
だが、お前だけは許さん! 俺は何度も斬りつけていた方の羽を無造作に掴むと、力任せにそれを引きちぎってやった、俺の体のあちこちから、聞こえてはいけない音がしていたが、俺は怒りに我を忘れてそんな事お構いなしだった。
羽を千切ってやったワイバーンは痛みにのたうち回っていたが、やがて、憎々し気な目で俺を睨みながら立ち上がった。そして、大きく息を吸い込んだ。
「だから、俺のフィーを巻き込むんじゃねー! フィーに何かして良いのは俺だけだって言ってんだろが!」
そう言いながら地面を蹴ってワイバーンへと迫る。怒りで我を忘れていた俺は、色々と言ってはいけない事を叫んでいたが気にしちゃだめだ。たとえ、後ろで湯気が出そうな程顔を真っ赤にしてボフンと爆発しているフィーがいようとも、更にその後ろで顔を真っ赤にしているアル達が居ようともだ!
ワイバーンへと迫った俺は、ブレスを吐こうと口を開こうとするその頭を上から地面へとたたきつけ、更に足で踏みつける。今頃ワイバーンの中では行き場を失ったブレスが荒れ狂っている事だろう。
そうして、ぴくぴくと痙攣をしている、ワイバーンの頭を持ち上げた。その目は怯えきっており、許しを請う様な目をしていたが、だが、だめだ、お前は何度もフィーに危害を加えようとした、だから許すことは出来ない。
「フィーに危害を加えるこんな口なんて要らないよな?」
そう言うと、俺はワイバーンの下顎に足をかけ、上あごに両手をかけるとそのまま引き裂いた。
地に横たわるワイバーン、裂けてだらりと垂れ下がる下顎、その喉元からは、ひゅぅひゅぅと呼吸の音だけが聞こえた。放って置いてもその内に死んでしまうだろうその姿は、妙な憐みを感じさせた。
「せめてもの情けだ、止めを刺してやるよ。」
そう言って近づくと、ワイバーンは静かに目を閉じた。負けた者は強者に喰われるそれが自然の掟と言っている様だった。
俺は、折れた剣を手に持ち、それを魔力で覆うとその頭へと叩きつけた、魔力によって強化された剣と俺自身の強化の威力で、その分厚かった頭皮と頭蓋骨をたやすく貫き脳に達したそれにより、ワイバーンの命の灯は消えた。
「皆、無事か?」
振り向きながら問いかける俺に、アルとマーサは唖然とした表情でコクリと頷いていた。フィーは、まだこっちに戻って来れていない様で顔を真っ赤にして、あ~う~とうなっていた。
そんなフィーに頬を緩めながらも俺は気を引き締める、まだ終わっていないからだ、フォレストウルフから3人を守りながら森から脱出しなければならない。
そう思って一歩を踏み出そうとするが、そこまでだった、俺はそのまま地面に倒れると身動きが出来なくなった、魔力切れだった。そして魔力強化が切れると同時に俺の全身からブチブチと筋肉と腱が切れる音、そして、バキリと骨が砕ける音が聞こえて来た。
俺は全身を襲う激痛で意識を失いそうになるのを必死にこらえ、俺に駆け寄って来るフィーの向こう側から、父さん達が駆けて来るのを目にして意識を失った。
読んで下さりありがとうございます。
このお話はリュシルが6歳の時のお話になります。
リュシルさん怒りに我を忘れて色々言っちゃってますね、因みに本人は言った事を覚えていません。




