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底辺召喚術師のシュウカツ事情  作者: なおさん
第1章
22/34

子供達の為に服を作ってみる③

この物語は異世界のお話です、現実の物理法則とは違う法則で動いております。

その辺を留意してお読みください。




その日は朝から曇っており今にも雨が降り出しそうだった、所謂曇天と言うやつか。


俺は雨自体はそれ程嫌いではない、しとしとと降る雨の音を聞きながら、窓辺で本を読んでのんびりするのもまた良いものだ。


もし雨が降って来るようなら、午後からはそうしても良いかも知れないな、フィーも最近忙しかったから、ゆっくりとさせてあげたいし。


そんな事を考えながら、フィーに着替えをさせられ(遠い目をして現実逃避していたとも言う)、着替えが終わり朝食を食べに部屋を出ようとした所で。


「おっと、モコを呼び出しとかないとな。」


夜寝る前にカグラへと送還していたモコを呼び出した、その途端。


「きゅ! きゅきゅ! きゅぅきゅぅ、きゅぅきゅぅ。」


と、モコのけたたましい鳴き声が部屋に響いた。俺とフィーはその様子に驚いて、しかし言葉が解る訳でもなく、どうしたんだろう? と顔を見合わせていた。


そんな俺達を見たモコは俺の手から床へと飛び降り壁際に向かうと、その壁に神楽の映像をプロジェクタ機能にて映し出した。どうやら、神楽からの緊急の伝言がある様だった。そうして、映像の神楽が喋り出した。


「マスター! 緊急の報告があります。昨日の夜半過ぎになんですが、山腹に設置した有線式の観測装置が強力な静電気ノイズの波形を受信しました。詳しい位置までは特定できませんでしたが、街の中からなのは間違い無いようです。」


え? 神楽いつの間に観測装置なんて設置してたの? それに静電気ノイズ? と、色々な疑問符が浮かび上がったが、次の言葉でそんな事どうでも良くなった。


「もしかしたら、孤児院の子供達に何かあったのかもしれません、至急確認をお願いします!」


焦った表情の神楽の言葉に、俺は神楽が子供達の服に施した加工の事を思い出し、次の瞬間。


「フィー! 孤児院へ向かうぞ!」


そう言って、フィーと共に部屋を飛び出した。フィーは神楽の話の意味は理解出来ていない様だったが、子供達に何かあったかも知れない、その言葉で緊急事態だと判断した様だった。とにかく、説明は移動しながらだ!


廊下を玄関へと向かう途中で、食堂へ向かう父さん達を見つけ、急な要件で今から出掛ける事と、朝食が要らない事、朝の座学と鍛錬を休む事を矢継ぎ早に告げた。父さんも俺達の様子に只ならぬ物を感じたのか、気を付けて行って来なさいとの言葉と共に許可を貰えた。


朝の市の関係か人通りの多い道を逸る気持ちを抑えながらフィーと共に進んで行く。クソ、魔力強化全開で行けばあっと言う間なのに!


俺は気持ちを落ち着かせるために、詳しい状況が分かっていないフィーへと説明をしながら進んで行った。


「フィー、前に神楽が子供達の服に施した加工の話は知っているよな?」


その言葉に「はい。」と答え頷くフィー。


「その中に、悪意を持った人間の纏う静電気ノイズに触れられると、体が拒絶反応を示して、反発する静電気ノイズを発生させて、それを増幅して相手を撃退する仕組みがあるのだけど、その増幅した静電気ノイズの波形を山腹に設置した観測装置が受信したらしいんだ。」


「そ、それでは、子供達の誰かが悪意を持った人間に襲われたと言う事ですか?」


俺の説明を聞いたフィーは顔を青褪めさせて、早く行かねばと焦りの様子を見せていた。


「フィー落ち着いて、まだ可能性の話だから、何かの間違いって事もあるんだから。」


そう言いながらも、神楽のセンサー機器の性能から誤受信は考えられないとも分かっていて、その言葉は自分に言い聞かせる意味も持っていた。



話をしている内に、何時も通る裏通りへの角を曲がり裏通りを進んだ先に、孤児院の建物が見えて来た。


逸る気持ちを抑えつつ、孤児院の前へ到着すると、乱れた息を整えながら中の様子を伺う。そこには・・・、何時もの光景が広がっていた。


朝食を食べ終わって腹ごなしとばかりに、ボールで遊ぶ子供達、今は動きたく無いとリバーシに興じる子供達が居た。


俺とフィーはその様子に安堵の表情を浮かべるが、此処にいない子供も何人かいるため、もしかしてその子達がと心配になった。


丁度その時、建物の中から、子供達の洗濯物を入れた籠を持ったマルメさんが出て来た、それを見た俺達はマルメさんに駆け寄る。


「あらぁ、リュシルさん、フィーリアちゃん、いらっしゃい、こんなに早い時間にどうしたの?」


近づく俺達に気付いたマルメさんがいつもなら午後の中頃に来るのに? と疑問符を浮かべていた。


「あの、昨日の夜中に子供達に何かありませんでしたか? その、今此処にいない子供達に何かあったとか?」


少し焦った様な俺の言葉にマルメさんは僅かに顔を顰める、まさか、やっぱり何かあったのか? そんな考えが過る。


「昨日の夜は特に何も無かったはずよ、朝食の時までは皆元気にしてたし。」


続くその言葉に安堵の表情を浮かべると共に、あれ? じゃあ何でさっき顔を顰めたんだ? ん? 朝食の時までは? なんか引っかかる言い方だな?


「ちょっと、聞いて欲しいのよ二人とも、朝食の時なのだけど、何人かの子供達が嫌いな物が入ってたみたいで、それをこっそり捨てようとしてたのよ。で、それを院長に見付かって、食べ物を粗末にするとは何事だ!って怒られちゃってね、今は罰としてそれを食べ終えるまで遊びに行くのは禁止されて、院長監視の下まだ食堂に居残っているのよ。」


きゅ、急にマルメさんはどうしたんだろ、仕方ない子達ねと言うマルメさんは、子を持つ母親の様な表情をしていた。俺はその表情に覚えがあった、前の世界の子供の頃にニンジンが食べれなくて、あの独特の甘みが苦手だったのだ、何かに混ざって出て来るのなら良いのだが、単体で出て来ると途端に食べれなくなってしまうのだ、そうしてこっそり捨てようとして親父に見付かって一日中正座させられた事があったのだが、その時親父の横で俺を見ていた時の母親の顔が今のマルメさんと重なったのだ。


「そ、それって、もしかして、野菜か何かでそのままの物が出てました?」


「そうね、スープに入っていた物だけど刻んだだけで、野菜そのままの形と言えるかしらね?」


あーやっぱりそうか、嫌いなものを認識してしまうと、それだけで食べれなくなるもんな。


「それなら良い物がありますよ、ミンサーって言う物なんですけど、本来この前作ったハンバーグなんかの挽肉を作る物なんですけど、野菜もミンチに出来るので、野菜を煮溶かしたスープなんかも短時間で出来るので便利ですよ。今度来るときに持ってきますので使ってみて下さい。」


「あら、それは便利そうねそれなら次来る時を楽しみにしておくわね。」


そういって、マルメさんは笑顔を見せてくれた。ん? そう言えば俺達って何でここに来たんだっけ? 当初の目的をすっかり忘れている俺だった。




「あれ? フィーとあと、リュシルじゃない、二人ともどうしたの?」


その声に振り替えると、そこには大きな袋を抱えたローリエがいた。おい、ローリエ、俺の事はおまけ扱いかよ、そんな事を言うと例の妖精服(ローリエ命名)をお前にも着せるぞ。実は神楽に頼んで、フィー用の服を作って貰ったのだがついでにローリエの分も作って貰っていたのだ。因みに結局その服はフィーには渡せていない、恐らく服を着たフィーを見たら俺の理性が吹き飛ぶ事間違いなしだったからだ。って、話が逸れてしまった。


どうやらローリエは、雨が降らない内にと、朝市を利用して買い物を済ませて来たみたいだな。


「そうそう、ちょっと聞いてよ、さっきそこの朝市で聞いたんだけど、なんでも、昨日の夜ギルドの女子職員寮に賊が侵入したんだって、詳しい話は分からなかったけど、それで、職員の誰かが襲われたらしいのよ。」


物騒よね、と言うローリエの言葉に、俺とフィーは顔を見合わせる。フィーもきっと同じ人物の事を思い浮かべたはずだ、そう、マルティナさんの事をマルティナさんにも子供達の服と同じ加工を施したヌイグルミを渡していたからだ。


「すみません、急用を思い出したので一旦失礼します。」


忙しなく立ち去ろうとする俺とフィーに「せっかく来たのにもう行っちゃうの?」と言って来たが、今は急いでギルドに向かわ無ければいけない、また今度来ますと挨拶をして速足で駆け出す俺達だった。



道を進み程なくギルドの建物が見えて来た、心なしか空気がピリピリしている様だ。


ギルドの入り口を潜り中へ入ると、受付にはいつもの様にマルティナさんがいた、いや・・・、心なしか緊張している? 兎に角怪我が無いかを確認してみないと、そう思いマルティナさんの元へ駆け寄って行った。


そんなマルティナさんだが、入って来た俺達を見つけると笑顔を見せてくれたが・・・、何だかいつもの笑顔と違う? 


「マルティナさん無事ですか? 怪我はありませんか?」


心配の余り思わずストレートに聞いてしまった。


「私は大丈夫よ、貴方達が守ってくれたからね。」


だが、当のマルティナさんは、嬉しそうに頬を緩めると、大丈夫と言い微笑んだその言葉に俺とフィーは安堵の表情を浮かべるが、続く言葉に、ああ、やっぱりあのヌイグルミがなんかしたんだなと、申し訳ない気持ちになってしまった。


その様子にマルティナさんは小首を傾げていたけど、まあ、マルティナさんが無事だったから良しとしますか、そう思いこれ以上ここに居ても仕事の邪魔になるだろうと思い、ギルドを後にしようとすると。


「あら、今日は指名依頼は受けてくれないの?」


残念そうな表情のマルティナさん、あ~でも、昨日もやって又今日もって言うのは流石に申し訳ないと言うか・・・。


「外も凄い雨よ? どうせ雨が止むまで待たないといけないなら、受けてくれないかしらね?」


え? 本当だ外凄い雨になってるよ、さっきまで降って無かったのに、まるでマルティナさんが俺達を帰したく無いからって、雨を降らした様に思えた。まさかね。


「えと、マルティナさんがそれで良ければ。」


そう言って、フィーを見ると彼女も頷きを返してくれた。


「では、仮眠室に行きましょうか。」


突然背後から聞こえるマルティナさんの声、一瞬目を離しただけなのにいつの間にか俺達の背後に佇んでいたのだ。凄くびっくりしました・・・。


そうして、マルティナさんの両脇に抱えられ、仮眠室に攫われるのだった。・・・ん? マルティナさん微かに震えている? フィーを見ると彼女もそれに気付いた様で頷きを返してくれた。


幾らギルドの職員でそう言った荒事に慣れてるいるとは言っても、彼女もか弱い?女性だ、賊に襲われた恐怖を直ぐに忘れられる訳は無いか。しかも昨晩の出来事だ。何で仕事や済まなかったのか、とか色々思う処は有るけど、昨晩の事を公表していない事と何か関係があるのだろう。



仮眠室へと入りベッドの上に座る3人と一匹、いつもなら此処でマルティナさんが俺達を抱っこするのだが、今回は俺達が先に動く。まずはエイヤーとばかりにモコがマルティナさんの胸元へと飛びつく、それを受け止める為に彼女の注意がモコに向いた瞬間を狙い俺とフィーで彼女を布団の上に押し倒す。


「キャッ」と言う声と共にベッドで横になるマルティナさんは何が起こったのか理解が追い付かずキョトンとした表情をしていた。さて、理解が追い付く前に準備を完了しなければな。


次にフィーはマルティナさんの頭をそっと持ち上げるとフィーの太腿の上にのせた膝枕と言う奴だ、そうして、モコは彼女の胸元に陣取り、俺は彼女の手をぎゅっと握るのだった。


「えっと、あの、これは?」


戸惑った様な表情で、状況を説明して欲しそうなマルティナさんだったが、俺は特に何も言わず、空いた方の手で彼女の頭に触れると優しく頭を撫でながら、「良く頑張ったね。」と優しく微笑みを向けるのだった。そうしてフィーはマルティナさんの肩を優しく撫で、モコもそれをまねる様に鎖骨の辺りを撫でていた。


「―――っう、怖かったの・・・、あんな・・悪意の籠った目で・襲われて・・、もし、貴方達に貰ったあの子がいなければ、どうなって居たのかと思うと、震えが止まらなくなってしまって・・・。」


感極まったのかそう言って、ぽろぽろと涙を零すマルティナさんは年齢よりもずっと幼く見えた、ああ、やっぱり彼女もか弱い一人の女の子なんだなと思うのだった。フィーはそんなマルティナさんを優しく包み込むような微笑みでその涙をそっと拭ってあげていた、なんだかフィーが妙に大人びて見えた。


「もう大丈夫だから、安心して良いよ、今はもう余計な事は何も考えなくていいからね。」


そうして、暫くの間マルティナさんの頭を優しく撫で続けていると、彼女から小さな寝息が聞こえ始めた、きっとあの後眠れなかったのだろうな、すぅすぅと寝息を立てる彼女はとても幸せそうな寝顔をしていた。そんなマルティナさんの心情を表すかのように外は雨が上がり青空を見せていた。本当に天候操ってたりしないよね?



「ティナ、少しは落ち着いた?」


コンコンとノックと共にネリーさんが入って来て声をかけて来る、だからネリーさんノックの意味・・・。


そんなネリーさんは、いつもと違う俺達の状況を見て一瞬驚いていたが、幸せそうな寝顔ですぅすぅと寝息を立てるマルティナさんを見て、何と無く状況を理解したのか、そっと扉を閉め部屋の中へと入って来た。


「貴方達、ありがとうね。」


そう言いながら、マルティナさんを見るネリーさんの目はとても優しかった。


「この子、私に負い目があってどうしても私に対して一歩引いちゃうのよね。」


そう言って、ネリーさんはマルティナさんとの事を話し始めた、ええと、なんだか強制的に話を聞く事になっちゃったみたいだけどまあ良いか。因みにマルティナさんはベッドにちゃんと寝かし直している、この辺は流石フィーと言う処か、マルティナさんを起こす事無くさっと枕と入れ替わっていた。


そうして、もう一つのベッドへと腰掛けネリーさんの話を聞くのだった。




ネリーさんから聞いた話だと、5年前まではこのギルドの受付嬢はネリーさんともう一人、今は寿退社したそうだが、で賄っていたらしい、ただ、その当時にあった戦争の影響で、戦火を逃れて来た人達でこの街の人口が急激に増え、それによってギルドの仕事も大量に増えてしまい、人手不足に陥ってしまったらしい。


ギルドの機能が停止するのは不味いとギルドの本部から、10名程の人員が派遣される事になったそうだ、そして、その中にマルティナさんがいたらしい。五年前もあの娘の胸は凄かったわ~と語るネリーさんは遠い目をしていた。


ただ、当のマルティナさんは、本部での長かった研修期間も終わり、これから本部で受付嬢のトップ目指して頑張るぞと意気込んでいた所に、なかば強制的に参加させられたのである、幾らこちらの状況が落ち着けば戻っても良いと言われていても数年はかかるだろう、一番受けの良いであろうこの時期を辺境の地で数年、ほぼ本部でのトップを取る事は絶望的となったのだ。この辺の事情は一緒に来た人に聞いたらしい。


そんな状況でマルティナさんはひねくれてしまったらしい、他人を見下し、ネリーさんを押しのける様に受付嬢として働き、それでも持っていた実力も合わさって、あっと言う間にこのギルドの受付嬢トップの座を手に入れていた。ただその時には、マルティナさんはこのギルドで孤立状態となっていたのだそうだ。その頃にはネリーさん自身は受付嬢の仕事を辞して事務仕事に移っていたらしい。


そうしてマルティナさんは、寂しさを紛らわせる為に、可愛い物を集め初めたらしい。そんな状態が1年近く続いたある日、休養日で休みだったその翌日マルティナさんが朝ギルドへ出て来なかったのだ、彼女に関わり合いたく無い周りの者はずる休みだろうと気にも留めていなかったそうだ。


ただ、ネリーさんだけは、受付嬢の仕事に誇りを持っている彼女が無断で休むのはおかしいと、ネリーさんの受け持ちの仕事を手早く済ませると、ギルドを早退して職員寮にあるマルティナさんの部屋へと向かったのだそうだ。この辺はネリーさんの生真面目さなのかな。


部屋の前に来て扉をノックするも全く返事が無い、でも扉に耳を当てると確かに人の気配がしていて。ネリーさんは緊急事態と判断して、鍵のかかっていた扉を鍵開けの技術を使って開錠して中にふみこんだのだそうだ。ネリーさんはほんと色んな技術を持っているな・・・。


薄暗い部屋の中はすえた匂いがして、奥のベッドには横たわるマルティナさんがいたそうだ。「大丈夫なの?」そう声をかけると、かすれる声で「来ないで。」と返す彼女その声にネリーさんは彼女の体の様子を見て状況を察したらしい。


その時のマルティナさんはどうやら脱力熱にかかっていたのだそうだ、この病気にかかると最初の数日は熱っぽさと体の怠さが出て、その後本格的に発病すると高熱と共に体に全く力が入らず身動きすら出来なくなるらしい、そうしてその状態が十日ほど続き後は楽になるのだ、そう、死ぬ事によって楽になれるのだ。


ところで、どうしてマルティナさんは来ないでと言ったんだろう? こんな状態になって、身動きすら出来ないのに人が来たら助けてって言いそうな物なんだけど? そう思ってネリーさんに尋ねたのだけれど、「彼女は一日半も脱力熱にかかりそのまま動けずにいたのよ、察しなさい。」と嗜められてしまった。え~とたしか脱力熱は、高熱と全身に力が入らなくて動けなくなるんだよな、その割には新陳代謝が激しくなってあれが近くなるんだよな、あ・・・、一日半ベッドの上でそのまま、はい、察しましたです。


その後ネリーさんは嫌がるマルティナさんを無視して、彼女の体を拭き新しい服に着替えさせるとベッドのシーツを取り換え部屋の空気を入れ替え、そしてギルド付きの医者を呼びに行き、彼女を診察してもらったところ。やはり彼女は脱力熱にかかっていた様で、今では薬で治すことが出来る病の為、薬を処方されるのだった。


ただ更に問題があって、この脱力熱は初期症状なら薬を飲んで半日も安静にしていれば良いのだが、一度本発病すると薬を飲んでも二日間は身動き出来ない状態が続くのだ、今のマルティナさんには、誰も親身になってくれる人がいない。


その時ネリーさんは、少しも迷わず部屋を飛び出し、ギルド支部長から休みをもぎ取り、次に部屋に戻って来た時には、背負い袋に一杯の荷物を詰めて戻って来たのだった。


マルティナさんはその様子に驚き、何をするつもりなのかと尋ねたそうだが、ネリーさんは貴女が治るまで私が世話をするからとあっさりと答えたのだそうだ。その時のマルティナさんの嬉しくもあり申し訳なくもあり、それでいて今にも泣き出しそうな表情は今でも忘れられないそうだ。



その後、興に乗って来たネリーさんは、やれ夜寝る時に一緒の布団に入って、手を握ってあげた時にありがとうとぽつりと言った時の彼女が可愛かっただとか。朝目を覚ました時に私がすぐ横で彼女を見ているのを見て安堵の表情と共に恥ずかし気に顔を赤く染めてたのが可愛かったとか。え? それって俺達が聴いて良い話なの? と思う事まで話し始めたのだった。


極めつけは、彼女の体を拭いてあげる時に胸の根元を拭くのに胸を持ち上げた時のその柔らかさと弾力重量感は凄まじかっただの、下の世話をする時の顔を真っ赤にして恥ずかしくて死にそうといった表情そして、終わった後のほっとした時の表情が思わず襲いたくなっただの、その他にもそれは話しちゃ駄目だろといった段々と危ない方へと話がそれて行った。フィーなんて顔を真っ赤にして俯いてしまっていたし。


「あ、あの、ネリーさんそろそろお昼時なので、僕たちはお暇させて頂きますね。」


「あら、これからもっと凄い話があるのに。」


俺の言葉に、残念そうな表情をするネリーさんであった。お願いこれ以上は止めて下さい、フィーさんに悪い影響が出ちゃうから。


「えっと、では、その時の事があって、マルティナさんはネリーさんにあまり負担をかけたくないと思って遠慮してしまった訳ですか?」


何とかして話を本題に戻そうと思い言葉を紡ぎ出すが。


「え? 違うわよ? 一緒に寝ると私がティナに色々悪戯しちゃうから警戒しただけじゃ無いかしら? さっきの話も私とティナの馴れ初めとティナの可愛さの自慢話がしたかっただけだもん。」


だもん、って、なんじゃそりゃー、只のネリーさんのマルティナさんラブの話を聞かされただけじゃねぇかよ。負い目って言葉そのままの意味で悪戯されて負かされちゃう目に遭うからって意味かよ、一歩引くってそっちの引くかよ!


まあ、ネリーさんのマルティナさん愛はどちらかと言うと妹なんかに対する様な愛なのかな、所謂重度のシスコンってやつなのか。ネリーさんはまともだと思ってたのに・・・。



その後、マルティナさんの事は起きるまでネリーさんが見ていると言う事で、俺達はギルドを後にした。ネリーさん寝ているマルティナさんに悪戯しそうで怖いんですけど。


しっかし、見事に晴れ渡ったな、俺は雲一つ無い空を見上げて、今度マルティナさんとネリーさんの分の服も用意するかなと思うのだった。







おまけ


ティナ視点で進みます



二人と一匹が帰った後の部屋で。


”んっふっふ、ティナったら本当に良く寝ているわね、ちょっと悪戯しちゃおうかしら。でも起こすのも可哀相よね。”


私はティナの幸せそうな寝顔を見ながら、そんな事を考えていたのだけど。


「んん・・・、あれ? あの子達は?」


あら、残念どうやら起きちゃったみたいね。


「あの子達なら、もう帰ったわよ。」


「ネリー、そう、帰っちゃったの・・・。」


私の言葉に残念そうな表情を見せるティナ、あーもうほんとに可愛いんだからこの娘は。


「もう、また会えるんだから良いじゃない、我慢した分嬉しさも増すって物よ。」


「そう・、なんだけど・・。」


それでも、寂しいのか俯いてしまうティナ。もう、本当に仕方のない娘ね。そう思い声をかけようとした瞬間。


「決めた! ネリー、私、あの子達をお嫁さんにするの!」


わ! びっくりした。突然何言いだすのかしらこの娘は。


「お嫁さんって、リュシルちゃんは男の娘・・、コホン、男の子よ、貰うならお婿さんなんじゃないかしら?」


私も馬鹿な事言ってるなと思いながらも思わず答えてしまったわ。


「そっか、男の子か、と言う事はあの子に種付けをして貰えば可愛い子供が沢山出来て、それに、フィーリアちゃんとも種付けすれば更に可愛い子共が沢山、うふふふ。」


ちょっと、ティナ、種付けって身も蓋も無い。この娘ったらまた暴走を始めちゃって。全く可愛いわね、と溜息を付くのだった。


「あ、ちゃんとネリーの分も残しとくからね、しっかり、種付けして貰って、沢山子供を作ってね。」


そう言った彼女は無邪気な笑顔を見せてくれた。はぁ、全くこの娘は・・・。でも・・・、あの子と私の子供か・・・、一瞬過った考えを頭を振って追い払うのだった。







読んで頂きありがとうございます。

リュシルさんフラグが立ちましたよ。

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