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底辺召喚術師のシュウカツ事情  作者: なおさん
第1章
21/34

子供達の為に服を作ってみる②

この物語は異世界のお話です、現実の物理法則とは違う法則で動いております。

その辺を留意してお読みください。




翌日から、俺とフィーは孤児院の子供達の服を作る日々を送った、まあ、俺は神楽がプリントアウトした型紙を使って布を切って行くだけの簡単な作業だったけど、その後の工程は殆どフィーが行っていた、俺も仮縫いで手伝えるところなんかは手伝っていたけど。


子供達の服が縫い終わったのは、休養日の前々日の夕方だった、最後の一縫いが終わったフィーにお疲れ様と労いの言葉をかけると、満足そうに微笑んでいた。


だが、これで終わりでは無いらしい、出来上がった服を一度洗濯するらしい、そうする事で服に付いている糊などが取れて着心地が良くなるとの事だった。


「あの、洗濯位なら私がやっておきますよ? 艦の設備を使えば簡単ですし、フィーさんは此処まで頑張っていたのですから、明日位はゆっくり体を休めて下さい。」


神楽の提案に俺は同意の声を上げるが、フィーはそれでもせめて手伝いたいと言い出し中々引かなかった。


「神楽も最初だけしか手伝えなくて、その後は殆ど見ているだけだったから、最後ぐらい神楽に任せてあげたら?」


俺のその言葉でフィーは不承不承ながら頷くのだった、倒れられても困るからね。今夜はいつもよりゆっくりと魔力循環の時間を取ってあげるとするかな。


後の事は神楽に任せ俺達はカグラを後にするのだった。


翌日神楽から、洗濯が終わってふわふわになった、子供達の服を受け取ったのだが、神楽気合入れすぎだろ、何をしたらここまでふわふわになるんだよ。


そして迎えた休養日、お昼過ぎまではいつも通り森で狩りや採取を行い程よい時間を見計らって孤児院へと向かった。因みに今日のお昼はハンバーガーでした。


孤児院へやって来た俺とフィーは早速リース院長へ事情を話し子供達へと服を配って行った、服を受け取った子供達は嬉しそうにして早速着替えていた。


着替え終わった子供達を見てフィーとローリエは、可愛い可愛いとはしゃいでいた。


女の子の服はワンピースをベースに要所要所にフリルをあしらってあり、更に背中の腰の所には大きなリボン飾りが付いていて、それが蝶の羽の様に見えてまるで妖精の様な愛らしさが有った、マルティナさんがここに居たら、全員お持ち帰りされてたかもな・・・。


男の子は、動きやすさを重視して、半袖にハーフパンツとデザインはシンプルだが、俺の提案によりポケットが多めに付けられている、男の子はポケットに色んな物を入れたりするからな、そしてここが俺がこだわった所だが、外から見えるポケットの裏側にも内ポケットが付けられていて、隠しポケットになっているのだ、男の子はこう言った物が好きなはずだ。実際隠しポケットを見つけて嬉しそうにしていた。


子供達は俺達に「ありがとう!」と、元気にお礼を言うと楽しそうに広場で遊び始めた、この辺はリース院長の教育の賜物か。



そして、俺は神楽との約束を果たすために手の平の上にモコを乗せて広場へと向かう、モコの姿を目聡く見つけた子供達が興味津々と言った様子で周りに集まって来る、そうして俺はモコを皆に紹介するのだった。


神楽がどうしてもとお願いして来た事それは、モコを子供達と遊ばせる事だった、モコが体験した事は、後で神楽も追体験する事が出来る、俺とフィーが毎回子供達と楽しそうにしている話を聞いて、神楽も子供達と触れ合いたいと思ったらしい、そこで白羽の矢が立ったのがモコと言う事だった。


モコを子供達に委ねるとさっそく女の子達が戯れ始めた、こう言った物は男よりも女の方が受け入れが早いのだろう、男の子たちはそれを囲む様にして様子を見ていた。妖精服(ローリエ命名)を着た女の子達(何故かローリエとフィーも混ざっていたが)と戯れるモコ、あ~うん、ごめん、俺もマルティナさんの気持ち分かる気がするわ。フィーとローリエなんか、一緒に戯れながらウットリとした表情になってるし・・・。そうして、モコにも慣れて来たのか、男の子達も混ざってモコと追いかけっこを始めた、あの小さな体の何処にあんなパワーがと思う程アグレッシブな動きで子供達を躱し続けるモコがそこにいた、あ~うん、まあ楽しそうで何よりだよ。そうして日が傾くまで子供達と戯れるのだった。


え? 俺は何をしていたのかって? はっはっは晩御飯の準備をしていたさ! フィーとローリエは子供達に夢中だったからマルメさんに手伝って貰ってね、調理の間中俺に寄り添って潤んだ目を向けて来るマルメさんに怯えながらだったけど・・・。


途中我に返って俺がいない事に気付いたフィーが駆け込んできて平謝りをして来たけど、子供達の為に頑張って服を縫っていたフィーだからね、今日はゆっくりして貰おうと思ってたぐらいだから、「気にしなくて良いよ」と言ってあげた。ただ、内心ではフィーが来てくれた事には逆に物凄く感謝していた、だって、潤んだ目を通り越して艶かしい目を向け始めたマルメさんが体をもじもじさせて妙な動きをし始めていたからだ、貞操の危機を覚えたよ、ナイスタイミングだフィー。


フィーの登場で平静を取り戻したマルメさんとフィーと共に調理を進めていった、因みにローリエは、みんなこっちに来てしまうと子供達を見ている人が居なくなるのでリース院長と共に向こうに残っている。


そうして出来上がった物を食堂へと運んだ。本日の晩御飯はこれも子供が大好きな、から揚げとコロッケだ。鳥肉は前回シキン鳥が大量に手に入ったのでそれを使っている、醤油が無いので下味は塩だれベースになるが、コロッケはこちらもジャガイモ自体は大量に出回っているので材料に事欠く事は無かった、そして揚げる為の油だが、この国では、調理に使う油と言えば、動物の脂身から作るラードや、乳から作るバター位で、大量に必要となる揚げると言った調理法が無かった。大量の油となると、かなりの値段になるからね、しかも使った油は廃棄するしかなくなるし。そこで神楽の出番となる集めた素材の解析結果から、食用油に使える物を探した結果、草原に大量に生えていた植物の種が使える事が分かった、しかもこの油はこの街ではランプ用の燃料として使っている物だったのだ。ただし、精製方法が稚拙なのかそのままでは食用に耐えないのだけどね、それさえクリア出来ればこの街でも揚げ物料理が流通するかも知れないな。今回はずるをして神楽で精製した物を使わせて貰った、残った物はランプ用にでも使って貰おうと思う。


初めて見る料理に子供達は目を丸くし、一口食べて驚きの表情をして、その後は一心不乱に食べ続けるのだった。う~んコロッケ用にソースが欲しくなるな。


ところで、幾つか気になった事が有った、食事の後の子供達の会話だったのだが。


「ねえねえ、そう言えば今日って虫に刺され無かったよね?」


「そう言えばそうよね、いつもなら外で遊んだあとは虫に刺された所が痒くて仕方無かったもんね。」


「うん、そうだよな、それに昼あれだけ走り回ったのに、あんまり暑くならなかったよな?」


「そうそう、いつもなら汗ぐっしょりになってもおかしく無かったんだけどもサラサラだよね?」


「なんでだろ?」


「なんでだろね?」


その話を聞いて、そう言えばさっき、から揚げを服の上に落とした子が服に油がべっとり付いちゃって半泣きになっていたが、マルメさんが布巾でそっと服を拭ったら、服には油の染み一つ残って無くて、布巾にはちゃんと油が染みてたのを見て、マルメさんが首を傾げていたっけ。


うん。神楽! お前またなんかやっただろ! と心の中で叫ぶのだった。


そうして子供達との楽しい時間も終わりを迎え、孤児院を出ると屋敷へと向かう俺とフィー、日もほぼ沈み黄昏時とも言える中を二人歩いて行く。


「フィー子供達喜んでくれた様で良かったな。」


「はい! リュシル様のお陰です!」


「何言ってるんだ、今回はフィーが頑張ったからだろ? 俺はその手伝いを少しやっただけさ。だから、今回の事はフィーが誇っても良いんだよ。」


「・・・。」


突然訪れる沈黙、次の瞬間俺はフィーに後ろから抱き寄せられる。


「フィーは、リュシル様の従者になれて、本当に幸せ者です・・・。」


フィーの俺の耳元で囁かれる言葉を聞きながら、そっと後ろ手にその頭を優しく撫でるのだった・・・。


あ~うん、もう、いつもの事なので慣れてしまった感があるけど、何時もこの通りで商売している人達は又かよ!と言うような表情をされていたが、何故か微笑ましい物を見る様な目をしている人達が殆どだったのは何故だろう。


そうして我に返り顔を真っ赤にして俯くフィーの手を引いて屋敷へ戻って来ると、入り口に佇む父さんの姿。え? まさか・・・? そのまさかでした、父さんにたっぷりお小言を言われました。それにしても何で俺達が戻って来るよりも早くその情報を知ったのだろうか・・・、謎だ。




翌日ギルドにやって来た俺達をマルティナさんが迎え撃つ、何故か俺達に指名依頼を受けさせる条件に、マルティナさんが俺達を捕まえる事が加えられていたからだ。その条件を聞いた時にネリーさんの方を見たが彼女は全力で否定をしていた、見せて貰った依頼書には副支部長の印鑑がでかでかと押されていた、この依頼書に触れたのはマルティナさん、ネリーさん、そして副支部長のアジールさんしかいない、必然的にこの条件を追加したのはアジールさんと言う訳で・・・、うん、アジールさんなら仕方がないな! 初見で俺を男の子と見破ったアジールさんなら仕方が無いそう納得する俺がそこには居た。


その後、マルティナさんの両脇に抱えられ、仮眠室へ連れられて行く俺とフィー。くっ、次はもう少し粘ってやる、手段と目的がおかしくなっている俺であった。


そして、マルティナさんに愛でられ、その後、素材の買取をして貰いギルドを後にするのだった。因みに何故かギルド内を移動する間、マルティナさんに抱えられたままなのは、なぜなんだろ? すれ違う職員さんが皆目をそっと背けて行くよ?




更にその翌日、俺達の前で正座をさせられている神楽がいた。


「で、神楽、何をしたんだ?」


「え~何の事でしょう~?」


俺の質問に、目を泳がせながらとぼける神楽。


「ふ~~ん?」


「っ!?」


次の瞬間、怯え始める神楽。そして、ごめんなさい、消さないでと繰り返すのだった。


少しして落ちつた神楽はぽつりぽつりと話し出した。


「服を受け取った後、洗濯をしながら、子供達がこの服を着て遊びまわっている姿を想像してうっとりとしてたのですが・・・。」


「ふと、前にスキャンした書物で思い出したのです、この世界、外で遊ぶ子供達が毒虫に刺されて、更にそこから入ったばい菌で病気になって死んでしまう子が多いと言う事を。」


「その様子を想像したら怖くなってしまって、どうしたら子供達を守れるのかそんな事を考えていたら、目の前に丁度子供達が着る予定の服があるじゃないですか。」


「それなら、服に虫除けの加工を施せば子供達を守れるんじゃ無いかと思って。」


「更に、どうせならと、これからの時期暑くなって子供達が汗を掻いて脱水症状にならない様にと、フィーリアさんのストッキングと同じ温度を一定に保つ加工も施す事にして。」


「更に更に、子供達が外で遊びまわって服を汚してしまって保護者の方に怒られたりしない様にと汚れが付かない加工を施したり。」


「と、色々欲張ってしまいまして・・・。」


やっちゃいました、テヘッと、小さく舌を出して頭をコツンと叩く仕草をする神楽に若干イラっとしたりもしたが・・・。


「はぁ、まあいい、今聞いた話じゃ特に危険そうな物は無さそうだしな。本当にそれだけなんだよな?」


俺の言葉に神楽はすっと目を逸らした。ちょ、まだ何かあるのかよ。今更、回収できないんだぞ。そう思い更に神楽を問い詰めて白状させた。


「え~と、あの服を着た子供達はきっと可愛いだろうから、悪意を持った人に攫われてしまうんじゃ無いかと思いまして、はい。」


あ~うん、確かに可愛らしかったけどね、フィーもその意見には頷いていた。


「それでですね、悪意を持った人間があの服に触れるとですね、びりっと電撃が走るようになっていまして、はい・・・。」


え~~~、何ちゅう加工を施してんだよ。それで間違って関係ない人を感電させたらどうするんだよ、それに服に施せる加工なんかで、悪意の有無を判断できる高性能な機能付けれる訳無いだろが!


「あ、それに付いては問題ありません、人間の体とは不思議なもので、どれだけ悪意を隠そうとしても、体の表面にはその影響で特殊なノイズの様な静電気が発生するのです、そしてそれに触れられた相手の体は自然とそれに拒絶反応を示します、まあ、意識レベルで認識できる物では無いのですが、その拒絶反応時に発生する静電気を増幅して相手に食らわせると言う仕組みになっているので、保護者の方が子供達の事を思って叱る様な行為ではその様な現象が発生しない事も判って居ますので。それに増幅すると言っても相手をひるませて痺れさせる程度の物ですので危険は少ないかと。」


あ~なるほどね、人が殺気や気配を感じたりするのって、そう言った現象を感知しているのかもしれないな、でもそれって何気に凄い技術なんじゃ無いの? 俺も初めて知った事だし。


「まあ、悪意も無しに子供達を攫える人がいれば効果が無いんですけどね、そんな人いないでしょうし。」


続くその言葉に俺はマルティナさんの顔が思い浮かんだ、フィーを見るとどうやら同じ事を考えた様で、苦笑いを浮かべていた。


「はぁ、まあいい、前にも言ったが子供達の事を考えてやった事だから、怒ったりはしないさ。じゃあ、はい、モコは返してあげるよ。」


そう言って、モコを神楽の足元へ置いた。神楽がどんな真意であんな事をしたのか分からなかったから、モコを返すのは保留していたのだ。


「あぁぁ、良かったぁ、罰としてモコを返してもらえないのかと思って諦めかけていましたぁ。マスターありがとうございますぅ。」


そう言って神楽は早速モコの経験した事を追体験し始めるのだった。追体験中にコロコロ変わる神楽の様子を横目で見ながら俺とフィーはある物の作成に取り掛かる、それは、俺とフィーとモコを模したヌイグルミである、これは、3日後に20歳の誕生日だと言うマルティナさんへプレゼントする為の物だ、この世界では、いちいち毎年生まれた日に祝いをする事は無い、5歳と成人する12歳、そして後は節目となる20歳、30歳と10年事に祝う風習があるぐらいだ。しかし、マルティナさんって、まだ20歳になって無かったんだね、少し大人びて見えてたから20歳は超えてるのかと思ってたよ。


それで、色んな意味でこれから世話になるマルティナさんへ、何か贈り物をしようと言う事になって、何を送ろうか迷っていた所に、子供達の服の材料を買いに行ったお店で幾つかの材料を見つけて、ヌイグルミを送る事を思いついたのだった。


この世界には人形はあるが可愛くも何ともない味気ないデザインの物ばかりだった、しかも今回送ろうと考えている、抱っこするぐらいの大きさの物はまず存在していなかった。


俺自身も、子供達の服作りでかなり慣れたもので、神楽に用意して貰った型紙を使って布をどんどん裁断していく、そうして、裁断した物をフィーが縫い上げて行った。そして、一部縫い合わせずに開けて置いた穴から綿を詰め、最後開いていた穴を縫い合わせて完成である。後はこのヌイグルミにも子供達の服と同じ加工を施してもらった。


出来上がった、リュシルヌイグルミをフィーが暫く抱っこしたまま離さない事案が発生したり、それならばと、俺がフィーリアヌイグルミを抱っこしたら、フィーの機嫌が物凄く悪くなったりと言った事が有ったけどね、なんか釈然としなかったけど。


後、フィーリアヌイグルミのスカートの中がフィーの例の下着だったりして、急遽ドロワーズを履かせたりと色々あったりもした。



そして、3日後の午後、ギルド支部へと入って行く俺とフィーの目の前には、マルティナさんの前に並ぶ長蛇の列が出来ていた、もしかして此処に並んでいる人全部がマルティナさんに誕生日祝いを渡しに来た人なのか、その列に並んでいる人は殆どが男の人だった、一部女の人が混じって居たりするけど。


俺とフィーは如何しようかと顔を見合わせていると、少し離れた場所の受付で俺達に手招きをする人が居た、あ、ネリーさんだ。俺達はそちらへトコトコと歩いて行った。


「いらっしゃい、あなた達ももしかして、ティナに誕生日祝いを渡しに来たの?」


その言葉に俺達は頷く。


「そっか~あなた達今来たって事は整理券なんて貰ってないわよね?」


え? 整理券? 何それ、初耳なんですけど?


「実は朝一番で、祝いを渡しに来る人が殺到しちゃってね、これでは業務にならないと言う事で、急遽整理券を渡して、それを持っている人しか列にならべない様に制限しちゃったのよ。」


その話を聞いて俺とフィーはあからさまに落ち込んでしまった。せっかくの手作りヌイグルミが渡せ無いなんて・・・。


「ふふ、まあ、あなた達なら祝いを持って来るんじゃ無いかと思ってたのよね、だから、はい、これは貴方達の分よ。」


そう言ってネリーさんは1枚の小さな板を手渡して来た、その板には100と数字が書かれていた。どうやらネリーさんは、俺達が来ることを見越して整理券を取って置いてくれた様だった。


「「ありがとうございます!」」


俺とフィーは揃ってお礼を言って、同時にネリーさんに抱き付いた。


「え? あ、ちょ、あの」


抱き着かれたネリーさんは、顔を染めてしどろもどろになっていた。だって、今のこの感謝を表すとなるとハグぐらいしか思いつかなかったんだもん。しかし流石はフィー俺と同じ事を考えるとは。


そうして機能停止したネリーさんに暫く抱き着いていると、マルティナさんへの祝いの列もはけて行き。最後の一人から祝いの品を受け取り終わったマルティナさんが、ネリーさんに抱き付いている俺達に気付いた。


「!? あ~! ネ、ネ、ネリー何してるのよ!」


ギルド内に響くマルティナさんの叫びだった。


その叫びを聞いた俺とフィーは、ネリーさんからそっと離れると、マルティナさんの元へトコトコと歩いて行き。


「はい、これ、ネリーさんが僕達の為にと取って置いてくれた物です。」


そう言って整理券を渡すとマルティナさんは、展開に付いて行けず「え?え?」とこちらもしどろもどろになっていた。


「「マルティナさん、おめでとうございます。」」


何とか平静を取り戻したマルティナさんへと向かい、俺とフィーは同時に祝いの言葉を発する。


「これ、俺とフィーで作った物です、よければ使って下さい。」


そう言って、大きな袋に入ったヌイグルミをマルティナさんへと手渡す。


その大きな袋を受け取ったマルティナさんは、嬉しそうに顔を綻ばせていた。


中を見て良いかの確認に頷いてあげると、早速ヌイグルミを取り出し、そして暴走した。まあ、相手はヌイグルミに対してだけどね、あ~あんな風に抱き締められていたのか~、ありゃ息出来んわ。マルティナさんのその双丘に埋まるリュシルヌイグルミを見て俺は頬を引き攣らせるのだった。




おまけ


マルティナ視点で進みます。



「ティナ無事なの!? 怪我はない?」


ネリーが私の部屋へと飛び込んできて、心配そうに怪我が無いか聞いてくる。


私は震える体を必死に落ち着かせようとして、抱えていたヌイグルミをぎゅっと抱き締めた。


「え、ええ、大丈夫、大分落ち着いたわ。」


親友のネリーを安心させようとカラ元気を出して笑顔を見せるけど、そんな物は通じる訳も無くて。


「何言ってるのよ、大丈夫な訳無いじゃ無い、こんなに震えて。」


そう言って、私の肩をぎゅっと抱き締めてくれた。そのネリーの肌の温もりに私は安堵し堪えていた涙が溢れてしまった。


今私の部屋の床には、気絶した状態で取り押さえられている、一人の男がいた。


この男の顔は見覚えがあった、少し前からしつこく付きまとって来て、迷惑していたのだけど。しかも、この前の私の誕生祝いで、整理券が貰えず騒動を起こしたりもしていた。


「どうやら、この男、貴女を薬で動けなくして、襲おうとしていたみたいね。」


気絶した男の手足を縛りあげて持ち物を確認していた、この職員寮の寮母がそう伝えて来た。


最初この男の手には薬品の入った瓶と布を持っていて、そして持っていたカバンの中にはロープと大きめの布が入っていた。恐らく男の持っていた瓶の中身は、私を深く眠らせるか、麻痺させて身動き出来なくさせる為の薬なのだろう。薬で動けなくしてその間にロープで縛り声を出せない様布で口を塞げば、後はご想像の通りの事をしようとしたのだろう。


夜眠っていた私は完全に油断していた、その状態で薬を嗅がされていれば、抵抗も出来ずにこの男の毒牙にかかっていたはずだった。


でわ、どうして私は無事だったのかと言うと、実は私にも良くは分からなかった。


この男は確かに私に薬を嗅がせるために、薬品を染み込ませた布を私の顔に押し当てようとしたのだろう、だけど私が男の叫び声で目を覚ました時には、男は床で転げまわっていた。


私は、混乱の余りにただ茫然と立ち尽くしていると、動けるようになった男が立ち上がり、物凄い形相で私に襲い掛かって来たのだ、混乱していた私はまともに対応することも出来ず、咄嗟に持っていたこのヌイグルミを相手に押し付ける様に向けたのだった、その瞬間、バシッと言う音と閃光の後、男が床に倒れ気絶していた、その後は騒ぎを聞きつけてやって来た両隣の住人が寮母を呼んで来て、この男を縛り上げ、そして、騒ぎを聞きつけてそれが私の部屋だと分かったネリーが駆け込んで来たのが今の現状だった。


一頻り泣いて落ち着いた私は、手に抱いたヌイグルミを見る、何の変哲も無いこのヌイグルミ、まあ、このヌイグルミを抱いて寝ると、毒虫が寄って来なかったり、暑くて寝苦しい夜も快適に寝れたりと不思議な事はあるのだけど、まあ至って普通のヌイグルミよね、でも、多分この子が守ってくれたのよね。何故かそうとしか思えなかった。


そうして、翌日、私はいつもと変わらずギルドの受付にて仕事をしている、ネリーは今日ぐらい休みなさいと言ってくれたのだけど、今回の事件は余り表沙汰にするのは不味いと、ギルド内部で処理する事になった為、公表されない事になっている、ただ、女子職員寮に賊が侵入した事だけが噂程度に広がっているのが現状だった。


そんな中私が仕事を休めば、襲われたのは私だと宣伝している様な物なのだ。


それに、私ならきっと大丈夫普段通りに出来るはず、そう思っていたのだけれども。


けれどそう言い聞かせながら仕事を続けるのが精一杯だった、どうしても男の人への対応時に体が強張ってしまう、何とか表に出さない様には出来ていると思うけど、何人かには気づかれていた様だった。


それでも何とかこうして仕事を続けて行けたのは、女の勘なのだろう、もうすぐ私の癒しがやって来るそんな気がしたからだった。ほら、やって来た。


ギルドの中へ飛び込んで来る二人と一匹、そうして、私を見つけると駆け寄って来る。その様子に自然と笑顔が浮かんでくる。


「マルティナさん無事ですか? 怪我はありませんか?」


心配そうに尋ねる二人と一匹を見て、不謹慎ながらもついつい頬が緩んでしまった。


「私は大丈夫よ、貴方達が守ってくれたからね。」


そう言って微笑むと、二人と一匹は、ほっとした表情を見せながらも何故か申し訳無さそうな顔をすると言う器用な事をやっていた。あら、私の思っていたのと違う反応だわ。


でも・・・、昨日の夜職員寮に賊が侵入した事は公表されていないのに、なぜこの子達は私が被害者だと知っていたのかしら・・・、不思議な子達だわ。


そうして、私は今日もこの子達を脇に抱え、愛でる為に仮眠室へ向かうのだった。


でも・・・、この子達には私の心情なんてバレバレで、逆に私が愛でられてしまったのだけれどね。








読んで頂きありがとうございます。

おまけの話が、段々長くなってゆく、その内おまけだけで1話分の長さに・・・。


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