子供達の為に服を作ってみる①
ギルド支部を出た俺達は、少し遅くなってしまったが本来の目的地へと向かう。
そこは、この街の商業区にある工房通りと呼ばれている、色々な工房やそこで作られた商品を取り扱う店舗が並ぶ通りであった。
なぜここに来たのかと言うと、孤児院の子供達の為にフィーが服を作ると言う事で、その材料となる大きな布やその他の細かな装飾品等を買い求める為だった。
最初フィーは一人で買い物に来るつもりだったんだよね、それに気付いた俺が荷物持ちに付いて行くって言ったら、主にそんな事はさせられないと断られちゃったよ。
ではなぜ今一緒にいるかと言うと、単純に主をほっぽって買い物に行くわけにも行かず、なし崩し的に一緒に行く事になった訳で。まあ、しっかりと荷物持ちさせて頂きますよ。
人通りの多い道をフィーと二人で歩いて行くと目的の店舗へと到着する、そこは服飾を扱う店舗で店内に入るとまず目の前には色んな色に着色された布が並べられていた、更に奥を見ると服などに着ける飾りや、レース編みされた飾り布、ボタンや結び紐などの小物が所狭しと並んでいた。
「いらっしゃいませ、本日は何をお求めですか?」
フィーと二人その品数の多さに圧倒されていると、お店の店員だろう20歳ぐらいの女性が声をかけて来た。
その声に我に返ったフィーは早速とばかりに店員の女性に色々と聞いていた、手持無沙汰となった俺は、店内を見て回る事にした。店内には完成した服なども置いてあり、あ~この服なんてフィーに似合いそうだななどとぼんやりと眺めていた、そうして店内を見て回っていてある物が目に付いた、それは植物から取れる綿が大量に入った麻の袋だった、そうしてその横に積まれている、服などを作った時の余りの布であろう色んな色の布、ボタンなどの装飾品、それらを見てある物が俺の中に思い浮かんだ、そうして俺は、それらを購入するのだった。
会計を済ませると丁度フィーも購入するものが決まった様で店員の女性と共に大量の布を抱えて奥から出て来る所だった、どうやら、倉庫にある在庫を見に言っていた様だ、まあ数が多いから大量になるか。
「あれ? リュシル様も何か買われたのですか?」
「うん、まあ、ちょっとした物をね。」
その言葉にフィーは俺の買った物が気になった様だがそれ以上は聞いて来なかった、自分の買い物がまだ途中だった事もあるのだろうけどね、その後、フィーの買う物も決まり会計を済ませたが、台の上に乗せられた大量の布や装飾品を見て、これ本当にフィー一人で買いに来るつもりだったのかな? と、思ったのだがフィーと店員との会話から、幾らかお金を払うと配送も承っている事が分かった。ただ、フィーは最初から使うつもりは無かったんだろうけど。
台に置かれたものをフィーに確認して、収納庫へと仕舞って行く、突然消えた商品を見て店員は一瞬驚いていたが、直ぐに思い至ったのか今度は羨ましそうにしていた、商売人にとっては荷物の運搬に収納庫のスキルは喉から手が出るほどに欲しいスキルの一つなんだろう。
店舗を出ると少し日が傾き始めた時間で、戻るにもまだ早く何かをやろうにも中途半端な時間帯であった。
「フィー、まだ少し時間が有るからこの辺を見て回ろうか?」
そう言ってフィーと共にその辺の露店や雑貨屋などを見て回った、結局何も買わなかったけどフィーは終始楽しそうにしてたから良かったかな。そうして、屋敷への帰路につくのだった。今度ちゃんとした休暇をあげて自由にさせてあげるのも良いかもね。
夜、フィーと共に部屋へと戻ってから。
「そう言えばフィーって、今までに服とかって作った事が有ったの?」
「いえ、流石に最初から全部となると初めてです、でも、布を買ったお店の人に色々と聞いて来たので恐らく何とかなるかと・・・。」
とんとん拍子で話が進んでいたから経験が有るのかと思っていたが・・・、どうやらフィーは初めてらしく、不安気な表情をしていた。
「それなら神楽に手伝って貰うと良いよ。神楽のデータベースなら、服の作り方なんかも記録されているはずだからね、それにデザインなんかもデータベースにある物を参考にすると良いよ、神楽のホログラムを使えば完成予想図も表示出来るだろうし。それに俺も幾らでも手伝うからさ、明日早速相談してみなよ。」
「ありがとうございます・・・。」
そう呟くと同時に何故かフィーはぽろぽろと涙を流して泣き出してしまった。え? 何で? 何か不味い事言ったのかな?
「フィ、フィー? どうしたの? 俺何か不味い事でも言ったかな?」
俺はおろおろしながら、フィーに問いかける。
「いえ、違うのです・・・、フィーが一人で服を作ってちゃんとした物が出来るか心配で・・・、そんな物を子供達が喜んでくれるのかと、今更ながらに凄く不安に思っていたのです。でも、リュシル様の言葉で、リュシル様達を頼って良いんだって、フィーは一人じゃ無いんだって安心したら涙が溢れてしまって・・・。」
そう言ってフィーは泣きながらも笑顔を見せてくれた。その瞬間俺はフィーを抱き寄せていた。
「!? あ、あの・・・、リュシル様?」
突然の俺の行動にフィーは困惑の声をあげていた。
「ごめんよ、俺の無責任な提案で、フィーをこんなにも不安にさせていたなんて、それなのに今まで気付いてあげれなくて、フィーは俺や神楽に遠慮する事は無いんだよ、思った事をどんどん言って来て良いんだからね?」
俺はフィーの事が愛しくて仕方が無かった、こんな小さな肩で、本来なら同じ年齢の娘達と買い物したり、遊びに行ったりしている様な年頃なのに、俺の従者になってしまったから、そんな経験も出来なくなってしまって、それでも健気に俺に仕えてくれて、そんな彼女に俺は甘えてしまっていたんだな。そんな自分が情けなくなってしまった。
「いえ・・・、リュシル様、この涙は違うんです、この涙は安心して出た涙なのです、ですから悲しい訳では無いのです、寧ろ感謝の涙なのですですから、そんなに自分を責めないで下さい、フィーは大丈夫ですから。」
そう言ってフィーは俺に感謝の気持ちを伝えて来た。そんなフィーに俺は救われた様な気持ちになった。俺は絶対フィーを幸せにして見せるそう心に誓った。
「あ・・・、でも、もし良ければ、暫くこのままでお願い出来ますか?」
恥ずかしそうに言うフィーに俺は笑顔を浮かべると、そのまま優しく頭を撫でてあげるのだった。
「そう言う訳でフィーの事をしっかり手伝ってあげる様に。」
「はい? 何がそう言う訳なのですか? マスター?」
部屋に入った途端に俺から告げられた言葉に、神楽は疑問符を大量に浮かべて首を傾げていた。
翌日、護衛艦カグラにやって来た俺は、中央制御室へと入るなり神楽にフィーの事を手伝う様に告げたのだが、神楽には何のことだか分からなかった様だ。
「え? だから、かくかくしかじかで、昨日そう言う話になって神楽にはフィーを手助けして貰いたいんだけど。」
「ですから、何がそう言う話なのですか! あと、かくかくしかじかと言うのは古典的な漫画なんかで使われる手法ですが、実際に言葉で言われても意味が無いですから! ちゃんと説明して頂かないと分かる訳無いですって。ねぇ、フィーリアさん?」
俺だと話にならないと感じたのか、そんな俺と神楽のやり取りを微笑ましそうに見ていたフィーに、説明を求めて白羽の矢が立った様だ。
「あ・・・、はい、実はですね、―――――。と、言う訳で、良ければ神楽さんに手伝って頂ければと思って。」
フィーから事の経緯を聞いた神楽はやっと理解したとばかりに頷いていた。
「やっと理由が分かりましたよ、子供達の服作り、私で良ければ全力でサポートさせて頂きますよ。それと、マスター? こんな事ちゃんと説明して貰わなけれ分かる訳ないでしょうが!」
神楽はフィーに快諾の意思を示すと、俺の方を向き、盛大なツッコミを入れるのだった。だって、ねぇ? 神楽さんなら分かるかと思って・・・。
その後、早速フィーと神楽は、子供達の服をどの様な物にするか話合いを始めた。
「じゃあ、集めた素材をデコンポーザーに放り込んで来るから、俺の手が必要な時は呼んでくれ。」
「あ! はい、行ってらっしゃいませ。」
声をかけて部屋を出て行こうとする俺にフィーが慌てて見送りに来る、あ~話を中断してまで見送りに来なくても良かったのになと、内心で苦笑いを浮かべ「うん、行って来ます。」と声をかけ部屋を出るのだった。
「神楽ちょっと聞きたい事が有るんだが・・・。」
「はいはい、なんでも聞いてくださいマスター。」
集めた素材をデコンポーザーへと放り込みながら問いかける俺に、機嫌よく答える神楽。どうやら神楽は俺の言葉に棘がある事に気付いていない様だった。
「フィーの着けていたあの下着なんだが・・・。」
「あ~あれですか、凄かったでしょ! 私が用意した下着なんですよ、マスターも鼻血を出すほど興奮された様ですし、私も色々と演技指導した甲斐があったと言う物ですよ。」
俺の問いかけに得意げに応える神楽、どうやら、他にも気になっていた事までベラベラと喋ってくれた様だ・・・。あのセリフがどうだとか、あの手の角度が絶妙だとか、そんな事を話してくれたよ。
「・・・・・。」
「あ、あれ? マスター? も、もしかして怒ってます? フィーリアさんの下着姿嬉しく無かったです? ひっ!? ご、ごめなさい、ごめんなさい、許して下さい、許してください、お願いです消さないで下さい、消さないで下さい~。」
更に余計な事を言ってしまい、一段上がった俺の怒りの様子に、どうやら神楽のトラウマスイッチが入ってしまった様だ。そんな神楽の様子を見て俺は大きな溜息をつく。
「はぁ、もう良いよ、神楽も俺やフィーの事を思ってやってくれた事なんだろ? 良かれと思ってやった事には怒れないさ。まあ、やり方には問題が有る様だけどな。」
そう言って俺は肩を窄めるのだった。
「ほ、本当に? もう怒ってない?」
恐る恐ると言った様子の神楽に「もう怒ってないよ」と伝えるとぱっと明るい笑顔を見せた。こんな風に素直な表情を見せてくれる分には神楽も可愛いんだけどな・・・。
「まあ、神楽も俺も、もっと人の心の機微を分かる様にならないと駄目って事だな。」
「はい・・・、 って、マスターもですか?」
俺の言葉に神楽は疑問符を浮かべるが、なんでも無いよと肩を窄めるのだった。
「あ・・・、マスター、私もご相談したい事があるのですが宜しいですか?」
先程の言葉に何か思い至ったのか、神楽からそんな言葉が出た。その神妙な様子に俺は黙って頷いた。
「う~ん、やっぱり神楽の感情制御システムががごっそり無くなっているな。」
神楽の核となるシステム部、そこに有るはずの神楽の感情を制御して暴走しない様にするためのシステムが丸ごと別の物に置き換わっていた。
今俺は、カグラの中にあるサブの制御室で神楽のシステムチェックを行っていた。
あの後、神楽から伝えられた事は今考えて見ると確かに変だと思う様な事だった。それは、本来なら神楽の感情は制御されていて、特定の人物に執着を見せたり一定以上の感情の昂りが起こらない様になっている、その事から考えると確かに今までの神楽の言動や行動は制御されている様には思えなかった、神楽自身も俺達の事を羨ましく思ったり、一人きりなのを寂しく思ったりと今までに無い感情の昂りに戸惑っていたらしい。
最初に神楽を起動したとき、幾ら俺が天照システムの開発者の一人だとしても神楽があんなにも感情を露わにするのは変だったのだが、何故かあの時は特に疑問にも思わずそんな物だと受け入れてしまっていたんだよな。
「そう言えば、神楽は俺と最初に会った時、この姿を見ても怪しいとは思わなかったのか?」
いくら俺自身がコードを使ったと言っても、姿かたちが此処まで違えば、普通なら別の人間がコードを使用したと思うはずだった。
「言われてみれば確かに変ですね、でもあの時は姿形は違うけど、この人がマスターなんだって素直に受け入れていましたね。」
まあ、そのお陰で要らぬトラブルも無く、双方で受け入れられたのだから良かったと言えるのか?
「それで、感情制御システムが無くて何か不都合は起きないのでしょうか?」
「ああ、それについては問題無い、代わりのシステムが稼働しているみたいだから。」
神楽の心配そうな声に俺は即答した、感情制御システムの代わりに置き換わって稼働していたシステム、それに俺は見覚えがあったからだ。天照開発時に実装されていた、天照を育てる為のシステム、開発チームの俺の悪友ともいえる人物と共に組んだ育成システム。既に完成された疑似人格である神楽なら大きな影響は無いだろうとの判断だった、実際天照は感情制御システムが無くても何の問題も無かったからな、あの事件が起こるまでは。まあ、この育成システムを誰が組み込んだのかは謎なのだが・・・。
俺の言葉にホッとした表情を見せる神楽、こう言った感情表現をするのも感情制御システムが無いからだったのか。
「フィーただいま。」
「お疲れさまです、リュシル様。」
俺が部屋へ戻って来ると、フィーが出迎えてくれた、神楽のチェックを行っていたから少し遅くなってしまったから心配させたようだ、神楽を通して遅くなることは伝えて貰ったのだが、心配な物は心配だったのだろう、そんなフィーに俺はほっこりとした気分になった。
どうやら、子供達の服のデザインも幾つか候補が決まった様だ、ホログラムに男女それぞれの服を着た俺が映し出されていたからだ・・・、って、ちょっとまって、男の子の服はまだ分かるけど、なんで女の子の服まで俺がモデルなの? 解せぬ。
き、きっと、この世界の子供のデータが俺とフィーしか無くて孤児院の子供達のサイズだと俺しかいなかった、だから仕方なく、そうだと信じたいのだが・・・。
「ねえ? なんで、女の子の服まで俺がモデルなんだ?」
「「似合うから!」」
綺麗に神楽とフィーの言葉はハモッていた。理由を聞いた事を俺は後悔するのだった。
その後、服のデザインが決まり、今回神楽が手伝った事によりかなりの余裕が出来たため、最初部屋着だけの予定だったのが普段着まで作る事になった。俺も布の裁断や仮縫いぐらいなら手伝う事が出来るからな、流石に本縫いとなるとフィーで無いと綺麗に出来ないが。
そうして、試作品の服が出来た訳なんだが・・・、やはりと言うか、嫌な予感がしてたんだよね。俺は女の子用のワンピースタイプの服を着せられて、フィーと神楽の前に恥ずかし気に佇む、スカートって股がスース―して落ち着かない・・・。そんな俺を見て神楽は「可愛い可愛い」とキャッキャとはしゃぎ、フィーは「マルティナさんの気持ちが分かりますぅ」とうっとりとした表情をしていた。フィー怖い事言わないでよ・・・。
俺は着せ替え人形の様に服を着せ替えられ、服の出来に問題が無い事が分かると、子供達の人数分の服の作成が開始するのだった、俺の心の何かがガリガリと削れてしまったのと引き換えにしてね。
読んで頂きありがとうございます。
何かに目覚めそうになるリュシルんであった・・・。
たぶんフィーさんも・・・。




