過去を思い出している様です
この回は、蛇足的な部分となります、読まなくても本編には影響無いかと思われます。
- プロローグ・ゼロ -
「当機は間もなく~~~上の~~宇宙港へ到着~~~」
俺は、機内アナウンスの声で目を開ける。
腕時計を見ると後10分程で到着する見込みだ。
機内には俺の他には十数名程が乗っていて、降りる準備を始める人も見られた。
まあ、俺は荷物といっても、手持ちのカバン一つと手に持ってるタブレットPCのみだから特に焦る必要は無いけど。
そこで外の景色を見ようと座席の横の壁に手を触れる。そして壁に表示されたOPENの文字をタッチする。
窓を模したディスプレイに、外の景色が映し出される。
一面に映し出される星々の輝き、そして上方に緑の大地と藍色の水を湛えた惑星が見えた。
元々は、緑も水も無い茶色の大地だったなど想像もつかない。
これから俺が配属になる予定の研究施設がある場所だ。
人が住める様にするための惑星改造を行っており、今は最終段階に入っている。
その施設を守る警備軍に配属されたのだ。これでも一応中尉の階級を持っている。
そうこうしているうちに、宇宙港が視界に入ってくる。
この宇宙港は自転車の車輪を2個並べて中心を連結したような構造だった。
そうして、車輪部分がそれぞれ時計回り、反時計回りに回転して、遠心力による重力を発生させる仕組みの様だ。
中心の連結部は回転せず、そこが宇宙港となっている。
まあ、タブレットPCで調べた情報だけど・・・
「当機は間もなく、宇宙港へと入港致します、シートベルトをお締めになり席を立たないようお願いします」
機内アナウンスに従いシートベルトを締めて待つことしばし、軽い振動の後にすこしすると座席シートベルトのグリーンランプが点灯した。
「当機をご利用いただきありが~~~~」
「ふぅ、やっと着いたか。」
俺は背中をぐっと伸ばし、荷物をもって出口へと向かった。
後はシャトルに乗り換えて地上へ向かうだけか、もう少しだな。
タブレットPCのARによって表示される矢印に従って乗り換えの搭乗口へと向かう。
途中小腹が空いたので、喫茶コーナーで軽く食べ物を食べた後、搭乗口に到着。
乗務員にチケットを見せ座席を案内され席に着く、しかし、今だに自動化されず乗務員がいるってのはどうしてなんだろ?
まあ、俺としては、綺麗なお姉さんの制服姿が見れて、ラッキーだけどね。
どうやら俺が一番最後だったらしい、入り口の扉が閉まり、乗務員さんが緊急時の対応マニュアルに従った案内を行い始めた。
ざっと見渡した限り俺の他に7名程乗っているようだ、これから向かう先は観光地って訳でも無いからこんなものなのかな。
もしかすると、俺と同じ様に警備軍への配属者もいるかもしれない。
「本日わ~~~」
機内アナウンスを聞きながらシートベルトを締める。
軽い振動と共に、ゆっくりと宇宙港から離れていく。
十分距離が離れた後に、シャトルは方向転換して、メインエンジンに点火。
加速時のGにより座席に押し付けられる感覚と共に、シャトルは加速して行き、大地がだんだんと大きく迫って来る。
しばし、窓の外に見える大地に見入る。
「地球とは全然違うな・・。」
今の地球は、全てが人工的で不自然な感じがした。
これが本来の自然に近いのかも知れない。
惑星への降下は全て自動操縦にて行われる。パイロットはいるが、非常時の対応をするためだ。
そして、大気圏への突入が始まり。窓の外がオレンジ色に染まっていく。
だがそれも一瞬のことで、映像が自動的に補正され、先ほどと変わらない外の様子が見えた。
その時、大陸の一部で閃光が上がるのが見えた。そして、大陸のあちこちで同じような閃光。
そして、閃光のあった場所を中心に白い雲の様なものが広がって行き、大陸全体をいや、惑星全体を覆っていくのが見えた。
他の乗客もそれに気づいたのか機内がざわつき始める。
このままだと、あの雲の様なもの中に突っ込む事になる。
だが、ここまで来てしまうと引き返す事も不可能であろう。
ただの雲である事を祈るしかないか・・。
雲の様なものは既に成層圏付近まで広がっている様だ。
シャトルはその中に突入した。
ガタガタと揺れる機体。このまま分解するんじゃないかと思い始めた瞬間。
ひと際大きく揺れた後、機内の照明が突然消え真っ暗となり、非常灯だけが点灯した。
そして今度は逆に揺れが全くしなくなった。
シーンと静まる機内・・・。
「もう着いたの?」と、乗客の誰かが呟く。
いや・・・時間的に言ってもまだ、遥か上空を飛行しているはずだが。
しばらくすると、照明が点灯し始める。
恐らく予備電源に切り替わったか。
乗務員さんが機内電話でコクピットと連絡を取ろうとしているが、どうやら繋がらないようで、直接コクピットへと向かって行った。
機長を呼ぶ声と扉を叩く音。
これは・・・何かトラブルがあったようだな・・・
俺は、シートベルトを外し、コックピットへと向かう。
扉の前では、乗務員さんが扉を叩きながら呼びかけていた。
俺に気づいた乗務員さんが席に戻るように促す。
「俺は、軍に所属している者だが、何か手伝おうか?」
身分証を見せながら、手伝うと伝えると。
「・・・、お願い出来ますか?」
少し考え込んだ後、乗務員さんは答えた。
「ええと・・」
「サラ・シーベル、サラと呼んで下さい。」
「分かったサラよろしく頼む、俺は比嘉 透、透でいい」
お互いに挨拶をかわすと、本題に入る。
「現状機長と連絡が取れないって事でいいのか?」
「はい、機内電話も繋がらず、扉を叩いて呼びかけても何も答えない状態です」
俺も扉を叩いて呼びかけてみるがやはり返事が無い。
「解除コードは試したのか?」
「いいえ・・、二人分のコードが無いと解除出来ない仕組みなので・・・」
俺の問いかけに、サラはそう答えた。
二人分か・・。確かこのシャトルは軍が管理している物だった記憶がある。
もしかすると、俺の持つコードが使えるかもしれない。
サラにその事を伝えると、可能性が有るならと試してみる事となった。
扉横にあるパネルに、まずサラがコードを入力する。
そうして、二人目のコード入力待ちとなり、続いて俺のコードを入力する。
エラーとならず、パネルの表示が消えたままとなる。
しばしの沈黙、恐らくコックピット側ではロック解除のアラームが鳴っている事だろう。
このアラームに対して、コックピット側にて、再度ロックをかける事が出来るが、
そのまま何もしないと、一定時間経過後にロックが解除される仕組みになっている。
そして・・・。オープン表示が点灯し扉がゆっくり開いて行く。
俺とサラは顔を見合わせ喜びの表情を浮かべるが、俺はすぐに顔を引き締めると、
サラに俺の後ろに下がる様に指示を出し、開いて行く扉の隙間から中を覗き込む。
俺はその時凄く間抜けな顔をしていたんじゃないかと思う。頭の中には大量の疑問符が浮かんでいた。
そんな俺の姿を訝しそうに見ていたサラも、更に開いた扉から向こう側をみて、俺と同じ様になっていた。
扉の向こうには何もなかった、そこに有ったであろうコックピット部分が綺麗さっぱり無くなっていたのだ。
白い空間?、いやよく見ると、どうやら白い霧の様な物の中にシャトル事飲み込まれて居ると見られる。
そして、その白い霧の様な物は蠢きながら、コックピットの残っていた部分を溶かす様に分解していった。
俺はそれを目にした途端、パネルのクローズのボタンを押す。
ゆっくりと閉まっていく扉に俺は、早く閉まってくれと悪態をついていた。
迫り来る白い霧、ギリギリで扉が閉まり、安堵の息を吐くと。
「な、何なのですあの白い物は? コックピットが無くなっていましたし、そうです機長達は、機長達はどうなったのです?」
サラは青褪めた表情で俺に捲し立てた。
俺にも何が何だか判らないが、とにかくサラを落ち着かせようと口を開きかけるが、その時、客室の方から悲鳴が聞こえた。
今度は何なんだ・・・次から次へと変わり行く状況に思考が追い付かないまま客室へ向かう。
そこは、酷い状況だった。中央付近の天井に大きな穴が開き、そこから、白い霧が入り込んでいた。
そして、その白い霧に飲み込まれた乗客の1人かが少しずつ分解されて行くのが見えた。
先ず表面の皮膚が分解され、そして、その下の筋繊維が徐々に溶ける様に分解されていき骨にまで達してゆく。
なのに、血の一滴もこぼれない。しかもそんな状態なのにその乗客は、生きておりそこから抜け出そうともがいていた。
白い霧に飲み込まれなかった他の乗客もそれを見て、目を背けたり、吐いてしまうものまでいた。
俺は唖然としてそれを見ている事しかできなかった。サラは口を手で押さえ目を背けていた。
我に返った乗客たちが、こちらの通路に避難して来たため、俺たちは通路から出て乗客達を招き入れた。
全ての乗客が通路に避難したその時、サラの足元のすぐ後ろ側に大きな穴が開いた。
バランスを崩し穴の方へ倒れ込むサラ、それを見た俺は咄嗟にこちらに向かって伸ばしたサラの手を掴み引き戻そうとする。
しかし、周りには?まる所が無く、そんな状態でサラを引き戻した為に、何とかサラはこちら側に戻ることが出来たが、入れ替わりに俺がその穴に落ちる事になってしまった。
白い霧の中に沈んで行きながら、サラの方を見ると、彼女は何かを叫びながらこちらに手を伸ばそうとする。
俺はそれを首を横に振って止めさせると、そのまま、白い霧の中に沈み込んで行った。
そこは何も無い空間だった・・・
白い空間、そこで俺の体は少しずつ分解されていった・・・
痛みも何も感じない・・・
そうして全てを分解されて俺の意識は途絶えた・・・




