ギルドへ仮登録してみる
「いらっしゃいませ、当ギルドへどの様なご用件でしょうか?」
そう言って受付嬢さんが笑顔を向けて来た。
彼女は歳は20歳前半だろうか、緩いウェーブのかかった長い髪をしており、その髪の色は綺麗な青色をしていた、目は深い緑色をしており、その整った顔立ちと合わさって神秘的な雰囲気がしていた、流石ギルドの顔となる受付嬢さんと言った所か。でも、初めて見た人は別の所に目が行く事だろう、そう彼女の巨大な双丘へと。
今、俺とフィーは街にあるギルドの支部までやってきている。
なぜ、ギルドの支部に来ているのかと言うと・・・。
フィーと神楽を俺がお仕置きした翌日、神楽にこの世界の恋愛物語りの本を手土産に慰めたあと、今後の調査について相談した時だった。
「マスターに報告しておきたい事が幾つか有るのですがよろしいですか?」
神楽の言葉に俺は頷くと。
「実は、この世界ですが、無線などの電波を使った通信が阻害されていて、使用できないようなのです。」
「原因は分るのか?」
「いえ・・・。恐らくですが大気の成分が影響しているかと思われます。」
カグラの通信設備はかなり高性能だった筈だが、それを使っても駄目となると探査機などを制御しながらの調査が出来ない事になる。いきなり調査が暗礁に乗り上げた状態になってしまった。
これに対する神楽の代替案が、リアルタイムでの調査は無理だが、調査用の端末を外に持ち出しデータを収集しそれを持ち帰る方法だった。
調査にかなりの時間が必要になるが、今はその方法しかなさそうである。
「あと、調査用の端末もそうですが、艦の設備で補修が必要な個所が何か所か有るのですが、それらに使用する資材が不足しています。」
この艦には、小型だが最新の製造用設備があり、そこで補修などに使う部品などを作り出す事が出来るのだが・・・。如何せん元になる材料が無ければ何も出来ないのである。
材料となる物は実際一度分解して、ペレット状に加工してしまうため、どんな物でも良いのだが、それこそ、生ごみでもいいし、生き物の死骸なんかでも大丈夫なのだが、この際なので、この世界の色々な物資を使用して、分析調査を行いながらにしようと決まったのだ。
で、材料を集めるとなると町の外に出ないといけないのだが、5歳児が町の外に出たいといって、父さんの許可が出るはずもなく、なので俺の職技能の物質召喚術の練習の為にかなり広い場所が必要なため、町の外の草原地帯に行きたいと告げたところ、川の向こう側の魔物の森へは絶対近づかない事と、ギルドにて仮登録をおこなってギルドカードを発行してもらい、それを肌身離さず持っている事を条件に許可がもらえた。
そして、ギルドカードを発行してもらうために、ギルドの支部までやって来たのである、ちなみにフィーはすでにギルドカードを持っていた。
「あの~、ギルドへの仮登録をしたいのですが。」
その言葉に受付嬢さんは、え?と言う表情をしていた、周りにいた冒険者だろう人たちもその言葉にこちらを窺う様に見ていた。
まあ、こんな子供が、仮登録とはいえ、ギルドに登録するのは珍しいのだろう。
「えっと、お嬢ち・、さんが登録をするのかな?」
ん? 何か言い直した? てか、お嬢さん? ああ、フィーが登録すると思ったのかな。
「いえ、後ろにいるフィーリアでは無くて、僕が登録したいのですが。」
「え?」
「ん?」
受付嬢さんが、え? と小首を傾げていた。おや? 何か話が通じて無い? ん~もしかして・・・。
「ええと、一応言っておきますが、僕は男ですよ?」
「「「「「え!?」」」」」
なぜか、受付嬢さんだけでなく周りからも驚きの声が聞こえた気がしたけど、俺は男ですよ?
固まっていた受付嬢さんが再起動するのに、数十秒の時間を要した。
「失礼しました、それでは改めまして、ギルドへの仮登録でよろしいですね?」
確認の言葉に、「はい」と答えると。
「では、こちらの用紙に記入をお願いします。」
そう言って一枚の皮紙を渡された、そこには名前や年齢性別などを記入するための項目が書かれていた、仮登録には名前と生まれた年と性別が必要との事で。
それぞれ記入して皮紙を受付嬢さんに渡すと、「お名前はリュシルちゃ・さんですね、少しお待ちくださいね。」と言って皮紙を持って奥へと消えて行った、恐らくギルドカードの準備に行ったのだろう。
程なくして、奥から受付嬢さんが1枚のカードをその手に持って戻ってきた、そして、カードと小さなナイフを俺の目の前へと置いた、ナイフ? と小首を傾げると。
「ギルドカードと本人の情報を紐づける為に血を一滴カードに垂らしてください。」
受付嬢さんの言葉にその為のナイフかと納得した。
そうして、人指し指の先にナイフで傷を付け血を一滴カードへと垂らす。
「リュシル様、指の手当をしますので、手をこちらへ向けて頂けますか?」
フィーが指の治療をどうしてもやりたいと言う事で、お願いする事にして手をフィーへと差し出し、カードの方へ目を向ける。 かぷっ・・・。
ん? 今何か、まあいいか。カードを見ると、全体が淡く光り出しそれに合わせて、垂らした血が吸い込まれるように消えて行った。
しばらくするとその光も消えた為、これで登録が終わったのか確認しようと受付嬢さんを見ると、彼女は何故か唖然とした表情をこちらへと向けていた。
いや、こちらと言うよりフィーを見ている? その視線が気になり、俺もフィーの方を見てみる。
――!? ちょ、フィーさんなんで俺の指を口に銜えているの? 俺は固まってしまい、受付嬢さんは唖然としており、周りにいた人達は、羨ましそうにしていたり、頬を赤く染めたりと様々な反応をしていた。
固まったままでいると、フィーは指から口を放し、濡れた指を清潔な布で拭き取り、小さく裂いた布を包帯の様に指へと巻いていった。
「はい、リュシル様手当が終わりましたよ、リュシル様?」
俺が固まっているのを見て、フィーはどうかしましたか? と首を傾げていた。
「あの~フィーリアさん? なんで治療するのに指を口に銜えていたのかな?」
「えっと、それはリュシル様の指の傷にナイフから雑菌が入っているといけないと思ったので、それを吸い出す為にフィーの口で血を吸い出していたのですが、何か不味かったですか?」
フィーは衝撃の内容を語った。
「ちょ、フィー、口でなんてそんな事しちゃ駄目だよ!」
その言葉に、受付嬢さんや周りの人たちは衆目の前でそんな事しちゃ駄目だよなと、うんうんと頷いていた。
「そんな事して、血を吸い出したら、フィーが雑菌を取り込んじゃうだろ!」
そんな事をして万が一フィーが病気になったら嫌なのでキツメに注意をした。
「「「「「「そっちかよ!」」」」」
受付嬢さんと周りの人たちから、突っ込みの声が上がっていたが、それ以外に何があるんだろ? 毒蛇に噛まれた時にその毒を他の人が吸い出したりすると、その人まで毒を取り込んでしまったりして、危険だったはずだ。そんな事を考えていると。
「ごめん・なさい・・・。」
そう呟いてフィーは涙目となり俯いてしまった。
「――!? ご、ごめんよフィー、せっかくフィーが俺の為にと思ってやってくれた事なのに頭ごなしに叱ったりして・・・。で、でも、俺もフィーがその事で病気とかになったら嫌なんだよ? だから、ね? 機嫌なおしてよ。」
俯いてるフイーの頭を優しく撫でてあげると、フィーも機嫌が良くなり照れた様な笑顔を見せてくれた、俺もそれに応えて優しく微笑んであげた。
ふと、周りを見ると・・・、受付嬢さんがカウンターの前で見悶えており、周りの人たちも、女の人は受付嬢さんの様に見悶えていたり、うっとりとした目でこちらを見ていたり、男の人たちは、羨ましそうに嫉妬の目を向けたり、壁に向かってちくしょーと叫び泣いていたりしていた。
あれ? もしかしてやっちゃった・・・? そう思いながらもフィーの頭を撫でるのは辞めないのであった。
そこには、上機嫌でニコニコ笑顔のフィーと頬を染めて、何処か気まずそうな様子の受付嬢さんがいた。
「コホン、え~ギルドカードにちゃんと登録されたか確認してみますね。」
咳払いを一つして、受付嬢さんは、カードを横に有る機械へと通すすると、機械のパネルに俺の名前と”H”の文字が表示された、恐らくこれが今のランクを表しているのだろう。けっして俺がHなのではないはずだ・・・。
「どうやら、問題無いようですね、では、カードをお返しします。これであなたもギルドの一員です、申し遅れましたが、これから、あなたの担当をさせていただく事になる、マルティナです、よろしくお願いしますね。」
「はい、よろしくお願いします。」
どうやら受付嬢さんは、マルティナと言う名前で、今後は俺の担当になるらしい。
お互いによろしくお願いしますと挨拶を交わす。
「でわ、これから、ギルドについてのご説明を致します、よろしいですか?」
その言葉に俺は、彼女を見上げてコクンと頷く。
「!? で、ではまず、ギルドについての説明ですが、ここは、ギルドの支部となっており、本部は王都にあります、ギルドと言っても、冒険者ギルド、商人ギルド、鍛治師ギルドの3つのギルドが集まって、一つの大きな総合ギルドとして機能しております。」
「以前はそれぞれのギルドで勝手気ままにやっていたのですが、百年ほど前にある一人の人物が現れ、なんとその人物は、それぞれのギルドでランクSを獲得してしまったのです、そして、それぞれのギルドは、その人物にギルドマスターになって欲しいと打診してきた、しかし、さすがにギルドマスターを兼任する事は無理だと周りの者は思っていたが、その人物が出した答えはなんと、バラバラだったギルドをこの際だから一つにまとめてしまおうと言う物だった、そうしてその人物はギルドを一つに纏め初代の総ギルドマスターとなったのです。」
「そのお陰で今の様にギルドに登録するだけで、それぞれのギルドとスムーズなやり取りが出来る様になったのです。此処まではよろしいですか?」
二度目の確認の言葉に俺は、コクコクと頷く。
「!!? つ、次にランクについてのご説明をします、リュシルちゃ、さんのランクは仮登録のため、ランクHとなっております、受ける事の出来る依頼は、一つ上のランクGの依頼までとなります。」
依頼は一つ上のランクまでなら受けれるのか、この辺はゲームの時と同じだな、ただ、仮登録なんて無かったから最初はランクGからだった記憶がある。
「依頼については、そちらにある依頼ボードへと張り出されている依頼書を受付まで持って来ていただくことで受注の手続きを行います。ただし、依頼の中で、採取などの常時受け付けの依頼については、素材を入手してから、買取の窓口に素材を持って来て頂ければ、その場で受注と同時に依頼完了となります。」
常時受け付けの依頼は、俺には収納庫があるから、必要な時にそこから取り出して依頼完了とか裏技が使えたりするのか・・・。
「ただ、仮登録の場合は、依頼を完了していっても、ランクが上がる事はありません、本登録をするまではランクはHのままとなります、しかしながら、ランクは上がらないですか、功績ポイントは記録されますので、本登録時にその功績ポイントにより、ランクGを飛ばして、FやEのランクとなる事も有るので、どんどん依頼を完了して行って下さいね。」
「あと、依頼を受注した後に、その依頼が達成出来なかった場合には、違約金が発生しますので、注意してくださいね。違約金は基本報酬の一割となります。最後にカードについての説明をしますね、よろしいですか?」
三度目の確認の言葉に俺は、コクコクコクと頷いておいた。
「くっ!!!? なんて破壊力なんでしょ・・・。い、いえ何でもありません、それでは、ギルドカードについて説明しますね。」
マルティナさんは、顔を赤くして息が荒くなっていた、一気に説明してたから、疲れちゃったのかな? 少し休んでからでも良いのですよ?
何故か俺の横ではフィーがドヤァと言う感じの表情をしていた。うん、フィーのドヤ顔可愛いからいいんだけどね?
「お渡ししたカードは仮登録の物ですが、カードの機能としては、本登録したカードと違いはありません、ですので、身分証の代わりとしても使えます、カードは本人にしか使用出来無いのでわざわざ盗んだりする人は居ないと思いますが、無くされますと再発行に銀貨5枚が必要となりますので管理はしっかりとお願いします。」
「それと、カードの機能では無いのですが、カードの本人の認証機能を使って、ギルドにお金を預けて頂き、そのお金を他の町のギルド支部や出張所で受け取る事が出来ます、ただし手数料として一律銀貨1枚が必要になりますので注意してくださいね。」
前の世界の銀行の様な機能が有るらしい、たしかに、俺の様に収納庫持ちとかなら良いが、それ以外だと大量のお金を持ち歩く事になる、落としたり盗まれたりすると目も当てられないだろう、そう言ったリスクを回避出来るなら、手数料がかかっても、預けるメリットはありそうだ。
「最後にこのカードは特殊な魔道具を使用する事によりカードの位置が特定出来る機能があります、まあ、プライベートに関わる部分も有るので、その魔道具を使用するには、ギルドマスターか領主様の許可が必要になるのですが。」
ああ、父さんがカードを肌身離さず持っていろと言ったのはそう言う意味だったのかと納得するのであった。
「以上となります、何かご質問はありますか?」
特には無いけど。一つだけ気になった事が・・・、マルティナさんの、その、胸が・・・、体を動かすたびにぶるんと揺れるんだけど・・・、一体サイズは・・・、ああ、いや、これ以上考えるのは止めておこう、なんか横から黒い気配が漂って来たからね。
「と、特には在りません。」
俺は内心で冷や汗を掻きながら答えるのだった。
「それでは、今後ともよろしくお願いしますね。」
「よろしくお願いします。」
そう言って、マルティナさんは微笑み、俺も笑顔を返しておいた。
「・・やっぱり我慢出来ない・・・。」
ん? マルティナさんが何か呟いた様だったけど・・・。
「抱きしめてもよろ・・・。」
「だめです。」
マルティナさんの言葉をフィーが途中でバッサリと切り捨てた。
ちょ、ダメだよフィー、人が喋ってるのを途中で遮っちゃ、フィーに「ダメなんだからね」と嗜め落ち込むフィー、それを見て慌てて頭を撫でてあげる俺、機嫌が良くなるフィー、と一連のルーチンワークを終え、続きを促そうとマルティナさんの方を向いたその瞬間。
俺の顔は何か柔らかい物に包まれ前が何も見えなくなった、何事!? てか、い、息が出来ない、フィー助けて! 俺の心の叫びは意味をなさなかった、なぜならフィーまで抱き寄せられていたからだ、モガモガと抵抗していたが、あ・・だめだ・・意識が・・・。
意識を失う寸前、駆けつけた女性職員さんに助け出された俺達。どうやら、我慢の限界を臨海突破したマルティナさんにカウンター越しにと言う器用な状況でその双丘に抱きしめられたらしい、周りの男達(何故か一部の女性達も)は、羨ましそうな顔をしていたが、やられた本人は死にそうになった訳で・・、なんかトラウマになりそうだった。
その、マルティナさんは、女性職員さんに奥へと引きずられていった。「もっと、抱きしめるのぅ」と言うマルティナさんと「私だって抱きしめたいわよ」と言う女性職員さんの声は聞かなかった事にしよう。
あの~俺たちはどうすれば良いのでしょう・・・。
少ししてその女性職員さんが戻って来て謝罪してきたが、どうやら、マルティナさんは、可愛い物に目が無いらしく、たまに暴走するのだそうだ、「今までは仕事中に暴走する様な事は無かったのだけど・・・。」そう言ってじっと俺を見る女性職員さんの目は何だか潤んでいた、身の危険を感じた俺達は後は特に何も無さそうなのでそそくさと、その場を辞するのだった。
俺とフィーはそのまま依頼ボードの前まで来るとランクHとGの依頼をチェックしていく、ランクHの依頼は、荷物運びや庭の草刈りや簡単な野草などの採取といった、所謂雑用物が殆どだった報酬も銅貨数枚程度となっていた。
それに対してランクGは、食肉用や素材用の獲物の採取や、低ランクの魔物の討伐依頼、魔法薬などに使う薬草の採取などとなっており、報酬も銅貨数十枚~銀貨数枚となっていた。
今日は初日と言う事で、常時依頼物のチェックをして、ギルドを出て、東門へと向かうのであった。
読んで頂きありがとうございます。フィーリアとリュシルのいろんなやり取りなんかも、ギルドの風物詩になったりならなかったり・・・。
この国の通貨単位ですが、銅貨100枚=銀貨1枚 銀貨100枚=金貨1枚 金貨100枚=白金貨1枚となります。銅貨10枚あれば一家族が一日食べていけるぐらいです。




